9月号

未来を駆ける神戸の新風 VOL.4|先進技術で、エンタメと社会の未来を創造 去年IPOを果たした神戸のスタートアップ
今回は、インターネット上の仮想現実空間“メタバース”関連事業を手がける「monoAI technology(モノアイテクノロジー)」(神戸市中央区)を取材した。
メタバースでは、現実世界と同じようにさまざまな建物が仮想空間内に立ち並び、ユーザーは自身の分身である「アバター」を使って、自由に散策したり、他のユーザーとコミュニケーションをとったりして楽しむことができる。将来的な世界の市場規模は100兆円とも1千兆円ともいわれるが、まだまだ未知の世界。そんな手探りとも言える領域に未来を感じ、時代を拓こうとしている社長の本城嘉太郎氏に話を伺った。
独自の“大規模同時接続エンジンを搭載した
メタバースプラットフォーム”XR CLOUD”とは!?
まずは、どういったものかお聞かせ下さい。
ゲームのような世界観の中をオフィスやミーティングルーム、展示会場などにして、ビジネスやエンタメを行うことができるバーチャル空間プラットフォームです。
活用例としては、2021年に神戸市と神戸商工会議所が開催する「神戸のつどい」をXR CLOUDで行い、神戸市長を含む約400人が参加しました。いま一般的となっているウェブ会議やセミナーでは、一人が喋っていると後の参加者は聞くだけになるので、講演が終わるとそこで終了になり、個々での会話はできません。しかし、XR CLOUDでは、講演が終わった後も近くの人(アバター)とボイスチャットを使って会話や名刺交換といった交流ができます。自分の声は周りにしか聞こえないので「面白かったですね」などと会話することで輪ができます。また、カクテルパーティーとかもひらけると、視覚的に「あっちに知っている人がいるな」と思ったら、歩いて行って話しかけることもでき、会話のきっかけを自分で選ぶことが可能です。

2021年に神戸市と神戸商工会議所が開催する「神戸のつどい」をXR CLOUDで実施
XR CLOUDならではの特徴をお聞かせ下さい。
特徴としては三つあります。一つは10万人レベルで同時接続・共有できるという点。
そして、特別なVR機器がなくてもスマホからでも簡単にメタバース空間に入ることができる点です。
三つ目は、クライアント用に周辺サービスをカスタマイズして提供するOEM展開を行っている点が挙げられます。例えば、ライブイベントにご使用頂くなら、投げ銭機能やサイリウムを振る機能を付けたり、学校なら、生徒が手を挙げた時に発言権を与える機能――といったように、目的によって必要なものが全く違ってくるので、ニーズに合わせてカスタマイズした独自メタバースとしてOEM提供しています。クライアントからすると、メタバースプラットフォームをゼロから開発するよりも安い開発コストと短い期間で構築できるというメリットもあります。

ライブイベントでは、投げ銭機能やサイリウムを振る機能も

XR CLOUD内では、バーチャルヒューマンが仮想世界で人間のように振る舞う
医療特化型のメタバースプラットフォーム「メディカルバース」も発表されましたね。
はい、こちらは医療関係者の方たちに使いやすいように最初から設定したものです。
メディカルバースをご利用頂くことで、学会に出席するための移動や会場を借りる手間といったものが省けるだけでなく、質疑応答や懇親会もリアルな世界観の中で行えるので重宝して頂いています。
XR CLOUDは、学会のように、全国に散らばっている方が一堂に会して情報交換を行う、ということに非常に向いているサービスだと思います。

医療特化型のメタバースプラットフォーム「メディカルバース」を開発
最近、 人同士がリアルで会う機会も増えてきていますが、その影響はありますか?
確かに、いま“リアル”に戻ってきていますが、今度は逆に、リアル会場に費用がかかりすぎて会場を押さえられないからメタバースにしたい、といった逆のニーズも出てきたりしていまして、件数は増え続けています。
次世代の社会インフラXR×メタバースの無限の可能性
改めてXRという技術について、どのように捉えておられるかお聞かせ下さい。
XRは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称です。XRを通して、仮想世界に“入り込み”、現実世界と仮想世界を“重ね”、“融合”させることができます。
僕たちは、この技術がメタバースにすごく大きな影響を与えると思っています。
まず、メタバースの現状をお話すると、いまイベントなどを行うだけではなく、オフィスはもちろん、学校を作って欲しいとか、街全体を作って欲しいというような依頼があります。
しかし、いまだと、スマートフォンやパソコンの画面を通して、三人称で世界を見ているだけなので、どうしても、まだ本当の魅力や利便性が伝わっていないと。ところが、XRデバイスを通すことで没入感を得ることができます。とは言え、XRデバイスは、まだ大きくて不格好ですし、持っている人も少ないのですが、これが将来、進化してサングラスタイプになる時代が来ると思っています。そうなるとみんなスマートフォンを使うように、朝起きたて眼鏡をかけると仮想世界と現実世界が入り組んだような世界を送るようになり、XRとメタバースが融合する日常が来ると考えています。そうするとメタバースがもっと進化します。つまり、XRがメタバースを進化させると捉えています。

