2020年
2月号

「神戸で落語を楽しむ」シリーズ  笑いで介護者にも笑顔を

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人, 神戸

落語家 笑福亭 學光 さん

名付け親は、はらたいら

─お名前の読みは「がっこ」なんですね。
うちの師匠の笑福亭鶴光も「つるこう」ではなくて「つるこ」なんですよ。聞いた話では「つる子」と女性に間違われるので、あえて「つるこう」と言ったようで。正しくは「がっこ」です。
名前は、漫画家のはらたいらさんが付けてくれました。うちの師匠と仲良くて「鶴光の弟子やから“光”は付けて」とだけお願いして、尋常小學校の“學”の字で漫画チックな名前をいただきました。画数も占い師さんに見せてくださって「これで売れるやろう」って。新宿ゴールデン街の路上で、鑑定料2千円やそうですけど。

─銀行員から落語家に。なぜ?
地元徳島の銀行に就職したんですけど「なんで辞めたん」ってよく聞かれます。漫才や笑いが好きで「大阪支店に行かせてくれ」って言ったら「ダメや」いわれて「ほな辞めるしかないなぁ」って。若気の至りです。
大阪に出てきて落語と出会い「いいなぁ」って思ったんですけど、田舎の子ですから落語家になるすべも知らなくて、松竹芸能の養成所に入りました。角座の寄席をタダで見られるし、ぬいぐるみショーとかアルバイトも紹介してくれて。そこで司会をしている人に「落語家になりたいんです」と話したら、笑福亭鶴光師匠を紹介してくれたんです。嬉しかったです。笑福亭かぁ~。カッコイイなぁ~って(笑)。

─鶴光師匠の一番弟子ですよね。
紹介者から「何月何日に師匠のところへテープに落語をひとつ入れて持って行きなさい」って言われたんかなぁ。持って行きましたけど、テープの話も何もせずに「運転免許証持ってるか?」「持ってます」で、弟子入りです。
同じ日、僕より先に高校生の男の子がいたんですが、僕の方が年上なので一番弟子に、男の子が二番弟子。土日だけ通いで来るようになったその二番弟子が、シンガーソングライター・嘉門タツオ君です。彼は5年で辞めましたが、一緒にいっぱいしくじりました。今も交流があるんですよ。

─初舞台の思い出は?
神戸の柳原にあった「柳笑亭」でした。細長い100人も入らないちっちゃな小屋で、もとまち寄席・恋雅亭の前身となる寄席ですね。舞台裏がすぐ楽屋で狭かったんですよ。ネタは「平林」かな。後ろには仁鶴、鶴光、福笑など蒼々たる人がいるなかでトップに出させてもらいました。
当時、何かしくじっていたのか丸坊主でして。ネタのことだけで精いっぱいなのに鶴光師匠が「學光、舞台に上がったらな『昨日、刑務所から出てきました』って言え。ほな、ドカーンと爆笑になるから、その後落語に入れ」って。緊張している中、舞台にあがって「昨日、刑務所から出てきました」って言ったら客席は「シ〜ン・・・・・・」ですが楽屋は大爆笑でした。その後何を喋ったか覚えてないですが15分のネタを10分くらいで下りてきたような気がします。楽屋へ戻るのが辛かったです。

広がりをみせる「お笑い福祉士」

─學光さんといえば「お笑い福祉士」の講師をされていますね。活動についてお聞かせください。
地元の徳島で、落語を教えて欲しいとカルチャー教室の誘いがありまして。教えるなら発表する場もいるし、だからといって会館借りるのも大変やなと思った時に、先輩方と訪問しているボランティアとつながったんです。
地方での落語会の次の日が休みの時は、ボランティアで介護施設を訪問していました。笑いを学ぶだけでなくこういう活動も大切だと思い、生徒さんたちとも介護施設に行くようになりました。
活動を続けているうちに生徒さんから「資格があった方がいいですね」って言われて、社会福祉士や介護福祉士という国家資格があるから、我々は笑いを届ける「お笑い福祉士」って名前を付けました。2004年から始めて、徳島や高松、大阪、姫路、奈良、和歌山。東京と広がり、今では500人あまりの受講生が施設を訪問しています。

─どんな噺をされるんですか?
きっちり古典落語をする人もいますが、落語を基本にみなさんいろいろ工夫されています。例えば、嫁と姑の話や旦那さんの悪口など身近な話を自虐ネタにして笑いに変えている方もいれば、腹話術や玉すだれをする方もいます。生徒さんの中には介護施設だけでなく病院や学校で働いている方もたくさん来られます。皆さん大変なお仕事で身も心も疲れているんです。高齢者を元気に!と始めた教室ですが、ボランティアに行くと施設の高齢者だけでなく生徒さん自身が元気になっていくんですね。現役看護師さんの医療現場での体験話は、私たちプロでも真似できない面白い話に出来上がっています。介護される方々はもちろんですが介護している家族や現場の方たちに笑いを届ける!そんなこともこれからは大切なんだと思うようになってきました。
私自身もそんな生徒さんからたくさんのことを学び、リハビリ落語「東京飛脚」や認知症落語「親の老いを受け入れる」、終活落語「三途の川も近代化」などが出来ました。
新開地でも阿波踊り

─阿波踊りにも力をいれておられますね。
私は徳島市内で育ったのではなく田舎育ちなので市内の有料演舞場の阿波踊りを見たことがなかったんです。もちろん私の田舎にも阿波踊りはありましたが、踊りを見るよりも夜店を冷かしながら友達と食べたり話したりしていました。ですから落語家になってから大阪の人たちに「すごいなぁ」「連れて行って」と言われ見に行った時、自分が一番感動していました。
それから、徳島の講師をお招きして阿波踊りを習い「はなしか連」という阿波踊りグループを作りました。落語会で自己紹介するときに踊ることもあります。もちろん落語家仲間も徳島の阿波踊りを見に来てくれました。先代の五代目文枝師匠(当時は桂小文枝)や桂春団治師匠・・・。私にとって神さまのような師匠方に親しくして頂きました。阿波踊りにそして故郷に感謝です。
2月2日に喜楽館で「落語と阿波踊りの会」をします。最初に僕が落語をして、第二部は「はなしか連」の落語家さんによる阿波踊り大喜利、そして神戸で活動している連の皆さんと舞台で輪踊りをして、最後に徳島から来ていただいた四宮賀代さんの率いる阿波踊りグループ「虹」の踊りも見てもらいます。たった9人のグループですが見応えがあります。
昨年は新開地夏祭りにも参加したんですよ。
喜楽館には落語だけでなく阿波踊りまでさせていただき感謝しています。これからも新開地を落語と阿波踊りとお笑い福祉士で盛り上げられたらと思っています。


神戸新開地・喜楽館

TEL.078-576-1218
新開地駅下車徒歩約2分
(新開地商店街本通りアーケード)

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