3月号
季節の移ろいを和菓子に込めて|創意工夫の中にも、伝統的な〝決まりごと〟を大切に
2019年春から毎月、弊誌に季節の和菓子を掲載いただいている御菓子司常盤堂。名称と意匠には、伝統的に守られてきた季節にまつわる決まりごとがあるそうです。その基本になっている暦のことや、伝えたい思いを岩崎典治さんにお聞きしました。
和菓子の名称と意匠に込められた深い意味
小豆と砂糖と粉のバリエーションが和菓子(生菓子※1)で、きんとん、薯蕷、煉切があります。2022年(令和4)に和菓子「菓銘を持つ生菓子(煉切、こなし)」(※2)が国の無形文化財に登録されました。和菓子の技とそれぞれの名称がセットで認められたのです。
和菓子の意匠とその名称には深い意味があります。例えば「落とし文」。5月ごろに山歩きをすると、手紙のようにくるりと巻いた葉っぱが落ちているのを見かけます。これは、春先に小鳥がついばんで落とした葉っぱです。秋の枯葉は根元が内側に向かって巻くのとは違って、春に落ちると葉先が内側に向かって巻いていきます。ですから、「落とし文」の意匠は葉先を葉の根元に重ねてはいけないのです。他にもいろいろ決まりごとがあり、模様では縦の線は水の流れ、横の線は風の流れを表し、色では、濃い紅色の梅は本紅、白に近い桜は薄紅などなど、和菓子職人が代々守り続けてきました。もちろん、時代に合わせた創意工夫も必要です。私自身も新しい和菓子を創作しますが、決まりごとは守らなくてはいけません。
※1水分量30%以上を含むお菓子の総称
※2「煉切」と「こなし」は見た目では見分けが付きにくいが、一部材料と製造工程に違いがある
和菓子の基本は、一年に五回訪れる季節の変わり目
和菓子は季節の移ろいを表現します。その基本が暦の中の「五節句」です。古来中国で人を占った日といわれる1月7日「人日の節句」、ここから次第に春らしくなって3月3日「桃の節句」、男の子の成長を祝う5月5日「端午の節句」、織物の神様のお祭り「乞巧奠」に由来する7月7日「七夕の節句」、ここから季節が秋に変わり始め9月9日「重陽の節句」がきます。陰暦ですので、少し今の季節とはズレているかもしれませんが、それぞれに季節の変わり目です。四季のある日本で生まれ育ってきたのですから大事にしたいと思いますね。
茶道においても和菓子は欠かせない存在です。すべてにおいて陰陽のバランスが取れていて「茶碗は陽、菓子は陰」といわれています。千利休は狭い茶室で、今だけは武器を置いて向き合い、今日のこの茶会で出会ったお互いの幸せだけを考えて接しましょうという茶道の心得を戦国時代の武将に説きました。利休の弟子・山上宗二が「一期」と呼び、後に、幕末の茶人としても知られた井伊直弼が「一期一会」と名付けています。紛争や戦争が起きる昨今、お互いの幸せを考えなくてはいけませんね。でも、考えるのに疲れたらお茶とお菓子でホッとひと息ついてもらいたい。そんな思いで和菓子づくりの仕事をしています。


和菓子のことを知ってもらうところから始めています
高齢化が進む和菓子業界ではコロナ禍以降、存続が難しくなった和菓子店がたくさんあります。後継者の育成は難しい問題です。いろいろなところで和菓子講座や手づくり体験会などを開き、和菓子のことを知ってもらうところから始めています。
能登半島地震や豪雨の被災地でも立ち直るのが難しい和菓子屋さんがたくさんあります。
神戸市が石川県珠洲市の復興支援を担当することになったのをきっかけに、昨年は現地へ出向き、特産品の大納言小豆と塩を使うレシピを考案しました。試作品を作って提案し、少しでもお役に立てればと今年はイベントで物産展を開くなど、次の段階へ進める予定です。
そろそろお花見の季節ですね。春になると「サ」という田の神が山から下りてきて、神様が座る場所「クラ」に座るのだそうです。お花見に付き物の花見団子は今では上から桜のピンク、風や水の白、葉っぱの緑が一般的ですが、元々はピンク、緑、そして大地の黒で、順序を変えてしまうと意味がなくなります。こんなことを考えながら和菓子で季節を感じてもらえれば、季節との付き合い方が変わってきて心豊かに過ごしていただけるのではないでしょうか。


御菓子司 常盤堂
神戸マイスター 岩崎 典治さん
1956年神戸市生まれ。1978年大学卒業後、慶応4年(1868)創業の御和菓子司常盤堂に入店。〝和の心″を礎にして、日々精進、修行に励み、五感を通して心から喜んでもらえる和菓子づくりを目指す。2009年常盤堂5代目として御和菓子司を継承。1級菓子製造技能士(和菓子製造作業)。兵庫県菓子工業組合副理事長。神戸市生菓子協会会長

御菓子司 常盤堂
電話:078-851-4677
神戸市東灘区御影中町4-8-22
9時〜18時30分
定休日 日曜日
https://tokiwado.jp/












