9月号
地域医療の歴史を引き継ぐ
一般財団法人 甲南会
甲南病院院長 小倉 純さん
甲南病院は昭和9年、神戸ゆかりの平生釟三郎によって開設され、「悩める病人のための病院たらん」という精神を引き継ぎながら発展してきた。
―70年以上の伝統を持つ病院ということですね。
小倉 そうですね。私が院長になったのが平成23年6月1日、その月の17日がちょうど77周年でしたので、今はもう79年目に入っています。
―地元ではお馴染みの丘の上の建物。とてもレトロな雰囲気ですが使い勝手は。
小倉 山の中腹にあるこの建物は、私も高校、大学と阪急神戸線で通っていましたのでいつも見ていました。もっとも当時は看板もなかったので、ここが神戸大学の教育学部だと思い込んでいたのですが(笑)。使い勝手についてはどう使いこなすか…ですね。
―平成23年1月に病院機構評価(第6版)」の認定を受けたということですが、この意味は。
小倉 日本医療機能評価機構が病院の医療提供が適切に実施されているかを第三者的な立場から公平に評価しています。その基準は時代に応じて変わり、当院が平成18年に初めて認定された当時は第4版、現在が第6版です。医療の質と安全面において基準以上であるという認定証をいただいています。
―看護師さんの体制も7対1ということですね。
小倉 大きな病院ではほとんどが7対1になっています。当院でもトータルで7人の患者さんを1人の看護師が看るということで、医療をより充実させることを意図しています。
―チーム医療にも取り組んでいますね。
小倉 当院では糖尿病センター、血液浄化・腎センター、消化器病センターを開設し、それぞれに関係する職種、診療科が枠を取り払って専門性を発揮し、意見を出し合い協力しながら患者さんの診療にあたっています。また、8月7日には神戸市から市内第二番目の認知症疾患医療センターの指定を受けました。指定病院は神戸大学附属病院のセンターだけだったのですが、非常に込み合い3カ月、4カ月と待ち時間が長くなっていました。
―認知症医療とは。
小倉 神経内科専門である私の認知症外来、宝塚医療大学の認知症専門で精神科医の阪井先生、当院の老年内科の芳野先生の外来は以前から設けていましたが、それに加えてセンター内では、地域の認知症患者さんの家族や介護士などから相談を受け、精神保健福祉士、認知症の認定看護師、臨床心理士が対応します。
それぞれの担当間で連携し、また地域とも連携しながら認知症患者さんを見守っていこうというものです。入院に関しては、認知症患者さんが持つ身体疾患の治療については対応しますが、幻覚、幻聴など周辺症状を発症している場合は当院で対応できませんので、西宮の仁明会病院と連携しています。
―先生は認知症外来のほかにも外来も担当しておられるのですか。どういった患者さんが多いのですか。
小倉 週1回の認知症外来のほかに、2回の神経内科外来で診療しています。最も多いのは脳血管障害の後遺症の患者さんです。当院には現在、神経内科の医師が私を含め2人しかいませんので、急性期の患者さんをすべて受け入れることはできません。同じグループの六甲アイランド甲南病院に脳神経外科が新設されましたので、今後は先方に紹介するケースが増えると思います。ほかに診療しているのはパーキンソン病、認知症、てんかんの患者さんなどです。
―甲南病院ではがん治療にも力を入れているそうですね。
小倉 ガイドラインに沿った標準的な治療はもちろんですが、末期患者さんでも希望を持っていただきながら療養にのぞんでいただける化学療法を行っています。
―療養型のトップハウスというのは。
小倉 新館3階に22の個室があります。症状が重症になり一般病棟に移っていただくことがない限りは、ご本人も家族の方も安心してずっと療養していただけます。
―地域貢献については。
小倉 医師会とは緊密に連絡をとりながら、地域医療貢献に努めています。当院として特に公開講座などは実施していませんが、毎年10月の病院祭にはたくさんの地域の方に来ていただいています。昨年は、落語家さんをゲストに呼んでの公演と、副院長の講演「笑いと健康」、麻酔科の先生のお話などで、大変好評をいただきました。
―甲南会には六甲アイランド甲南病院、甲南加古川病院もありますが横の連携はあるのですか。
小倉 もちろんです。例えば、六甲アイランド甲南病院の脳神経外科の先生には週1回こちらで外来を担当いただいています。こちらからは眼科の医師が出向いています。また加古川病院には麻酔科の常勤医がいませんので、必要に応じて応援に行っています。
―医療機器の相互利用もあるのですか。
小倉 認知症診断に必須の脳血流シンチグラフィーの診断装置は当院にはありませんが、六甲アイランド甲南病院にはありますので、そちらを使用しています。認知症疾患医療センターの条件の一つですから。甲南会だから指定を受けることができたといえるでしょうね。
―六甲アイランド甲南病院のほうが最新機器が多いのですか。
小倉 そうでもないですよ(笑)。当院のMRIは3テスラの装置を導入しています。眼科硝子体手術ができる最新の装置はこちらにしかありません。
―神戸大学やポーアイの先端医療センターなどとの連携もあるのですか。
小倉 神戸大学のサポートは大きいですね。がん患者さんのPET検査には先端医療センターを利用させていただいています。アルツハイマー病の最先端の診断方法のアミロイドPET診断での利用も今後は可能になるかもしれません。
―これからも最新の医療で歴史的にも親しまれている地域貢献をよろしくお願いします。
小倉 純(おぐら じゅん)
一般財団法人 甲南会 甲南病院院長
1949年生まれ。1974年神戸大学医学部卒業。1988年甲南病院神経内科部長に赴任。2001年甲南介護老人保健施設施設長兼務2003年副院長、2011年6月から現職。