7月号
縁の下の力持ち 第13回 神戸大学医学部附属病院 遺伝子診療部
遺伝に関する不安や悩みを受け止め理解を助ける
外来や病棟で患者さんの治療に忙しい毎日を送るお二人の先生。遺伝子治療部では、遺伝に関して不安を抱える人たちの悩みを受け止め理解を助ける時間を持っておられる縁の下の力持ちです。
―遺伝子診療部とは。
粟野 遺伝に関する不安を抱えて相談に来られた方に、遺伝疾患の発症や発症のリスクの医学的・心理的な影響を理解し、それに適応することを助けるプロセス、いわゆる遺伝カウンセリングを提供する部門です。決してこちらから解決法を提示して指導するものではなく、最終判断はご自身に委ねます。間違った知識を持っていたことを知って安心される方もおられますし、遺伝学的検査に進まれる方もおられます。
―遺伝子診療部にはどんな先生方が関わっておられるのですか。
粟野 小児科の私、腫瘍・血液内科の豊田先生をはじめ、循環器内科、神経内科、産婦人科、耳鼻咽喉科などの専門医が集まり、その他診療科の先生方とも連携して対応しています。医師だけでは指示的なイメージを与えてしまうので、遺伝子カウンセラーも常駐して、違った観点からお話ししています。
―どんな相談に来られる人が多いのですか。
粟野 がんが遺伝するのではないかという相談で来られる方は多いですね。
―そういったケースでは豊田先生がお話ししてくださるのですね。
豊田 私は胃がんや乳がんなど固形がんと呼ばれるがんの薬物療法を専門としていますので、がんの遺伝に関して不安を抱えている方に、他の専門の先生方とも連携してチームで対応しています。例えば、「家族ががんになったので自分もなるのでは?」「がんになったので子どもに遺伝するのでは?」などという相談は多いですね。病気には複数の要因が重なっています。髪の毛の色や顔かたちなど、誰もが親に似るのと同じように、体質としてがんになりやすさを親から受け継いでいる場合もありますが、がんが全て遺伝によるわけではないという基本的な知識をまずお伝えします。
―遺伝子検査とはどういう検査を受けるのですか。受けたほうがスッキリするように思いますが…。
豊田 ほとんどが血液検査です。結果の受け取り方の違いはありますね。検査でがんになりやすい体質を親から受け継いでいることが分かったとして、「自分もなるんだ」と受け取り、「子どもや兄弟に伝えるべきか」とますます悩んでしまう方もいれば、「これから気を付けよう」と前向きに考えられる方もおられます。じっくり時間をかけてお話ししながら一人一人に合ったサポートを心掛けています。ただし、ある種の遺伝子に効果を発揮する抗がん薬が開発されていますので、それに関する相談や、使う薬の決定のための検査を主治医の先生から依頼を受けるケースもあり、がん治療に関する遺伝子検査には新しい側面も出てきています。
―外来や病棟での治療だけでも激務といわれる上に、なぜ
遺伝に関する相談にも時間をかけて応じようと思われたのですか。
粟野 私は小児科医として、遺伝疾患の患者さんを多く診療しています。その中で自分の体質が遺伝したのではないかと考えているご両親や、一人目の子どもさんが遺伝疾患を持って産まれたので今後の出産に不安を持つお母さんなど、悩みを持つ多くの患者さんの家族に接してきました。しかし外来や病棟では時間的な制約が大きく、対応が不十分でした。その延長線上として遺伝カウンセリングというシステムの中でなら、ゆっくりと時間が取れるという思いがあります。
豊田 私はがんを専門としていますので、遺伝性腫瘍の発見が遅れるという多くのケースを見てきました。もっと早く分かっていれば治療ができたのにという思いがあり遺伝性腫瘍を専門とし、遺伝子診療部がいろいろな診療科の医師が集まるシステムに変わる時に、仲間に入れていただきました。元々、人と直接接する仕事がしたいと医師になった私にとってとても良い機会を頂いていると思っています。
―まさに縁の下の力持ちですね。心強いです。
神戸大学医学部附属病院
遺伝子診療部
副部長 豊田 昌徳さん
神戸大学医学部附属病院
遺伝子診療部
副部長 粟野 宏之さん