2019年
7月号

音楽のあるまち♬21 
時代の風を程よく受け入れ、 変わり続けて変わらないジャズ喫茶

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人

MOKUBA’S TAVERN マスター 小西 武志 さん

〝レトロな雰囲気〟というひと言では片づけられない、時代の風を程よく受け入れながら、今に迎合するわけでもない。1977年オープン以来、木馬は変わり続けて、変わらない。

木馬3軒目までの歴史の産物

―珍しいモノがいろいろありますね。

この3軒目の店まで40年、どれもずっと持って歩いたモノ、木馬の歴史の産物です。僕自身はどんどん年を取って人相が変わってきているけれど、モノたちは変わらない。蓄音機の音が鳴らなくてもいいし、川崎造船所時代の扇風機は動くけれどその機能を使うことには意味がないし、レジスターもピアノも使っているわけではない。でも、このモノたちをどこに置くかを基に木馬をレイアウトしてきました。

―1軒目は1977年、三宮センター街でオープンしたそうですね。

ジャズ喫茶は1945年ごろから流行り始め、77年にはピークは過ぎていました。それでも周りにはたくさんありましたね。「今からでは遅いかな」という思いはありましたが、とりあえずやってみようと。ジャズに限らず、若い頃からポップスやフォークを聴き、ジャズの基本ともいえるクラシックも好きですし、いろいろなジャンルの音楽を聴いてきました。サラリーマン時代に集まったレコードは2千枚以上、木馬をオープンしてから気が付けば約8千枚にまで増えていました。莫大な投資はしたのに、お客さんはコーヒー1杯で1時間、2時間座っている。「これでは商売にならんな」と(笑)。でもそれが、寛げる要素になったのでしょうね。

―2軒目に移転した訳は。

オープン18年目に起きた地震です。迷いましたが「また始めるしかないな」と、木材を運んでもらって8カ月かけ床も壁も全て自分たちの手で造った、個性的なお店でした。

―10年後、3軒目に移転したのはなぜ?

2軒続けて地下でしたので、光が入って、外が見えて、自然の風が通る店にしたくて。年を取ってくると健康を考えないとね(笑)。トアロードの表通りにはずっと憧れがありましたから、気に入った物件が見つかり移転を決めました。

ライブは新たな想像力を掻き立てるもの

―オープン当初から精力的にライブを開催してこられたそうですね。

ライブはたくさんやりましたね。レイ・ブライアントやシダー・ウォルトンなど海外からもたくさんミュージシャンが来て、琵琶湖バレイで開催されていたジャズフェスティバルのアフターでエルビン・ジョンズがやって来たときも大盛況でした。スティングが大好きな僕にとっては、ケニー・カークランドが来たことが一番の思い出です。

―最近、頻繁にはライブを開催していないですね。

年末恒例のライブの他は、思いつきで年に2、3回かな。この店のキャパの問題もあるのだけれど、何カ月も前から予定して束縛されるのはあまり好きではないのでね。決まったメンバーで決まった時期のライブというのはサラリーマン化しているようで僕自身が我慢できない。ライブはいつも新たな想像力を掻き立てられるものでなくてはいけない。「いいメンバーだな」と思ったら、やろうという気持ちになります。ジャンルもジャズにこだわる必要もなく、いつもふらっと木馬を訪ねてくれる神戸在住の松本隆さんの世界も4月に開催しました。

本質は変わらない。
でも変わっていくことが大切

―長く続いてきた理由は何なのでしょうか。

40年以上、木馬の本質は変わりません。しかし時代の流れの中で自分自身も変わってきているのですから、店の形態も変えていかなくてはいけないと思っています。変わらないということは、変わり続けること。古典的なやり方を固持することは、僕自身できないし、変わり続けなくては長く存続できません。若い人たちを迎え入れる要素もなければ、つなげられません。

―上手に変わっていけるのはなぜ?

大切にしなくてはいけないのはいい友達や先輩方。教えられることがたくさんあります。例えば、佐渡裕さんのひと言ひと言がバイタルです。松本隆さんから刺激を受けて「負けてはいられない」という気持ちになります。

―今の若いジャズミュージシャンをどう見る?

昔に比べて若い人たちは、楽譜をはじめ世界のあらゆるものの情報を得られるから便利だね。技術はすごく高くなってきている。でもジャズは60年代、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンが現れ、日本では渡辺貞夫や日野皓正などが出てきたころ、最もイキが良かった時代を過ぎてしまった。それぞれにすごいメッセージ性を持っていて、音源であるレコードそのものはずって生きているのだからすごい。金字塔があまりにも大きすぎて、若い人たちはちょっとかわいそうかもしれないね。

―これからの木馬は。

誰もが、いろいろなものを抱えて通りを歩いています。木馬にふらっと立ち寄ったとき音楽を通して、悲しいことやつらいことに対するカタルシスを与えてあげたい。私たちの世代も若い人も、みんな同じように社会の中で生きているのだから、こちらもキャパを広げて受け入れてあげること、それが一番大事。でも音楽だけでは駄目で、オブジェも、雰囲気も、スタッフの愛も、全てが関わってきます。

―ふらっと立ち寄って木馬時間を過ごしたくなりました!本日はありがとうございました。

MOKUBA’S TAVERN

神戸市中央区北長狭通3-12-14
ザ・ベガトアロード101

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