オフィス、学校、さらに街全体をメタバースで作って欲しいというニーズにも応える
メタバースがもたらす、未来の可能性にどのように感じられていますか?
改めてになりますが、メタバースが、新しいライフスタイルインフラというか、みんなが携帯を見ているかのように、毎日使って当たり前になる時が来ると思っています。その意味では、現在は、本当に黎明期の黎明期みたいな状況なので、今後は大きくなる可能性をすごく感じているのと、あと、AI によって、バーチャルヒューマンなど、仮想世界で人間のように振る舞う人たちとの交流のプラットフォームとしてもすごく有用なので、今後も僕らのテクノロジーの進化に合わせて活用がどんどん広がっていきそうだなっていう風に感じています。
会社の強みは技術力 × デジタルマーケティング力
御社の強みは何でしょうか?
元々ゲーム業界出身のオンラインゲームを作ってきた人間が多いので、メタバース技術の相性とすごく良いチームが揃っているというところです。メタバースは、ゲームエンジンという技術で作られているのですが、そういったものをずっと取り扱ってきた人たちが作っています。僕も元々プログラマーですが、経営陣には、サーバーの第一人者やAIの技術を使ってゲームを作る第一人者が揃っています。こういった面で技術的な差別化が一つできていると思います。それに加え、デジタルマーケティングに強い人材も経営に参画しており、いま技術とマーケティングの両輪で成長しています。
最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
同じ関西でも京都・大阪に比べて神戸はIT企業が少ないと言われていたんですけれども、米マイクロソフトのラボが神戸に設置されましたし、僕たちのような先端技術を使ったITベンチャー企業があります。
これからそういったAIやXRの技術を神戸から発信していく機会がすごく増えてくると思っておりまして、これから「ITの街・神戸」のようなものを作っていければという風に思っています。

monoAI technology株式会社
代表取締役社長
本城 嘉太郎さん
サーバエンジニア、大手コンシューマゲーム開発会社を経て、2005年にmonoAIを創業。2013年にモノビットリアルタイム通信エンジンの販売を開始、その後2020年に大規模仮想空間基盤『XR CLOUD』をリリース。2022年にメタバース企業として、日本初の東証グロース市場への上場を果たす。

monoAI technology株式会社
(モノアイテクノロジー)
神戸本社
兵庫県神戸市中央区三宮町一丁目8番1号 さんプラザ3階34号室
東京支社
東京都新宿区新宿1-9-2 ナリコマHD新宿ビル4階
https://monoai.co.jp/

〈プロフィール〉
蔭岡翔(かげおか しょう)
放送作家・脚本家
神戸市東灘区在住。関西の情報番組や経済番組などを企画・構成。日本放送作家協会関西支部監事。日本脚本家連盟関西地区総代
〈取材を終えて〉
コロナ禍が加速させたメタバース。2020年にサービスを開始したXR CLOUDは、市場のニーズをうまく捉えた。2023年第1四半期の実績では、イベント実施数が前年比の244.4%(すでに前年通期の50%)と堅調。しかし、オンラインゲームもやったことがない筆者は、失礼な話だが取材を行うまでは、現状のウェブ会議で十分なものなのではないかと懐疑的に見ていた。だが、参加者同士が個別に会話することができるという話を聞いて一気に姿勢が変わった!テレビ番組の会議では、その前後の雑談が新しい企画を生むことが時々あり、その重要性を知っているからだ。XR CLOUDがあれば、在宅でもリアルに準ずるような仕事ができる――。そんな恩恵にあずかれる業界はたくさんありそうだ。本城社長が描く、XRとメタバースが融合した日常が訪れる未来が楽しみである。