1月号
新春インタビュー|神戸市長 久元 喜造 さん
コロナと真正面から向き合いながら
神戸のまちの未来像実現へと前進します
神戸市長 久元 喜造 さん
新型コロナウイルスが収束しないまま迎えた2021年。まちの再生計画も着々と進み、未来に向けての明るい話題もある神戸にとって、どんな年になるのでしょうか。久元喜造市長にお聞きしました。
行政のデジタル化は、市民の満足のために使うツール
―今年はどんな年になるのでしょうか。
コロナと闘いつつ、神戸のまちづくりを予定通り進めます。コロナはすぐに無くなることはないでしょうが、いつか必ず無くなります。つまり、私たちはコロナと共に生きていかなくてはならず、いつ終わるのか分からない〝with コロナ〟の時代を生き抜かなくてはいけません。ウイルスに真正面から向き合い、命を守りながら経済活動を続け、前を向いて進んでいかなくてはいけません。
―コロナによる大きな社会の変化としてデジタル化がありますが、神戸市の取り組みをご紹介ください。
デジタル化は市役所内部での業務効率化にとどまるものではなく、市民生活を大きく変え、市民サービスを飛躍的に向上させるためのツールです。民間から来ていただいている業務改革専門官が平成28年度に行った調査によると、神戸市にかかってくる年間約457万件の電話のうちの多くが照会の電話だということです。市民のもとに届く行政サービスに関する書類やホームページを見ても分かりづらく、結局電話をかけることになるからです。この件数を減らすには思い切った電子申請の導入と個人に向けて必要な情報だけを提供することが大切です。例えば、子育てに関する情報が欲しいという人がホームページを開くと、その部分だけが見つかり、分からないときはチャットボットで照会ができる。つまり、行政の都合で情報発信をして相手にアプローチするのではなく、市民それぞれが置かれている状況や立場に応じてアプローチしていただくと、的確な答えが得られるというものです。
―市民にとって身近なサービスでいえば?
神戸市にある10カ所の区役所に住民の皆さんが足を運ぶのは、主に住民票や戸籍謄本、印鑑証明、納税証明などを取りに行かれるときだと思います。マイナンバーカードがあればコンビニでも取れるのですが普及していないのが現状です。デジタル化を進め、できるだけ区役所に来ていただかなくてもすむようにすれば、個別の事情に応じて窓口で相談に応じたり、区役所まで来られないという場合には行政側から出向いて行ったり、市民一人一人に寄り添うサービスが可能になります。
―きめ細かく対応するサービスですね。
かつてはその役目を地域社会が担っていました。大家族で暮らし、分からないことはご近所で聞き、時にはお隣へ味噌醤油を借りに行く。そんなお付き合いがなくなった今の社会で孤立してしまう人たちをどう支えていくかが大きな課題です。NPOやコミュニティービジネスに従事しておられる方々に行政が寄り添い協力しながら解決していくことが重要になると考えています。
医療産業都市の未来にとって明るいニュース「hinotori」
―神戸医療産業都市には明るいニュースがありましたね。
震災後、ゼロからスタートした神戸医療産業都市構想ですが、現在、医薬品・医療機器関連企業約370社が立地する日本最大のバイオメディカルクラスターにまで成長しました。昨年、国産初手術支援ロボット「hinotori」をマーケットに出すことができたメディカロイド社の快挙は最も明るいニュースです。まず神戸をはじめ国内で使い、続いて海外へも輸出し、日本のインフラ輸出の目玉の一つにしたいと考えています。
―この快挙が「神戸未来医療構想」につながったのですか。
「hinotori」の成果をきっかけに更なる医療機器開発を支援する趣旨で策定し、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」において採択され、5年間で9億円以上の支援を頂けることになりました。これは手術支援ロボット開発費用に充てる目的ではなく、例えば、AIを使う画像診断システム、8Kカメラや5Gによる遠隔診断治療、体内で分解される素材など、全く新しい技術を研究し、さらに進化させるための費用に充てられます。研究を進める「リサーチホスピタル」の神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センターに医療関連企業が集まる研究拠点を整備し、新しい医療機器開発や改良の実証をすることができるようにしました。
―昨年はポートアイランドに「クリエイティブラボ神戸」も竣工しましたね。
医療産業に関するスタートアップなどが入居し、互いに交流し成長していくステージとして開設しました。医療産業都市の研究所や病院とコラボしたり、さらに本格的に稼働するスーパーコンピュータ「富岳」をさまざまなシミュレーションに利用したりといった新しい展開にも期待しています。
いよいよ見えてきた!
三宮周辺の新しいまちの姿
―「神戸阪急ビル東館」が全貌を現し、いよいよ新しいまちが見えてきましたね。
震災で大きな被害を受け、元の状態に戻すことで精いっぱいでしたが、やっと新たな取り組みに着手することができました。策定したビジョン・構想に基づき事業を実施していく段階に入り、2021年春に初めて形になるのが、阪急神戸三宮駅の北側エリアの再整備です。神戸阪急ビル東館の建て替え、高架下の西館のリニューアル、さんきたアモーレ広場の再整備、サンキタ通りの歩行者空間化を一体的に進め、阪急神戸三宮駅北側は大きく変わります。続いて、核となるプロジェクトとして、国の直轄事業でもあるバスターミナルの整備に着手し、2026年度頃の完成を目指します。西日本で最大級の規模になると思います。複合施設としてオフィスやホテル、ホール、屋上広場、そして〝世界一美しい〟図書館をつくりたいと思っています。また、駅前の幹線道路を人中心の広場的空間へ転換する三宮クロススクエアなどを整備することで、利便性が高く、神戸の玄関口にふさわしい空間を創出します。
―ウォーターフロントの今後はどうでしょうか。
新港第一突堤基部へは、1月にフェリシモ本社、春頃にはGLIONグループ本社が開業します。秋には複合文化施設「神戸ポートミュージアム」が開業し、アクアリウムもオープンします。第二突堤は文化・商業・宿泊施設を念頭に置いた再開発を予定し、既に民間事業者の公募を開始しています。第一・第二突堤間の海面の民間活用も考えています。三宮駅前とウォーターフロントが大きく変わり、駅前からウォーターフロントの動線上にある市役所本庁舎2号館や安藤忠雄さんから「こども本の森神戸」を寄贈いただく東遊園地、税関前歩道橋を再整備することで、まちが南北につながります。さらにポートタワーの改修に着手し、東西につなぐ動線の構想を始めようとしています。
―大都市・神戸の今後についてどうお考えですか。
グローバル社会の今、特にアジアパシフィック地域の大都市は連携しながら、優れた人材を集めて育成しようと競い合い、経済をけん引しています。日本は人、所得、富、情報全てが大都市東京に一極集中する時代を終わりにしなくてはいけません。多極分散型に移行するための受け皿になる大都市が、今以上に大きな役割を果たし、そのために独立して責任を果たしていかなくてはいけない時代です。そういう意味で府県から独立する特別自治市という構想は非常に魅力的なものではないでしょうか。二重行政を解消するだけでなく、大都市がそれぞれの圏域を引っ張っていき一極集中解消のための国土構造をつくる手段にもなります。地方それぞれの大都市が歴史や個性を踏まえ未来志向で成長していくことがこれからの日本に求められる姿であり、神戸もその役割を果たしていきたいと考えています。
―再生、そして成長していく神戸のまちを楽しみにしています。2021年もよろしくお願いいたします。