2016年
7月号
吹き抜け部分に、大胆にシャンデリアを配した

自由な発想を空間に生かす

カテゴリ:, 住環境, 建築

建築家 瀬戸本 淳 さん

「デザイン都市」を目指す神戸。
確かに少しずつ変わってきているが、まだ何か物足りない。
何が欠けているのか?どうすればもっと良くなるのか?
さまざまな魅力ある空間を生み出してきた建築家の
瀬戸本淳さんに、空間づくりの本質、創造力の源、
まちづくりのあり方などについて伺った。

子どものように自由に!

 建築家は、とりまとめていくことがメインの仕事です。大事なのは、クライアントや関係者と一緒になって、子どものように自由にふるまい自由に話し合うことです。子どもは自由に手を動かして、絵を描いて、いろいろな音を出す。3歳になると自分の思ったことをしゃべります。語彙は少ないのに自由に話をするんですよね。自由に発想し、遊んで、歌って、踊る。そして自由に夢を描いていることが素晴らしい。でもちゃんと話を聞いて様子もうかがい、子どもなりに考え、理解している。驚いたり、心から感動したり、人や植物や動物なども自分なりに愛しているんだろうと思います。
 子どもにはいっぱいの喜びがあるんですけれど、それが長く生きているうちに、親からなのか先生からなのか、社会からなのかわかりませんが、本来もっていた自由な感性が薄れ奪われていく。もともと素晴らしい人だったのに、大人になったら寂しい人になってしまう。楽しく生きるために仕事をしているはずなのにそうではない。人間らしい生き方というものを考える暇もない。自分の家や街に誇りをもつことも薄れていく…。
 そうならないようにするには、子どもの頃に戻って考えたらいいだけです。僕らの仕事はクライアントや関係者に、自由な発想をしていただく場を提供することなんですね。楽しく個々の表現ができるような環境で、自由に感じ考えてもらって、創作を一緒に楽しんでもらえるようにすることが重要なんです。いろいろな視点を提供することもポイントです。多様な角度や価値観を提示し、欠点も長所にもってくる。いろいろな視点を知ってもらうともっと心が自由になるし、自由に話をしていけるようになります。
 そして、人生の楽しさを創造することの気持ちよさを知ってもらう。「できそうにない」から「何とかなりそう」と思わせたら成功です。おしゃべりを楽しみながら、時にはお互いの美意識を戦わせ、時には譲り合いながら、美しい物を創作していくような雰囲気をつくり、その人の個性的な表現を目指し、自由な生き方ができるように表現・提案させていただきます。そういうことがお互い楽しくできたら、その空間や建物は絶対に美しくなると信じています。

楽しいことを貪欲に!

 今春、49年ほど共に兄弟のように過ごした友人をなくしました。小林恒という建築家ですけれど、彼は自由奔放な、僕にとっては理想的なはちゃめちゃな人生だったのですが、彼の作品はすごく素晴らしいものでした。
 彼は芦屋の大豪邸に住んでいましたが、土曜日になるとそのお屋敷で建築家や芸術家などいろいろな方々が来られて、食べたり飲んだり、しゃべったり踊ったりしたんです。芸術家の元永定正先生も来られていましたね。僕もそういう環境の中で過ごさせてもらい、とんでもないキャラクターの人たちと自由に話し合ったことでいろいろと学びました。
 僕は高校の頃から絵を描き、今も描いていますが、建築の設計は、考えるときに手を動かすんですね。子どものように自由に線を描けるのは、考えていないからなんですよ。勝手に手が動くようにならないといけません。きっとそのパーティに来ていた人たちも、自由に手を動かしていたんだろうなと。
 そして本当によく遊ぶし、よく飲むし、そういう雰囲気がそれぞれの人たちの内面の自信に繋がっていたと思います。僕も面白いと思うことに対してはわがままになりたい。そういうことが創造力を養うことに繋がるのです。
 子どものように自由に生きている人は神戸にもいっぱいいますし、みんながそうなればいいのになと思います。でも、彼らは譲るところは譲る寛容さも持ち合わせています。また、自分の心を自由にするために、人知れず勉強していますよね。自分が素敵な、あるいは魅力的という意味で「バカな」人間だと思ってもらえるよう、そして自分を守るためにあらゆる努力をしています。
 私もできるだけ世界の建築を勉強したいので、あちこち出かけたりします。建物だけではなく、住まい方、暮らし方、どう考えて生きているかなどまで掘り下げることを心がけています。海外の建築を見るのは、多様な視点や価値観を涵養し、創造力を高めたいという思いからです。

