4月号
「憧れている友達にふさわしい自分になりたい」
小学6年生男子のプライドと成長を描く
『雑魚どもよ、大志を抱け!』映画監督 足立 紳さん
いたずらをしては逃げ出し、大人たちに叱られても日々自転車で田舎道を駆け抜ける少年たち。他人の子どもでも、時には叱り飛ばし、時にはお節介を焼く大人たち。人間関係がどんどん希薄になっていく今、全力でお互いに向き合う姿が懐かしくも愛おしくなる映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』が3月24日より絶賛公開中です。企画、共同脚本、監督の足立紳さんが20年がかりで実現させた本作では、弱い自分と向き合う少年たちやその親たちの姿が、人間味たっぷりに描かれます。青春映画の名作『スタンド・バイ・ミー』や『ションベン・ライダー』へのオマージュも感じられる新たな青春映画の傑作が誕生しました。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」の脚本も控える監督の足立紳さんに、お話を伺いました。
本当は大森一樹監督のファンだった
80年代後半が舞台で、相米慎二監督の『ションベン・ライダー』(83)を想起する部分もありましたが、相米慎二監督に師事されたきっかけは?
日本映画学校卒業時に、恩師のプロデューサー、佐々木史朗さんから今後のことを聞かれ、大森一樹監督の大ファンだったので現場で助監督として付きたいことを明かすと、その場で電話をしてくれたんです。あいにく新作クランクインの直前だったので断念したところ、1週間後に佐々木さんから電話があり、「相米監督は好きか?」と。薬師丸ひろ子さんが大好きだったので『セーラー服と機関銃』(81)や『台風クラブ』(85)などの作品はよく観ていました。薬師丸さんはとても魅力的に映っていましたが、当時は観終わった後、頭の中でハテナが渦巻き、正直そこまで相米さんのことを好きという感じではなかったのです(笑)。
意外なご縁だったのですね。
その後、オフィス・シロウズで相米さんに会いましたが、「青年、どこから来たんだ?」と始まり、そこからご飯を食べに行っても、とにかく何も喋らない。後日、相米さんのマネージャーさんから連絡をいただき、具体的な予定はないけど、若い人を横において色々企画を考えたいとのことで、給料をいただきながら相米さんに付かせてもらうことになりました。22歳の頃に丸一年ぐらい丁稚のようなことをし、そこからも現場に呼んでいただいたり、脚本を見ていただいたりする関係は続きました。相米さんが総監督を務めた短編オムニバス『かわいいひと』(98)では助監督として参加しましたが、『あ、春』(98)で声をかけてもらったときはこの業界を離れ、できなかった。本作の元になる脚本を相米さんに読んでもらったのも、その頃です。
相米監督に「面白い」と言われた脚本
脚本を書いたきっかけは?
90年代後半、少年犯罪が世間を賑わし、テレビではコメンテーターがその現象について知ったような顔で話しているのを聞きながら違和感を覚え、自分の思う子ども像を描きたくなりました。相米さんからは「(脚本を)書いたら見せろ」と常々言われていたので、見せないのは逃げになると思い、都度見ていただいていました。この脚本は後日、マネージャーさんから「相米が良いって言ってるから預けてみない?」と電話をいただき、すごく嬉しかったですね。僕もまだ若かったので、「相米さんが映画にしてくれるかも」という淡い期待を抱きました。
様々な変遷を経て、2014年に「弱虫日記」を出版、そして自ら映画化に動かれます。
小学校高学年男子が、一番大事に思っていることを描きたい。例えば自分が憧れている友達がいたら、まず友達としてふさわしい自分になりたい。そのプライドは、今の僕のようなプライドのかけらもない大人に響くかもしれないと思い、元の脚本と同じキャラクターで、映画の原型となる作品を新たに書き下ろしました。今回の脚本では別の視点を入れたいと思い、松本稔さんに参加してもらっています。松本さんは飛騨のロケハンでトンネルを見つけ、彼らが度胸試しをする場所として取り入れたいと提案してくれました。
7人の子役と同級生の雰囲気作り
瞬役の池川侑希弥さんと親友、隆造役の田代輝さんの起用理由は?
池川君本人が持っているキャラクターと瞬とが近かった。彼は受かりたいと前に出るのではなく、2番手か3番手にいたいタイプの子どもで、隆造の右腕でいたいという雰囲気に合致していました。隆造役のオーディションでは、先に決まっていた池川君とあえてクライマックスの芝居をしてもらい、田代君は既に本番と変わらない素晴らしい演技をしてくれ即決でした。
長回しも多く、リハーサルなど大変だったのでは?
クランクインの2ヶ月前からメインの7人に週末集まってもらいましたが、リハーサルというより、ずっと一緒にいる同級生という雰囲気作りをやっていました。撮影時は合宿体制で、車で30分走らないとコンビニもないような何もないところに、コロナ対策として付き添いなしで参加してもらい、子どもたちは自然と自分の役に入り込んでいけたようです。映画出演や演技が初めての人も多かったけれど、初めての現場がこの作品であったことを、「いい体験をした」と思ってくれているんじゃないかな。
親たちを描く映画
名作少年映画は数多いですが、本作は親たちの生き様もしっかりと描き、続『喜劇 愛妻物語』の趣があります。
母親を描く映画だと思っている部分もあり、瞬の母(臼田あさ美)は僕の母がモデルです。子どもに八つ当たりし、自分の弱さを抱え込むことができない一方、息子の友達のことを心配して、お節介を焼くいいところもある。冒頭で入塾を嫌がる瞬に、乳がん手術跡の左胸をバン!と見せるシーンがありますが、あれも僕の母の得意技でした。
隆造の父で前科者のヤクザを演じた永瀬正敏さんの存在も圧巻でした。
そこは相米監督へのオマージュ的意味合いもあります。『ションベン・ライダー』で映画デビューした永瀬さんは、藤竜也さん演じるヤクザにボコボコにされたので、今度は息子に暴力を振るう父を演じていただきました。今回永瀬さんとは初めて作品でご一緒させていただきましたが、脚本を読んで、ぼそっと「トカゲ(白石葵一・宗教二世のいじめられっ子)がいいんだよね〜」と言ってくださり、相米さんの思い出話もたくさんしてくださいました。
長いコロナ期間を密にならないように過ごしてきた、今の子どもたちにもぜひ見てもらいたいですね。
80年代後半の田舎を舞台にした話ですが、人間関係はとても密です。今はコロナ下で無理やり人間関係を薄くされてしまったところがあるので、子どもたちがこの映画を観て、「こういう小学校時代を送りたい」と思ってくれたら、ちょっと嬉しいですね。
足立 紳(あだち しん)
1972年鳥取県出身。相米慎二監督に師事。脚本を手掛けた『百円の恋』が2014年映画化。主な脚本作品に『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(17)、『こどもしょくどう』(19)、『嘘八百シリーズ』、『アンダードッグ 前編・後編』(20)。監督作は『14の夜』(16)、『喜劇 愛妻物語』(20)など。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」(2023年10月スタート)の脚本が控える。