2017年
9月号
「制作の楽しさには、まず筆触の面白さが挙げられます」と六車さん。「筆遣いは技術論では言い表せない。筆の弾力をうまく使いこなせたら最高ですね」

神戸鉄人伝 第93回 書家 六車 明峰(むぐるま めいほう)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

書家
六車 明峰(むぐるま めいほう)さん

 名筆研究会の書展。大画面を埋め尽くす大きな筆文字は、従来の漢字、かな、前衛の作品ではありません。現代の詩を現代の書で表現する「現代詩書」で、誰でも読むことができます。「現在使われている言葉を、現代かな遣いで書く。書き手は言葉の持っている意味を考え、感じながら表現しているのです」と語る、この道50年の六車明峰さんにお話をうかがいました。

―書を始められたのは?
 ありきたりですが、親に言われて書道塾に行ったのが始まりです。中高6年間、中島龍峰先生のお世話になりました。この頃は現代書でも前衛書でもなくオーソドックスな普通の書を学びましたが、どんな書でも基本は臨書ですから、この時代に基礎ができたのだと思います。その後現代詩書の先駆者である村上翔雲先生に師事し、ずっとこの世界に身を置くことになりました。

―美術を学ばれた時期もおありとか。
 絵の勉強もしておこうと明石短期大学へ進み、ここで現代美術家の河口龍夫先生に出会います。河口先生のものの見方、考え方はこれまでとは全く違い、固定概念が取り払われたのを覚えています。美に対する感覚が変わったというか、書に抱いていた迷いもふっ切れました。書家はもっとシンプルに、言葉や詩のよさに踏み込んでいっていいのだ、と改めて気付いたのです。

―書の見方も変わったと。
 我々がお手本とする「古典」と言われる漢詩やかなも、もとを正せば「その時代の言葉をその時代の人が書いた」ものですよね。それが本来のかたちだとすれば、現代人が現代詩を現代かな遣いで書くのは、自然なことなのではないか。日本の書道界は漢字とかなに分かれていますが、漢字とかなが混ざった表現を追求するのもまた面白い、と思えたのです。漢字かな交じり書と言われる「調和体」や「近代詩文書」といったジャンルは既にありましたが、僕がやっとそこに思い至った、ということなのでしょうね。

―書展を見に行っても、多くの現代人は作品が読めません。
 それは「漢字」は漢詩だから、「かな」は変体がなを使っているから、「前衛」はイメージで作られているからです。また「漢字かな交じり書」であっても、明治・大正の文豪の詩は文語体で、今の人は読めないかもしれません。現代詩書は現在の国語表記を基本としますから、読めるものが多いはずです。僕は草書も使わず、字を崩すにしても行書くらいまでです。いろいろな表現があることは認識していますが、僕自身はまず読めることを前提としたい。それが見ていただいている方との、最低限度の接点だと思うからです。

―師である村上翔雲氏は、名筆研究会の創始者ですね。
 村上先生は現代詩書にこだわり、在野で活動する道を選ばれました。私は30年以上先生のカバン持ちを務めましたが、先生は文学性を重視される方で「書家は本を読まんとあかん。でないと書は“ウスッペライ”ものになる」とよくおっしゃったものです。言葉に一歩踏み込まないと文芸作品はわからない、ただ形を求めて書くのではなく作品の深さを表現しなくてはいけないと。いろいろな世界に触れて、感受性を養う大切さも教えていただきました。

―これからの抱負などは?
 もちろんこれからも、現代詩書の普及に努めます。書以外では芸術文化団体半どんの会の事務方(会計等)もお受けしていますが、文芸をはじめとする他ジャンルの方々との交流は、勉強になることも多く有意義です。できればお互いの仕事でコラボできたら…などと、夢を抱いています。 (2017年7月27日取材)

 現代詩書の担い手として、ご自身の書作のほか教室での指導や機関誌の編集など、多忙な六車さんでした。(本書102ページ「喫茶店の書斎から」の書もご担当です)

「制作の楽しさには、まず筆触の面白さが挙げられます」と六車さん。「筆遣いは技術論では言い表せない。筆の弾力をうまく使いこなせたら最高ですね」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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