1月号
新春 市長対談 神戸の魅力を神戸マラソンから発信!
神戸市長 矢田 立郎さん × シスメックス株式会社 代表取締役社長 家次 恒さん
盛況だった神戸マラソン
―2011年を振り返り、まず11月の第1回神戸マラソンについて、成果や感想などお聞かせください。
矢田 全国から集まった2万3000人のランナーに復興した神戸の街を走っていただき、神戸の発信という意味で大きな成果があったと思います。沿道からは53万人以上の方の声援がありランナーを元気づけ、大会を盛り上げていただきました。各所で工夫を凝らして開催していただいたイベントもランナーをはじめ参加された皆さまにとても好評でした。兵庫県洋菓子協会から提供いただいたスイーツを召し上がっていただけたことも、神戸ならではの魅力になりました。完走率も97・4%ということですから、多くの方に喜んでいただき、大成功だったと思っています。
―市長自身もクオーターを走られましたね。
矢田 私は日ごろからジョギングをしていますので、走ることに不安はなかったのですが…。5キロ地点の給水所で水のカップを取ったのですが、口にうまく入らず、二口目もやはり入らず…、走りながら飲むのはむずかしい! 飲むことばかりに気を取られて体が前のめりになったのでしょうか、転んでしまいました。それで走りのリズムが狂い、後半の走りに影響してしまいました。幸い怪我はなかったのですが、「市長、救急車で運ぼうか」などという話も出ていたようです(笑)。
―シスメックスからも多くの方が参加されたようですが、総括はいかがですか。
家次 まずは盛況でよかったです!何といっても、2万3000人という人数の凄さを改めて感じました。知事の号砲から最後のランナーがスタートするまで22分かかったそうですね。神戸市役所前の広い道路をランナーが埋め尽くすという様子を実際に見ることはないですから、感動して、大規模市民マラソンを実感しました。高い完走率からも、皆さんが非常に楽しんでくださっていたのだと分かります。シスメックスの従業員もボランティアや沿道での応援をはじめ、ランナーとしても参加しました。走った人たちが口々に言うのが、「沿道からの応援で力をもらった」ということです。普通は20㌔メートル過ぎたあたりから、「もう、やめようかな…」と思うそうですが、応援があるからやめられず、また頑張れるのですね。まさに、沿道からの応援とランナーが心を一つにして盛り上げた大会でした。
矢田 東北の被災地から来られた方々も神戸の復興した街並みに感心し、「この光景をぜひ、地元に帰って伝えたい」と言っていただきました。
―今年の第2回目に向けての改善点などはありますか。
矢田 実は給水所で水とカップが足りなくなったんです。余分に用意していたのですが…。スイーツが後ろを走るランナーまで行き渡らなかったことも今後、配給の仕方に改善の余地があると思っています。市民広場で予定していたグルメイベントが前日の雨と風で、中止せざるを得なかったのはちょっと残念でしたね。
―神戸マラソンの効果について、どう思われますか?
家次 私どもはヘルスケアに関わる企業として、地元神戸で初めて開催される神戸マラソンをサポートしたいと考え、特別協賛をさせていただきました。弊社のビジネスを一般の方々に知っていただける機会は限られていますが、2万3000人が付けているゼッケンの「シスメックス」を見て、「一体、何の会社?」と興味を持っていただき、弊社のホームページへのアクセスも増えたようです。このたびの神戸マラソンでは、私どもの企業もさることながら、神戸のイメージも上がったのではないでしょうか。普段は神戸というと、中央区あたりの街並みに六甲山と神戸港が迫った都心ばかりがクローズアップされますが、今回は須磨の海岸沿いや長田の鉄人28号等々、神戸にもいろいろな見所があることを知っていただけたと思います。
矢田 今年走った方々の口コミで「神戸はいい街だぞ!」と広がっていくと思いますよ。
スパコン「京」への期待
―今年は6月にスパコン「京」が完成し、11月から共用を開始します。期待は大きいですね。
矢田 医療産業都市のベースは、人材が集まり人材を輩出する「知の拠点」を神戸につくろうというところにありました。そこで、21世紀を担う成長分野の医療産業の検討を始めました。一方、世界から少し遅れをとってきたスーパーコンピュータの拠点をどこに置くかが国レベルで検討され始められていました。10都市以上が立候補し、検討に検討を重ねた結果、神戸に決定しました。神戸が医療産業の拠点だということは評価を大きく左右したと思います。共用開始によって医療関係をはじめ、いろいろな分野でスパコンを使うために優秀な人材に集まって来ていただけるときがいよいよきました。隣接する高度計算科学研究支援センターでシミュレーションのトレーニングができるようにしたところ、多くの企業や大学がやって来て、キャパが足りなくなり予定を変更して広げざるを得ない状況になっています。スパコン「京」は日本中、いえ世界から注目を集めているのです。
