7月号
未来を駆ける神戸の新風 VOL.2|神戸大発ベンチャー! 日本のバイオものづくりを支える挑戦!
今回は、研究開発型のスタートアップなどへシェアラボを提供するクリエイティブラボ神戸(中央区港島南町)に本社を持つ企業を取り上げる。いま、世界的な脱炭素の潮流のなか、素材や燃料、代替タンパク質などの有用物質を微生物によって作らせる「バイオものづくり」が注目されている。二酸化炭素(CO2)を原料とする水素酸化細菌を使うことで大量の炭素を固定化できる可能性があるためだ。そんな中、アジア初の本格的な統合型バイオファウンドリの実現を目指して、2020年に神戸大発のバイオベンチャーとして設立されたのが「バッカス・バイオイノベーション」(以下、バッカス社)。神戸から日本のバイオものづくりを支えようと未来を見据える、社長の丹治幹雄氏に話を伺った。
これからの「バイオものづくり」に必要なバイオファウンドリとは?
バッカス社を設立した想いや経緯をお聞かせ下さい。
社名の「バッカス」は、ローマ神話に登場するワインの神です。バイオテクノロジーである醸造技術をもって人々に幸福をもたらしました。我々も世界のバイオイノベーションを牽引したいと、その名にあやかりました。
創業は、神戸大学発のベンチャーとして、副学長の近藤昭彦教授が研究で培った技術・ノウハウを包括的に技術移転して行いました。我々が取り組むバイオファウンドリは、非常に拡張性があるビジネスです。そこに将来性を感じたデフタパートナーズ、ロート製薬、太陽石油の3社から出資を受けて事業を開始しました。私は当時、デフタパートナーズの役員をしており、各社の出資の調整などを中心となって行っていました。その後、縁があって2021年12月から社長に就任しました。
バイオファウンドリとはどういったものなのでしょうか?
確かに、一般の方からすると分かりにくいかもしれません。そもそもファウンドリとは一般的に、半導体の製造を専門に行う企業のことです。半導体を使った製品の多くは、ファウンドリが半導体の企画・製造を行い、製品としての販売は違う会社が行います。現在、こういったものづくりの手法は、半導体に限らず増えてきましたが、この潮流はバイオものづくりの世界でも起こるのではないかという風に考えています。
つまり、バイオファウンドリとして、製品を作るのではなく、製品を作るための微生物を提供して、ものづくりを支える役割を担うのです。
バイオものづくりは、バイオテクノロジーを駆使して、石油代替品や医療品などの有用な物質を微生物につくらせるわけですが、日本の化学企業の場合、自社が扱う特定の微生物などに関しては個々に研究されているものの、その他の微生物にも視点を広げて、どれが一番良いかなどを検証するところまではできていません。そんな中、これからの時代、広い視点で最良のものづくりの仕方を提供することができる我々のような存在が必要となってくると思うんです。
最良を導き出す「計算科学」×「バイオテクノロジー」
バッカス社ならではの強みを教えて下さい。
我々の仕事は顧客企業が求める微生物をつくり出し、提供することです。神戸大学は、この分野において世界で戦えるほどの高い技術とノウハウを持っています。
また、微生物を効率よく素早く提供する体制を整えるため、デザイン(設計)、ビルド(構築)、テスト(評価)、ラーン(学習)のDBTLのサイクルを大切にしています。
まず、目的の物質を効率よく生産するために我々は『計算科学』で最良の方法を導き出します。“どういうルートで作れば良いか”、“どういう酵素を足せば良いか”といったことをコンピューターに計算させるのです。
次に、実際に物質を生産してみて、作ったら本当に求めたものができているかをテストします。ちなみに、これらを1個1個、人の手でやると大変なので、機械化・自動化を最大限に活用して実験を行うのも当社の強みです。
そして、最後に結果を元のコンピューターに戻して学ばせます。これを繰り返すと精度も高まり、また、新しいデータも取れるようになってきます。このデータ量が、求められる微生物をつくり出すための財産になります。
微生物を使ってSDGsに貢献!
バッカス社が、バイオものづくりで着目している点はなんでしょうか?
水素酸化細菌を使って二酸化炭素から物を作る技術です。世界的には二酸化炭素をどうするかということが問題になっていますが、これを原材料に使うことができれば、二酸化炭素量を減らすことに繋がります。
具体的には、タンパク質を作ることができます。これは、人間の口に入れるのはちょっと難しいかもしれませんが、魚の餌などにできます。また、環境に優しい生分解性プラスチックにもなります。現状、一部実現しているという段階なので、幅広く本格的に大容量で作ることができるかどうかは、少し時間がかかりますが、技術的にはできると考えています。
バイオテクノロジーで他にできることはありますか?
実は、この業界はアメリカが先行しているのですが、モデルナ製の新型コロナワクチンに使われた、mRNAに加える酵素もバイオの技術で作られました。この例でも分かるように、薬の業界でも色々な可能性があります。もちろん、化粧品やゴムなど、ほとんど何でもできると思って頂いて構いません。
ただ、技術的にできても、コスト面での課題はあります。しかし、SDGsや脱炭素が求められる中で、多少高くても使われるようになる可能性はあると思っています。
バイオファウンドリを通して神戸を盛り上げたい!
バッカス社にとって神戸の魅力は何でしょうか?
技術ベースになっている神戸大学がある場所であるということに加え、まさに当社が入っているクリエイティブラボ神戸のように、オープンイノベーションの拠点がある点です。このような市の取り組みの中で、非常に広いラボを得ることができました。
また歴史的に見ても、灘の酒など、醸造技術(バイオテクノロジー)を基盤とした産業が根付いている土地ですので、そういった意味でも魅力があります。
最後に夢や目標をお聞かせ下さい。
この分野で世界のリーダーになっていきたい、というのが目標です。先ほど、アメリカが先行していると申しましたが、我々が勝てる部分は、いくつかあります。これを事業として成立させることで、近い将来、海外の方々とも一緒に働けるような世界のファウンドリになることを目指しています。
これが実現できれば、神戸にたくさん海外からも人がいらっしゃるし、場合によっては企業設立する方もいらっしゃるかもしれない。そうなると、神戸がますます素敵な街になるのではないかと、期待しています。