7月号
絵本作家たちの想いから始まった
『ちきゅうパスポート えほん作家から地球の子どもたちへ』
ウクライナの子どもたちのために!
絵本作家たちの想いから始まった『ちきゅうパスポート えほん作家から地球の子どもたちへ』
戦禍に巻き込まれたウクライナの子どもたち。その惨状を目にして、「何かできることはないか?」と立ち上がった絵本作家たち。相談を受けたBL出版の落合直也社長は「出版社としてぜひ協力したい」と早速プロジェクトを始動した。
1年足らずで出版に漕ぎつけるまでの経緯や「つなぐ」がキーワードになっている絵本の内容などお話しいただいた。
世界を一つにつなげたい
昨年2月末ごろからウクライナの子どもたちが家や学校を壊され逃げ惑う姿をしばしば目にするようになりました。いつも子どもたちと共にいる絵本作家さんたちがこの悲惨な状況を見て、「何か自分たちにできないだろうか」と考え始めたところから話が始まりました。
5月、絵本作家のあべ弘士さん、石川えりこさん、田島征三さん、ささめやゆきさん、絵本評論家の広松由希子さん、ブックデザイナーの高橋雅之さん、6人の発起人から私に「相談したいことがある」とお話があり、6月上旬に横浜でささめやさん、石川さん、広松さんの3人にお会いしました。絵が次々とつながっていくジャバラになった本『ちきゅうパスポート』のラフを持って来られ、「こんな本を作りたいんです。協力いただけないでしょうか」という依頼を受けました。製本上難しいところがあり、「どういう形で協力ができるかを印刷会社と相談したい」とお返事をしました。
出版社として絵本作家の想いを形にしたい
私自身もウクライナの子どもたちの悲惨な状況を目の当たりにして、出版社として作家さんたちの想いを何とか形にしたいと思い早速、打ち合わせを始めました。まず「ジャバラの本に表紙を付けましょう」と提案しました。たくさんの見本を作り、どういう形が良いのか検討を重ねました。質感があり、機械での製本が可能な範囲で最大限の厚みがある紙を選び7月半ば、サンプルを作り「これなら可能です」とお返事をしました。
ページ数と印刷コストを考慮し、22作品の掲載が決定しました。協力をお願いする作家さんは、編集者でもある広松さんと私に一任いただき、最終的に日本をはじめ6カ国、20人プラス2組、24人の作家さんに引き受けていただきました。
22の“想像の国”が絵本の中で一つにつながった
作家さんには、一見開きずつ子どもたちが自由に行ける〝想像の国〟と、次の国へとつながるような絵を描いてほしいと、9月12日に10月末締め切りで原稿依頼しました。タイトなスケジュールにもかかわらず、9月21日にスズキコージさん、翌日には吉田尚令さんから作品が届いたのに続き、皆さんから続々と絵を送っていただきました。ブックデザインをする高橋さんと広松さんと協力しながら案をまとめ、11月17日、東京でページ構成の打ち合わせをして、12月8日、各作家さんに初校を送付。いただいたコメントをもとに再校はBL出版に一任いただき、23年1月6日下版。見開き一つの左右がそれぞれ何らかの形で隣の絵とつながり、全体が波を描いたようにつながる一冊の絵本に仕上がりました。
想いを伝えて本を手渡しする原画展を各地で開催
3月2日の発売に先行して2月20日から、東京青山のピンポイントギャラリーで作家さんのお話も交えて原画展を開催したところ、数日のうちに用意した限定100部が完売しました。初版4千部、発売開始と同時にMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店、4月には銀座の教文館ナルニア国でも原画展を開催し、好評につき5月には重版3千部が決まりました。
この絵本は買ってくださる方に企画の趣旨に賛同いただく必要があります。棚に置いているだけでは売れません。想いを伝えて手渡しすることがどれほど大切かを実感しました。原画展示にあたっては「全作品をつながった状態で展示したい」というこちらの要望を受け入れていただいた会場関係者の皆さまに感謝いたします。
今後は7月9日まで北海道・旭川市のギャラリープルプル。7月19日からは、いよいよ神戸三宮にやってきます。その後は、福岡・大宰府、岡山・倉敷で開催予定です。
原稿料・収益はウクライナの子どもたちのために寄付
制作中は絵本作家の皆さんから作品が届くのが楽しみで、実際に届くたびに感動しました。作品は一つ一つに個性があり、すばらしい。それらがつながっていき、想いが凝縮されているところがこの絵本の面白さです。各作家さんへの依頼時に、ウクライナの子どもたちへの支援のために原稿料の寄付を快諾いただいていました。4月7日にBL出版の収益と合わせて日本ユニセフ協会へ第一回目の寄付を行いました。二回、三回と寄付が出来ればと思っています。作家さんたちの想いが一人でも多くの人に伝わることを願っています。