4月号
浮世絵にみる 神戸ゆかりの「平清盛」 第4回
中右 瑛
帝を脅かす奇怪な化け物
清盛が出世街道をばく進していたころ、都に世にも稀なる妖怪が出没し、帝や公家たちを恐怖の底におとしめた。
時の帝・近衛天皇(1139〜55在位)は夜ごと胸苦しく、悪夢を見続けていた。深夜、御所の大屋根に徘徊するその不吉なものの正体は何か? 天皇は源頼政に命じて調べさせた。
頼政は、大江山酒呑童子を成敗した豪傑・源三位頼光の子孫で弓の名手。早速に頼政は家来の猪ノ早太と御所を見回っていたが、夜も今の時刻なら二時ごろ、東山五条の森からわき起こった黒雲が、急速に御所の大屋根に近づいた。その雲の中に、得体の知れない怪しいものがうごめいている。それは、烏とも獣とも区別がつかぬもので、怪しげな鳴き声をたてた。頼政は揮身の力で矢を放ち、怪物を射落とした。
御所の大屋根にうごめく化け物を頼政が捕えたのだが、その正体を見て一同驚いた。
なんと! 顔が猿、胴が狸、手足が虎、尾が蛇、鳴き声がカン高い鳥のようでもあった。鵺という鳥とも獣でもない世にも恐ろしい化け物。猿は狡智、狸は胴慾、虎は傲慢、蛇は冷淡をあらわしている。
化け物の棲家は東山五条界隈の森。平家一門の拠点で平清盛が住まうのは東山五条・六波羅。
化け物とは、実は平清盛を暗示している。武士台頭をかさに、帝を脅かし、権力をほしいままにする清盛を人々は、忌み嫌っていたのだ。
このエピソードの随分後のことだが、頼政は実際に清盛征伐を画策したのだ。治承4年(1180)、以仁王を擁して平家追討に参画したのだが、計画が事前に漏れ、逃れる途中、宇治橋の合戦に敗れ、頼政は自害して果てた。
頼政の平家討伐は失敗したが、頼朝や義仲を奮起させ源氏挙兵の起爆剤となった。
浮世絵に登場する化け物は、悪の人物を揶揄していることが多い。揶揄した悪人を退治し、あるいはパロディ化して楽しむのが浮世絵の醍醐味である。
〈展覧会のご案内〉
「浮世絵にみる源平合戦」 4月5日(木)~24日(火)
アートホール神戸(JR・阪神「元町」より徒歩約1分)
入場無料
電話078・331・9968
■中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。
1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。