歴史や文化を学び愛そう!

 まちづくりは「こうすべき」「こうあるべき」という言葉遣いになりがちで、さまざまなコンペティションに参加しても、自由な発想や夢を語る場が少ないのが実情です。そこがちょっと残念に思うのですね。
 「神戸に住んでラッキーだ」。「この街に住めてありがたい」。そう思うところからスタートすれば、アイデアは広がっていくでしょう。自分たちの住む街の歴史や文化に誇りをもって、それを提案の根底にしてほしいと思います。そして家族や友人、恋人、街の人、訪れる人みんなを大事に思うことも原点だと思います。
 街の短所は必ずあり、それに目を向けないといけませんが、短所を強みに変えることを子どものように自由に考えることも重要です。
 目に見えない価値に目を向けることも重要です。神戸は深い歴史のある街です。生田神社は201年に、神功皇后が海上五十狭茅(うながみのいさち)に稚日女尊(わかひるめのみこと)を祀らせたのがはじまりです。ちなみに、海上五十狭茅の97代目は僕の友達です。長田神社も海神社も201年の創建です。ということは、それ以前から神戸は文化があったはずです。
 兵庫の真光寺は、一遍上人が亡くなられたところなんですね。一遍上人は連歌や能などに影響を与えた人物で、日本の文化の根底を築いたのではないかと思います。そう考えると、真光寺にはすごい意味があるのです。そういう物語から神戸のいろいろな文化が繋がっていくのですね。歴史とどう向き合うかは自由ですが、歴史を知ることは街の表情や表現を変える要素になります。
 神戸は華道や書道、絵画などの巨匠が多いすごいところなんですね。歴史や文化、芸術の資産に恵まれているんですよ。でも、みんな自分のことのように認識できていないですよね。そいうところに目を向けて意味を見つめ直すと、自ずとデザインは変わっていくはずです。

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高台に建つ自宅から神戸の街を一望する

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円錐形の建造物を配することで優しいデザインになる

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趣味の絵画では、よく愛犬をモデルにする

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音楽や絵画など芸術は創造力を養うのに欠かせない

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吹き抜け部分に、大胆にシャンデリアを配した

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芦屋にある個人宅。“遊び心”をふんだんに取り入れた

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日本の伝統的な空間づくりにも自身の創造力が生かされている

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空間に連続性をもたせることで、遊び心をくすぐる

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天井には音の反響を考え、バイオリンに使用される木材を使用した

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「60歳になったらフェラーリを乗ってみたかった」。居留地を走る

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瀬戸本 淳(せともと じゅん)
株式会社瀬戸本淳建築研究室 会長

1947年神戸生まれ。一級建築士・APEC アーキテクト。神戸大学工学部建築学科卒業後、1977年瀬戸本淳建築研究室を開設。以来住まいを中心に、世良美術館・月光園鴻朧館など、様々な建築を手がけている。神戸市建築文化賞、兵庫県さわやか街づくり賞、神戸市文化活動功労賞、兵庫県まちづくり功労表彰、姫路市都市景観賞、西宮市都市景観賞などを受賞

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2016年7月号〉
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芦屋山手のフロントラインを歩く③ グランドフードホール
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自由な発想を空間に生かす
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