9月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 60
さまざまな精神疾患を引き起こすストレス
生活のリズムを整え、適度な睡眠・休息を
─ストレスとは医学的にどのようなものですか。
花田 ストレスとは外部からのさまざまな刺激(ストレッサー)により、心や体に負担がかかり心身に歪みが生じることです。ストレッサーにはさまざまなものがあり、寒冷、過労、感染、過剰な薬物のように生理化学的な因子もあれば、災害のような社会的な因子もあります。
─ストレスはどのような精神疾患に結びつきますか。
花田 ストレスは不眠やうつ状態、自律神経の乱れを生じさせ、うつ病、不安障害(神経症)、ストレス障害・適応障害、心身症などさまざまな病気の要因になります。多いのはうつ病で、不眠・食欲不振・憂鬱・不安・焦燥感・意欲の低下・絶望感・自殺願望のみならず、全身倦怠感・めまい・動悸・息苦しさ・頭痛などの身体症状が出ることもあります。ストレスは内因性のうつ病の引き金になることもあります。同様に多いのは不安を主訴とする心の病気、不安障害です。過敏で神経質な性格から、一般的に人が気にしないような事に対して不安にいてもたってもいられなくなる病気で、突然不安に襲われ呼吸困難や動悸などの発作が出るパニック障害や、ひとつの行動にこだわってずっとそれを続けてしまう強迫神経症などいろいろな不安障害(神経症)があります。典型的で多いのがストレス障害・適応障害です。適応障害は新しい職場や学校などの環境になじめずにストレスがたまり不眠や不安、抑鬱気分が強くなり、さまざまな自律神経症状が生じて出勤や登校ができなくなるもので、いわゆる五月病もこれに該当します。また、急性ストレス障害(反応)では、生死に関わるような要因でトラウマ(心的外傷)を経験した後、不安、恐怖、混乱や動悸、発汗などの自律神経症状が生じますが、4週間以内に治まります。これが長く続くのがPTSD(心的外傷後ストレス障害)で、震災や戦争など強烈なトラウマ体験後にフラッシュバックや過覚醒、悪夢、不眠、現実感や感情の喪失などの症状が継続するものです。精神疾患のみならず、ストレスは胃かいようや円形脱毛症など100以上もの心身症の原因にもなり、不妊や認知症にも影響します。
─ストレスはどのように精神疾患を引き起こすのですか。
花田 ストレッサーを判断するのは前頭葉の働きで、それをどの程度のストレスとして感じるかは個人差があります。ストレスを感じると副腎からコルチゾールというストレスホルモンの分泌が促され、脳内のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質のバランスも崩れます。ストレスはほかにも脳下垂体や運動系、免疫系にも影響を与えます。ストレスを長時間受けるとコルチゾールの分泌により記憶を司る海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮するといわれています。
─ストレスによる精神疾患の予防法を教えてください。
花田 まず、ライフスタイルを見直しましょう。食事・睡眠・休養・仕事(勉強)・運動の5つが毎日規則正しくおこなわれると生体のリズムが順調にまわります。不眠や昼夜の逆転など不規則な生活もストレスがたまりやすいので、改善が必要です。特に睡眠は重要です。毎日の精神的な疲れは睡眠により抑えることができます。また、趣味やスポーツに没頭して気分転換したり、生活圏を離れて自然の中でリフレッシュしたりするのも良いでしょう。音楽やペットも効果的です。一人で悩んでいると不安の種が大きくなりますので、誰かに話したり相談するのも良いことです。プラス思考を心がけるなどのメンタルトレーニングやイメージトレーニング、腹式呼吸やカルシウム摂取など自分で努力できることもあります。表1を参考に、自分なりの対処法を見つけてストレスの芽を早めに摘むように心がけ、重症だと感じたら早めに精神科や心療内科に相談しましょう。
─過剰なストレスを抱えている人にはどう接すればよいですか。
花田 本人のペースを尊重し、温かく見守ってあげてください。場合によっては対策を一緒に考え、協力してあげるのもひとつの方法です。話を聞いてあげるだけで、気持ちが楽になることもあります。しかし、うつ病の場合には叱咤激励は原則的に禁物です。
花田 進 先生
神戸市医師会理事
花田神経内科クリニック院長