9月号
兵庫医科大学40周年 阪神エリアの「医学」拠点に
兵庫医科大学 学長 中西 憲司さん
1972年開学以来、教育、研究、診療の発展に努めてきた兵庫医科大学。40年の歩みと今後について、中西学長に伺った。
地道に歩んできた40年
―開学40周年おめでとうございます。今年は記念行事など予定されているのですか。
中西 ありがとうございます。11月22日の創立記念日に記念式典を予定しており、今準備中です。
―最近は卒業生全員が国家試験合格と嬉しい話題もありますね。
中西 3年前が100%、その後、97%、90%と続き、今年が再度100%。全国的にも非常に珍しいことで、素直に喜んでいます。
―40年かけての快挙ですね。
中西 開学当時は色々苦労がありましたが、各教授が高い目標としっかりした方針を持ち、学生も頑張って期待に応えるという、地道な努力の結果だと思っています。
―開学以来、研究にも力を入れているそうですね。
中西 新設医大はともすれば功を焦りがちなものですが、研究は一朝一夕に結果が出るものではありません。きちんとした基盤の上に積み重ね、結果としていくつかの研究成果を世界に向けて発信してきました。将来国民の健康に役立つハイレベルな研究でなければ国から科学研究費補助金を頂けません。嬉しいことに本学の補助金獲得額は年々右肩上がりで増えてきています。
―どのような研究ですか。
中西 基礎的な研究もあれば臨床的な研究もあります。バランス良く研究成果が出ております。私の専門分野でもある免疫学を例に挙げますと、インターロイキン18という新奇の生理物質が世界に先駆けて本学で発見されました。白血球と白血球の間をむすぶ情報伝達物質の一種で、病原体を排除する際に有益な物質です。本物質の研究は基礎医学者も臨床医学者も総出で行っております。最近私達は、本物質がアレルギーの原因になることを突き止めました。
教育、研究、診療の発展 3つの使命を果たすために
―学長ご自身も研究は続けておられるのですか。
中西 もちろんです。「良い研究をしてください」と口で言うだけでは駄目です。自分で示さなければいけません。今でも私が本学で科学研究費補助金を一番沢山とっています。まず自分が率先して示さなければいけませんからね。
―教鞭も取っておられますね。
中西 本学の場合は通常、学長が教授職も兼任しますから、今でも学生を教えています。講義することで学生の様子が分かり、試験の結果や学生の反応でどんなところが弱いのかなどよく分かります。また、学会や研究会等で講演を頼まれれば可能な限りお受けして、自分たちの研究成果を発表します。様々な専門分野の先生方と色々な話をして、国内だけでなく世界の最新情報を常に取り入れる努力をしています。
―学長であり、研究者、教育者でもあるのですね。
中西 医科大学の使命は教育、研究、診療です。教授専任のころに比べれば、研究や授業にかける時間はかなり減ってしまいましたが、そういった感覚だけは失わないようにしたいと思っています。
―兵庫医療大学との連携は。
中西 ポートアイランドの兵庫医療大学には看護学部、薬学部、リハビリテーション学部があり、本学には医学部があります。医療のコアになる4学部です。例えば、東日本大震災のような緊急時に医療チームを派遣する際は、医師、看護師、薬剤師は欠かせません。さらに被災地へリハビリの専門家の長期的な派遣も必要です。そのため平時でも4学部は密接に連携しています。現在は医師とコメディカルの人達が協力して患者を治療するチーム医療の時代です。医師はチームの中心ですから、4学部で協力して、いかに患者さんに元気になってもらうかを学習し訓練もしています。
―1年生から実習をされているそうですね。
中西 医学を知らない時期に現場を見るというのも大事なことです。患者さんと同じ目線で見るということは、医師になってからでは難しいものがありますから早期臨床体験実習を実施しています。
―ほかにも、特色はありますか。
中西 教員と学生との双方向性教育です。座学中心の教育では教員から学生への一方通行の教育になりがちです。それを補うため、結論そのものではなく、考えるプロセスをマスターする能動学習です。本学はまた、能動学習の一つとして基礎配属を取り入れています。学生を基礎医学の研究室に約3週間配属します。医学部を卒業して研究者になるのはほんの一部で、ほとんどが臨床医になります。しかし、今学んでいる医学的知識がどういう研究や発見によって得られたかを知っておくことで、医学に対する感じ方、考え方が変わってきます。医学は自然科学の一つですから、数学や物理ほどではないですが原理原則があり、それを理解すればたくさんのことも憶えやすいものです。国家試験に向けて記憶するだけが医学の勉強ではないことを知ってもらいたいと思います。
オンリーワンを目指して地域に貢献
―卒業後の進路については。
中西 本学に残ることもできますし、定評のある病院、特色のある病院で研修することもできます。学生たちは実績のある病院で研修したいという思いを持っています。全国どこであろうと彼らが成長してくれればそれでいいと思っています。そしてそこで一番良いところを学んで、本学へ戻ってくれれば一番うれしいんですがね(笑)。
―卒業後、医師不足の地域で働くための兵庫県特別推薦入学制度は今も続いているのですか。
中西 はい、毎年5人の定員枠でずっと続いています。本学建学の精神の一つ「社会の福祉への奉仕」にのっとって、「ささやま医療センター」を設立し、本学地域医療の拠点としています。医師不足の地域では専門医よりも、むしろ幅広く患者さんを診療出来る医師が必要です。そして、自分の手に負えない場合は患者さんを専門病院に迅速に転院させる判断ができる医師、そういった医師の養成です。
―新教育研究棟建設の予定があるそうですね。
中西 40周年ということは、建物も40年。かなり老朽化しています。大教室に学生が集まるという昔の教育スタイルはチュートリアルに代表される少人数教育に変わってきています。また、情報通信教育の本格的な実習も必要な時代です。更に大震災もありましたから免震構造も必須です。平成28年ごろの完成を目指して現在、具体的に計画を進めているところです。
―大学病院では急性医療総合センターもいよいよ完成ですね。
中西 建物は今年末に完成しますが、実際に患者さんに利用いただけるのは来年6月からです。阪神・淡路大震災を経験したことがJR福知山線脱線事故の際の迅速で的確な対応につながりました。これらの経験を生かし開設される新病棟です。建物のブレイン機能を全て最上階に集め、災害時に拠点として機能できるように設計されています。
―最後に、私立の医大としての今後についてお聞かせください。
中西 独自の価値観と判断とで運営出来るのが私立大学の強みです。とはいえ、阪神地区にある医科大学として、地域の皆さんの役に立てる「医学」の拠点でありたいと考えています。医学医療の教育、研究、診療の全てにおいて、オンリーワン大学を目指して今後も頑張りたいと考えています。
中西 憲司(なかにし けんじ)
兵庫医科大学 学長
1975年和歌山県立医科大学卒業。1981年より米国国立予防衛生研究所(NIH)にて研究に従事。1984年に兵庫医科大学に着任し、1995年免疫学・医動物学講座の教授に就任。先端医学研究所・生体防御部門部門長、学生部長などを歴任し、2010年4月より、兵庫医科大学第9代学長に就任。