1月号
中西勝記念館|「無字庵」オープン
テロワールな絵画を醸した稀代の画家の人生がここに
昨年の12月7日、御影、鴨子ヶ原に中西勝記念館「無字庵」がオープンした。
神戸を代表する洋画家の一人、中西勝画伯は1924年生まれ。武蔵野美大を卒業後、田村幸之助や小磯良平の薫陶を受け、その後美術教師を務めながら筆を握ったが、昭和40年代前半に2台の「かたつむり号」を駆りつつ時には汽車に揺られ地べた往き、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパ、北アフリカなど足かけ5年かけて世界を一周。帰国後、その大旅行で磨いた感性を武器に精力的に作品を発表、世界各地の土着の人々とふれあい、彼らのリアルな生活に触れた体験を力強くも落ち着いたトーンで描き、どこか土の香りがする作風に仕上げた。1972年に「大地の聖母子」で第15回安井賞を受賞したのはその大きな成果だ。その後も長らく二紀会の重鎮として神戸、兵庫の文化振興に尽力し、90歳まで生田神社の新年の風物詩、干支の大絵馬を描くなど晩年も矍鑠。2015年に95歳で亡くなる直前までイーゼルの前に立った偉大な芸術家だ。
いまは亡き中西勝・さく子夫妻の邸宅とアトリエを健在の頃とほぼ変わらぬ趣きで公開している「無字庵」。強烈な個性と豪放磊落な人柄で交友も広かった画伯が数々の客人を招いては盃を交わしていた主屋1階の応接室は、ほぼ昔と変わらぬあやしげかつ心地良い空間を保ち、いまにも画伯が現れ歓迎の銅鑼を打ち鳴らしそうな雰囲気だ。2階の「勝の部屋」には若き日の作品が、「さく子の部屋」には大好きだったモロッコを中心に世界の旅のワンシーンを描いた作品とさく子夫人が好んだ印版手の器が並ぶ。
離れのアトリエはパレットや絵筆、昔のアルバム、蔵書などが置かれ画伯の作品が生まれた空気感が体感できるだけでなく、油絵からリトグラフまで多彩な作品に胸躍る(定期的に展示替えする予定)。その地下には画伯が収集していた民具や民族芸術品、よくわからない摩訶不思議なものまでざっくばらんに収蔵され、中西ワールドが健在。茶室ではさく子夫人が愛用した茶道具と画伯の芸術がコラボし、仲睦まじかった夫婦の絆を感じさせる。
ほかにも画伯自ら石段などを設け手入れした庭や畑、車輪の塀、随所に描かれた愛嬌ある落書き、趣味だった回文が書かれた木っ端など隅々まで見どころ多数で、主なしとて空間自体が生命力を放っている。
開館は金~日・祝の11時~17時(最終受付16時)で入館無料。神戸市バス「鴨子ヶ原3丁目」下車すぐ。画伯を知る人はもちろん、知らない人も愉しめるワンダーランドへぜひ。
中西勝記念館 無字庵
神戸市東灘区鴨子ヶ原3-4-12
開館日 金曜・土曜・日曜・祝祭日
開館時間 11時~17時(最終受付時間16時)
入館料 無料
TEL.078-811-8118