2019年
8月号
8月号
兵庫県のANDO建築探訪 ⑧
兵庫県 木の殿堂 兵庫県美方郡 1994年完成
1992年、スペイン・セビリアで開催された万国博覧会の日本館を設計しました。“国際化時代における日本のアイデンティティー”を紹介する、テーマは“生成りの文化”でした。この伝統美学に応えようと、世界最大級の木造パビリオンを設計しました。木造といっても、最先端の建設技術を駆使した構造で、造形作法も日本の伝統様式にはこだわりませんでした。重要なのは日本ならではの、自然をあるがまま愛でる感性、それを形ではなく、素材や組み物の捉え方、精神性の部分で表現しようと考えたからです。
この日本館のコンセプトを、仮設ではなく恒久的な施設として実現したのが、《兵庫県 木の殿堂》でした。セビリア万博から2年後の1994年、兵庫県の但馬で開催された全国植樹祭にあわせてつくられた木の文化の紹介施設です。
敷地は《木の殿堂》の名に相応しく、鬱蒼とした森に囲まれた場所にありました。その深遠な木々の風景を損なうことなく、その中に埋没するような建築にしようと、出来る限り単純な造形を心掛けました。代わりに施設を貫いて背後の森へと一直線に伸びていく通路をギリギリいっぱい引き延ばしています。森の中の施設を訪れる、その空間体験全体を通じて、人間生活と関わる“木”の存在を感じられる場所になればと考えていました。
直径46メートルの円形平面の建物の中心は、ぽっかりと空に抜けた“無”の空間です。その空洞を抜けて、木々に挟まれた通路を奥へと進むと四周を見晴らす展望台に行き当たります。ここから望む、のどかで美しい里山の風景が、《木の殿堂》のクライマックスです。
■兵庫県 木の殿堂
兵庫県美方郡香美町
村岡区和池951