1月号
連載エッセイ/喫茶店の書斎から92 繋がった!
こんな偶然があるだろうか。
最近偶然の出来事に出合うことが多く、これは高齢になったからだろうか?と理に合わないことまで考えてしまう。
一つの例を上げよう。
高校生の孫、滉が久しぶりにやってきて、将棋を指そうと道具を出してきた。勝手知ったるジージの家である。
将棋盤が入っている箱を開けると、思わぬものが出てきた。箱を間違ったのだ。
出てきたのは詩人杉山平一氏の一枚の書。
これは杉山氏の没後に氏の書斎を訪問した時に、案内してくださったご息女の初美さんから戴き、表具屋さんで裏打ちしてもらったもの。大切なものだが行方知れずになっていたのだ。
「橋の上」という詩がなんともいえない親しみの持てる素朴な文字で書かれている。
橋の上にたって
深い深い谷川を見おろす
何かおとしてみたくなる
小石を蹴ると
スーツと
小さくなっていって
小さな波紋をえがいて
ゴボンと音がきこえてくる
繋がった!
そんな気持でほっとする
人間は孤独だから
なにが偶然かというと、わたしはその日の朝に杉山氏の詩のことをエッセイに書き上げたばかりだったのだ。まあ、この程度のことは不思議ではないだろう。
しかし、今回のことはあまりにもの偶然。
10月号本誌にパフォーマー、森文子さんのことを書いた。
11月号にはラジオパーソナリティー、久保直子(奈央)さんのことを書いた。
この二つの話は全く関連がない、はずだった。
森さんは東北の宮城で、ピエロやパントマイムなどで活躍する人。一方、久保さんは関西で活動している。
ところがだ。このほど、久保さんのパートナーもパントマイムの人と分かった。それだけではなく、その人、伝三Fさんは森文子さんとFB友達であった。わたしはそれを以前から知ってはいた。しかし久保さんとご夫妻だったとは思いもよらないことだった。
久保さんのことを書いたわたしのFBを見た森さんからこんなメールが届いたのだ。
《久保さんがそちらにゆかれたお話をおうかがいして、別ルートの繋がりからと思いきや、そんなご縁の繋がりがあったのですね~。そしてそして、お名前は存じ上げていたものの、今までお友達繋がりではなかったのが「喫茶輪」がきっかけで繋がりました。ふふふ。ありがとうございます~。》
これにわたしはこう返信した。
《思いがけないご縁が繋がっていて驚きでした。》
その返事。
《こっそり そのうち 「喫茶輪」にて おめにかかりましょうか~ てなことまで密談をしてしまいました。》
《なんということを! 年寄りを驚かしてはいけません。》
《ふふふ わたくしひとりのときみたいに いきなり参ったりはしませんので~ その時は よろしくおねがいいたします》
そして久保さんからのメール。
《私も森さんのことは伝三さんを通じて知っていたのですが、FB友達にはまだなっていなかったようです。今村さんのお陰で友達にもなれました。伝三さんとはかなり以前から面識があり、東京でのパントマイムフェスティバルにもご来場下さったり、京都まで会いに来てくださいました。(略)》
偶然はまだある。
12月号には杉山平一氏の詩を取り上げているので、三カ月連続で意図せぬ偶然が重なったということだ。
繋がった!
そんな気持でほっとする
人間は孤独だから
六車明峰(むぐるま・めいほう)
一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。
今村欣史(いまむら・きんじ)
一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。