4月号
神戸大学医学部附属病院整形外科 第1回 整形外科ってどんなところ?
子どもから高齢者まで、日頃お世話になる機会が多い整形外科。どんな研究や治療が行われているのでしょう?私たちが知らないことや役に立つ情報など、神戸大学医学部附属病院整形外科でお聞きします。
シリーズ第1回は、診療科長の黒田良祐先生です。
体を動かすことに関わる部分の痛みや外傷を治療
―整形外科とは。
「運動器」と呼ばれる骨、関節、脊髄、神経、筋肉など、体を動かすことに関わる部分を治療するのが整形外科です。主に腰、肩、首などの痛みの治療や、事故での骨折のような救急の患者さん、ねんざのようなスポーツでけがをした患者さんなど、外傷の治療もあります。
―腰、肩、首などの痛みはなぜ起きるのですか。
加齢によるものが多く、首から腰にかけて背骨に並んでいる小さな四角い骨の前側がすり減って台形に近くなり、体が前傾する「変形性関節症」や横に傾く「側彎症」に起因します。中には痛みを感じて受診したら骨折していたというケースもあります。骨密度が低くなる「骨粗しょう症」によるものだと分かり、引き続き投薬による治療、さらに真っすぐ歩いて転倒のリスクを回避できるような生活指導など、専門外来で内科的な役目も一部担っています。重症の患者さんで手術の必要があればそれぞれ専門の整形外科医が担当します。
―がんも多いのですか。
今や「2人に1人ががんになる」などといわれる中、骨のがんは他の臓器のがんに比べてそれほど多いというものではありません。最も怖い骨のがんが「骨肉腫」ですが、そのほとんどが若年層に発症します。子どもさんでは、成長期の痛みだと思っていたら骨肉腫だったというケースもあります。中高年では、他の臓器から骨への転移が多く、がん患者さん全体の数が増えるにつれて増加傾向にあります。加齢による腰痛だと諦めていたけれどなかなか改善されず、検査してみたら骨のがんだと分かり、さらに調べていくと本人も気付いていなかった臓器のがんが発見されるケースもあります。転移する前に健診での早期発見が大切なのですが、コロナ禍での健診控えが影響しているのでしょうか…骨への転移が幾分増加しているようです。今はちょっと心配な状況です。
スポーツする人をフィジカル・メンタルでサポート
―神戸大学の整形外科ではスポーツ医療にも力を入れておられますね。
私を含め、スポーツ整形外科の専門医が複数人いますので、スポーツによる損傷で来院される患者さんは多いですね。兵庫県内にはプロスポーツチームが多いという背景もあったのでしょうか、20年ほど前からメディカルサポートしてきたという経緯があり、アマチュアや一般の方のスポーツ損傷への対応でも定評があります。
―サポートしているチームは。
オリックス・バファローズ、ヴィッセル神戸、INAC神戸レオネッサなどプロチームをはじめ、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、パナソニックパンサーズ、久光製薬スプリングスなど企業チーム、大学体育会のサッカー部やアメリカンフットボール部などのチームドクターを務めています。
―チームドクターは選手のけがや不調の治療に当たるのですか。
治療はもちろん、けがの予防や体調管理についてアドバイスすることも役目です。シーズン中は公式試合に帯同しますし、日頃から信頼関係を築けるよう心掛け、シーズンオフのキャンプには週末を中心に同行して選手たちの状態をチェックしながら、コミュニケーションを取るようにしています。
―それぞれ先生ご自身が経験したスポーツのチームドクターになるのですか。
チームドクターは理学療法士やアスレチックトレーナーと連携し、選手たちのけがや体の状態を常にメールでやりとりしながら練習方法をアドバイスします。ある程度その競技に精通していなくては難しいですね。
―黒田先生ご自身は?
実際にやっていたのはラグビーです。ボールの動き、どういう時にけがのリスクがあるかなどの予測はやりやすいですね。私も肩は脱臼、鎖骨骨折、膝の靱帯を切る…いろいろあり、手術もしました。治療に専念する時間はすごく長く感じられるもので、プレーができない悔しさや焦りはよく分かります。どんなスポーツでも選手本人のメンタルケアをはじめ、コーチや親御さんへのアドバイスで経験が役に立っていると思います。
年齢に応じて自分に合った運動を無理なく継続すること
―日頃から患者さんの治療で心がけておられることは。
基本的には手術しないで治せる方法はないかを考えます。理学療法士と相談しながら、筋肉の弱い部分を鍛えてあげる方法やサポーターやテーピング、靴の中敷きなどを使って補助する方法などで痛みを軽減してあげられるようにしています。
―中高年が注意することは。
年齢を重ねると筋肉量は減り、70代になると20歳のころのほぼ半分になっていると考えてください。増えた体重を支えようとすると骨に大きな負担がかかりますから、肥満は禁物です。過度な運動は骨や筋肉を傷めてしまいますから避けなくてはいけません。トレーナーの指導を受けること、特に骨粗しょう症がかなり進行している場合は整形外科で相談していただくのも一つの方法です。ずっと続けてきたスポーツをやめたくない気持ちはよく分かりますが、無理のないように自分に合った運動を継続することが大切です。
―幼いころからスポーツに打ち込む子どもさんが気を付けることは。
骨の成長期にある子どもさんは肘や膝の関節に「骨端症」を発症します。ところが練習を休みたくなくて痛みを隠し、治療が遅れることがあります。運動が続けられなくなるばかりか、成長にも障害が生じます。周りにいる大人が気を付けてあげなくてはいけませんね。
―ありがとうございました。第2回から、痛みや不調の予防や対処方法、最新の治療法などお聞かせください。よろしくお願いいたします。
私だけでなく、専門的に研究している若手ドクターも各分野にいますので、テーマに合わせて対応させていただきます。こちらこそよろしくお願いいたします。