5月号
神戸大学医学部附属病院 大学病院の美容外科②
神戸大学医学部附属病院 美容外科 診療科長 特命准教授 原岡 剛一 さん
大阪市立大学大学院医学研究科 形成外科学 教授 元村 尚嗣 さん
“人を笑顔にする”
同じゴールを目指す形成外科と美容外科
美容外科を学問として確立した神戸大学医学部附属病院で、
安心して受診できる診療科を目指している原岡剛一先生。
大阪市立大学医学部で共に学び、研究・臨床に携わってきた
元村尚嗣先生をお招きし、外科学としての形成と美容、
これからの美容外科についてお話しいただきました。
形成外科医は患者さんのメンタリティーをメスで治す
―形成外科とは。
元村 人の命を助けるのが医療の入り口だとしたら、出口で引き受けるのが形成外科です。他の診療科が「人の生死」をみるとしたら、形成外科は「人の人生」をみる。少し発想が違います。
―新しい外科学なのですか。
元村 そうではなく、発祥は紀元前600年ごろで、「世界最古の外科学」といわれています。ただし日本では学会としての歴史は浅く、複数の診療科が合体して開設されてきました。
大阪市立大学の場合は、皮膚科と耳鼻科の協力で1993年に国公立大学としては関西で2番目に開設され、口蓋裂や耳下腺腫瘍治療後の再建術をはじめ主に耳鼻科の領域からスタートしています。
―形成外科医と美容外科医の違いは。
元村 形成外科には「外傷」「腫瘍」「先天異常」「美容」という大きな4本柱があり、そこから細分化されています。私の専門は、外傷や腫瘍すなわち後天疾患後の失われた機能や外貌を修復する再建外科です。再建外科は、精神的喪失感を解除することを目的とし、患者さんがより人間らしい生活を送れるようにします。
原岡 悩んでいる人をハッピーにするという根底は形成・美容とも同じですね。
元村 欧米では、「精神外科医」ともいわれているんですよ。精神科医は患者さんのメンタリティーを薬で治しますが、形成外科医はメスやレーザーで治します。美容外科も手技は共通していて、目指すところも同じです。
―ハッピーなゴールはどこに置くのですか。
元村 本来の状態に戻し、患者さんの笑顔を取り戻すことです。例えば、悪性腫瘍を切除した後の、顔面欠損を修復する手術や、失った乳房を再建したりする手術があります。せっかく命を取り留めても、失ってしまったものがあることで辛い人生を送るのは悲しい。けがや病気を克服した後、喪失感を持つことなく、また本来の生活に戻ることがゴールです。
絵画にたとえると、キャンバスに開いた穴を補修して元の真っ白なキャンバスに戻すのが形成外科であり、真っ新で真っ白なキャンバスにクライアントの要求通りに綺麗な絵を描くのが美容外科だと考えています。したがって、形成外科と美容外科のゴールはちょっと事情が違いますね。
原岡 そうですね。美容外科の場合、ゴールを決めるのは患者さんご自身ですから、そこが難しいところです。アンチエイジングの手術を終えた患者さんは笑顔で通院して来られる方が多いのですが、若い方は自分でゴールを見失っていることが少なくないように思います。そして見えないゴールを求めてさまよい続ける。大きな問題です。
センスと器用さだけでは通用しない
―原岡先生は以前、赤ちゃんの形成外科手術を見て「この手術がこの子の長い人生をハッピーにする」と感動した、とお話しされました。元村先生はなぜ、形成外科を専門に?