家次 以前は実験を行っていた部分が、スーパーコンピュータにより今後シミュレーションにとってかわります。非常に複雑な人間の体をシミュレーションすることで、創薬にかかる時間がかなり短縮されるでしょう。スーパーコンピュータでシミュレーションするデータは膨大な量ですからDVDなどに納めることが出来ず、持ち運びが容易ではありません。その点でも、神戸空港のあるポートアイランド(第二期)は、最適な土地柄だといえますね。一般の皆さんは、「何の意味があるのか?」と思われるかも知れませんが、複雑なことがシミュレーションできることで、いろいろなことが可能になります。例えば、心臓や神経細胞のシミュレーションにより、病態の予測や治療支援、薬効の評価が可能となります。また、「京」の計算能力をフルに活用して、副作用のない薬を設計することも可能となります。これから、もっともっと応用範囲を考えていかなくてはいけません。弊社でもシミュレーションシステムは備えていますが、これからはスーパーコンピュータ「京」をどう活用できるかが研究員の腕にかかわってくると思っています。
―ポートアイランドの防災・減災対策についてはいかがですか。
矢田 阪神・淡路大震災でポーアイ1期では液状化に伴う噴砂現象が起きました。しかし、当時、工事が進んでいた2期では、さらに液状化しにくい土質になっているため、液状化はほとんど起きていません。また、防波護岸を高くしていますので、概ね4メートルの津波をクリアする能力も備えています。万が一、東海、東南海沖地震が発生しても大阪湾を通り津波が到達するまでには時間がかかり、減衰します。ポーアイ2期に関しては、それほど大きな被害が出る区域ではないと考えられます。神戸全体のベイエリアについても再検討を進めていますが、すぐに防潮施設を造りかえるというわけにはいきません。「到達まで時間はありますから、万が一の場合はまずは高台に逃げてください!」と地域の皆さんにはお願いしています。
神戸の経済・観光…これから
―シスメックスは昨年、台湾、ロシア、フィリピンにも関係会社を設立したということですが、今年も更に増やしていく予定ですか。
家次 弊社は現在、世界170カ国以上の国々に製品をお届けしています。北米、ヨーロッパなど、かなりの地域で現地法人化が進み、アジア地域でも販売サービスのネットワーク基盤が整いつつあります。今後も新興国を含め、グローバルネットワークの拡充を進めていきます。
―世界の医療環境と市場動向をどのようにとらえていらっしゃいますか。
家次 日本を含む先進国では高齢化が問題になっています。一方、新興国では最近変化があり、例えば中国では漢方から西洋医学にシフトしつつあり、多くの病院が出来始め、医療環境が整いつつあります。アジアは人口が多いですから大きなマーケットに成長してきています。
―神戸の経済は少し元気がないですが、どうお考えですか。
家次 日本全体の経済が元気ないですからね。そんな中で神戸は、基幹産業から、21世紀型へシフトすることに取り組んでいます。
〝重厚長大〟といわれる基幹産業からファッションやスイーツなどの身近なものと、その中間に位置づけられる新たな産業の出現です。例えば医療産業です。バランスを取りながら、外に打って出られる産業として育成していかなくてはなりませんね。そしてもう一つ大切なことは、外からの人材を受け入れることです。実を結ぶには少し時間はかかるでしょうが、いろいろな芽は出始めていると思います。
―大河ドラマ「平清盛」も始まり、兵庫・神戸がクローズアップされる機会が多くなり観光にも弾みがつきますね。
矢田 観光は滞在型で誘致しなくてはいけないと考えています。神戸へ来て、泊まって、観光して、会合なども開いてという形を作っていくチャンスではないでしょうか。新設された歴史館やドラマ館を訪れていただき、あわせて神戸の街全体を感じ取っていただけるようなセット観光を打ち出していこうと思っています。
家次 私どもは、西区に研究開発の拠点であるテクノパークを持っています。建物の最上階からは遠くに淡路島、手前に須磨や明石が見渡せて特に夕陽の頃には、本当に神戸はきれいな街だなあと思いますね。
須磨や明石は源氏物語の舞台にもなっていますし、万葉集をはじめ多くの歌にも詠まれてきました。しかし、平清盛と神戸の縁はあまり知られていないようです。歴史的な再発見を考えると、六甲山と港だけでなくいろいろな観光資源がありますからどんどん情報発信していかなくてはいけませんね。
矢田 神戸は昔から日本の動脈です。例えば、平清盛が始めた日宋貿易でも京都へつなげていく条件が整っていました。時代を追っていくと、さまざまな出来事での要所になり、神戸開港に至っています。改めて認識していただくには、観光資源を開発しながら広げていくことが大切でしょうね。
―では最後にお二人の今年の抱負をお聞かせください。
家次 昨年は東日本大震災や原発の影響もあり、日本が守りの姿勢になっていたと思います。今年は打って出る年です。最近は中国や韓国が元気で、ビジネスの世界でも、日本が若干劣勢という機運がありますが、日本から何かを発信するという姿勢を持つべきときです。私どももグローバルな取り組みを進めてきていますが、世界から認められるものを日本から、そして神戸からより多く発信していきたいと思っています。
矢田 財政的に厳しい状況ですが、市民が満足感を得られるような状況をつくることに常に取り組まなくてはいけません。阪神・淡路大震災から17年かけて追い求めてきた街のあり方の中に、新たな展開を加えていく年になると思っています。さらに、大変な状況に陥っている東北への支援は今後も続けていきたいと思っています。
―今年が良い年になるようにご尽力ください。ありがとうございました。
矢田 立郎(やだ たつお)
神戸市長
家次 恒(いえつぐ ひさし)
シスメックス株式会社 代表取締役社長
1949(昭和24)年9月17日生まれ
社団法人神戸商工会議所 副会頭
社団法人神戸経済同友会 常任幹事
社団法人日本臨床検査薬協会 会長
日本貿易振興機構 神戸貿易情報センター 会長
一般社団法人兵庫県発明協会 会長