11月号
神戸鉄人伝 第107回 写真家 森井 禎紹(もりい ていじ)さん
剪画・文
とみさわかよの
ある時は勇壮に、ある時は厳粛に、ある時は優雅に。様々な表情を見せる日本の祭りを、ライフワークとして撮り続ける森井禎紹さん。会社勤めの傍ら始めた写真に夢中になりプロに転向、撮影と指導のほか講演や執筆活動にも力を注いでこられました。二科会写真部の理事長を長く務められ、全日本写真連盟現参与という県下屈指の写真家・森井さんにお話をうかがいました。
―写真の世界に入られたのは?
24歳の時に友人からカメラを譲り受け、手ほどきを受けて撮った写真がコンテストで特選になったのが始まりです。賞金に気を良くして次々コンテストに応募、入賞を重ね写真関連の依頼を受ける機会が増えていきました。やがて会社勤めとの両立が難しくなり思い切って退職、25年間のアマチュア時代に終止符を打ち、プロとして出発しました。
―何故撮影テーマを「祭り」とされたのでしょう。
アマチュア時代は、生活感のあるスナップ写真を撮っていました。その延長線上で撮れるものを模索した結果が、祭りだったのです。それなら全国をターゲットにと撮り始めてはや28年、北海道から沖縄まで約九百か所の祭りを写しました。
―祭りの撮影で心掛けられたことは?
よく生徒に「祭りを撮るな、祭りで撮れ」と指導するのですが、私は本当なら山車や地車より見に来ている人を、大通りより路地を撮りたい。でもそんな地味な写真は使ってもらえません。やはりプロとして撮る以上、祭りのクライマックスシーンも押さえなくてはならない。この点には留意して、本来の作風とは異なる写真も撮りました。
―神輿を正面から撮影した写真などは、特別なエリアで撮られたのでしょうか?また演出などはなさるのでしょうか?
プロのために用意された場所ではなく、すべて一般人の立ち入れる場所で撮っています。演出と言えば、提灯や格子戸などのある場所に、祭りに来ている子どもに立ってもらうことはあります。ただし私の写真はあくまで祭りという舞台が主役で、人は脇役。もともと創り込むことはできない主題です。
―最近、スマホの普及で「写真」の意味合いが変わってきていますね。
若い人はカメラを持たず、撮ったものをプリントして残すわけでもない。プリントより液晶画面で見る方がきれいだし、紙ベースにしなくとも友だちに見てもらえますから。でも流行のインスタグラムは、自己アピールや楽しんでもらうための投稿が大半で、写真を極める場ではない。スマホによって撮影人口は爆発的に増えましたが、研鑽したい、写真家として撮りたいという人は少数でしょう。
―これからの若手写真家育成に必要なことは何でしょうか。
写真界はずっと携帯やスマホを侮って来ましたが、それではいけないと思います。写真講座も「花の撮り方」を指導するだけではなく、スマホで撮って、保存して、プリントすることを教えるべきではないでしょうか。そしてコンテストも、スマホから応募できるような仕組みを考えていかないと、若年層を取り込めないと考えています。
―ご自身のこれからの活動の目標は?
日本の祭りも少子高齢化の影響で、だんだんと寂しくなる傾向にあります。祭り撮影のエキスパートとして親から子、子から孫へと受け継がれる祭りを記録として残しておく義務があると、痛切に感じます。体が動く限り、これからもあちこちの祭りを撮り続けるつもりです。
(2018年10月2日取材)
壮麗な祭りも、写真が残せるのはただ一瞬。その瞬間を追って全国を行脚した森井さんの作品集には、各地の祭りが鮮やかに切り取られています。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。