元村 学生のころ、先輩の原岡先生が形成外科へ進むと聞き、「整形の間違えとちがうか?」と思いました(笑)。まだ形成の授業もなかったころです。調べてみたら、「身体の失った部分をつくり直したり、くっ付けたりする。すごいなあ!」と。私は脳外科か整形外科に進むつもりでしたが、進路変更しました。
―お二人とも絵を描くことがお好きとか。形成外科医には芸術的センスや器用さは必要ですか。
元村 絵は描きますが、形成外科学という学問ですから感覚だけではできません。学問に裏付けられた基本の上に成り立っています。したがって、芸術的センスで手術が上手くできるというものではないですし、不器用だから手術が出来ないというわけでもないと思いますよ。
原岡 イメージをデッサン画にする先生の絵を見ると「上手だな」と思うことがあります。「手術がうまいな」と思う先生が器用だということはあります。だからといってセンスと器用さが必須というわけではないでしょうね。
元村 「僕は不器用なので形成外科に向いていないでしょうか?」と聞く学生には、「形成外科は手術が上手くて当たり前。形成外科医になると決めたなら努力して上手くなれ!!」と答えます。学問は学びと努力。私はそう指導をしています。
メスを持つ外科医は患者さんに最後まで責任を持つべき
―形成外科医になるきっかけを作った先輩が神戸大学に行くことになったとき、元村先生の心境は。
元村 もちろん優秀な医局員が一人減ることは大阪市立大学としては痛手でしたが、原岡先生は美容外科の領域で頑張っておられたので、「これはいいことだ!」と後押ししようと決めました。神戸大学の美容外科には歴史があり、国立大学では全国初、独立した診療科として美容外科を開設した先駆的な存在ですからね。私の中では、神戸大学と大阪市立大学の共同プロジェクト(笑)。
原岡 私も同じ気持ちです。ところが、我が国の美容外科がガラパゴス化していることは否めません。まずは、神戸大学の美容外科を知っていただき、他の診療科と同じ土俵に上らなくてはいけません。
―美容外科の需要は、これから増えるのではないでしょうか。
原岡 増えるでしょうね。だからこそ、美容外科を独立した学問として確立し、安心して患者さんが受診できる美容外科をつくらなくてはいけません。
中でも、高齢化社会ですからアンチエイジングには力を入れていきたいと思っています。例えば女性の平均寿命は80代後半、エイジングが気になる60歳を過ぎたころから20年以上あります。長い年月。どうせなら健康でハッピーに過ごしたいですよね。
そこで、大学が6月に開催する市民講座は「アンチエイジング」をテーマにしました。大学病院の責任として、今後もテーマを変えて講座を定期的に開催していく予定です。
―原岡先生への期待は?
元村 メスという刃物を持って仕事をすることが許されているのが外科医です。メスを持つ美容外科も形成外科のトレーニングを積みスキルとメンタリティーを身につけた専門医が手術するべきですし、手術をした患者さんには最後まで責任を持つべきです。原岡先生には頑張ってもらわなくては!そして神戸大学で原岡先生の教えを受けた若いドクターが全国に出て行き、安心して受診できる美容外科を広げていくのが理想的な形だと思っています。
正しく公平な情報を発信判断するのは患者さん自身
―原岡先生は大きなものを背負っておられるのですね。
原岡 ちょっとカッコよすぎますが、神戸が先陣を切ります!。時間はかかるとは思いますが、「僕には無理です」などと言っている場合じゃないので(笑)。まずやるべきことの一つは、正しく公平な情報を発信していくこと。大学病院ではHPを開設し、美容外科ではSNSも立ち上げています。ルールに則り、責任を持って発信を始めています。
元村 情報を受け止める患者さんも自身で判断して自分の身を守るという姿勢が大切ですね。私は大学病院の教授という肩書もあるので、患者さんから「先生が手術して」と言われることがありますが、「教授だから手術がうまいとは限らないですよ」と返します(笑)。
外科医が患者さんにメスを入れるということは人生に責任を持つということです。話し合い、お互いが納得してからでないと引き受けることはできません。
原岡 美容外科では病気の治療ではないがゆえの、幾分事情が違うこともあって…。患者さんの話を十分に聞いた上で、「あなたにこの手術は必要ないです」とお話しする場合もあります。理由は丁寧に説明しますが、納得される方もいれば「先生は信頼できるからぜひ手術をお願いします」と、正反対のことを言われる方も。ゴールを決めるのは“患者さん自身”、という話とつながります。
双方が納得するまで患者さんと話し合いを重ね、一緒にハッピーを探していくことが私の使命ですね。形成外科医として長年トレーニングを積んできた経験と、長年共に進んできた同士である友がいることは、私の強みだと思います。
大阪市立大学大学院医学研究部にて
神戸大学医学部附属病院 美容外科
お問い合わせは、
TEL.078-382-5822
(平日8:30~16:20)
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