4月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第141回
尼崎市民医療フォーラム「どうなる?医療分野の情報化~
マイナンバーカード使えます?!!」について
─尼崎市民医療フォーラムは、昨年で15回目でしたね。
内藤 尼崎市医師会では平成19年からフォーラムを開催し、市民のみなさまにわかりやすく医療に関する問題の啓発や情報発信をおこなっています。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から一昨年はオンライン開催でしたが、昨年は3年ぶりに市民のみなさまにご来場いただき、11月5日にアルカイックホールオクトで開催いたしました。また、オンラインでのライブ同時配信もおこないました。
─テーマは何でしたか。
内藤 「どうなる?医療分野の情報化」~マイナンバーカード使えます?!!~と題して、健康保険証としても使えるようになったマイナンバーカード(マイナカード)を通じ、医療分野における情報化を市民のみなさまと一緒に考えました。ちょうど開催直前に、保険証をマイナカードによるオンライン資格確認システムへ2024年秋に切り替える方針が政府から表明されたところで、実にタイムリーでした。
―どのようなプログラムでしたか?
内藤 尼崎医師会理事の杉安保宣先生進行のもと、まず杉原加壽子医師会会長が挨拶し、『はじめに』として社会人落語の浪漫亭不良雲さんが、お役所の手続きの煩雑さを揶揄した演目「ぜんざい公社」をマイナカードの話題を織り込みながら演じ、会場を和ませました。その後、第1部では基調講演、第2部ではそれを受けたシンポジウムを行いました。
1部と2部の合間には、稲村和美尼崎市長による挨拶もありました。
─第1部の基調講演はどんな内容でしたか。
内藤 富山大学附属病院医療情報・経営戦略部教授の高岡裕先生に、「人生100年時代の健康情報カード:マイナンバーカードの正しい使用方法」と題して講演していただきました。まず、昨年9月末時点でのマイナカードの交付率は全国で49%で、兵庫県は53.8%と都道府県別で2位という話題からスタートし、マイナカードの保険証利用=マイナ保険証なら受診時の待ち時間が減り、転職などで保険者が変わってもそのまま使えるそうです。さらにマイナ保険証を使用する際に薬剤情報や健診情報の閲覧に同意すると、医療情報が医師に提供されるため、どこでどんな治療を受けどの薬を処方されてきたかが医師へ正確に伝わり、マイナポータルの活用で自宅などから健診のデータや予防接種の情報が確認できるなど、便利で無駄が省けるというメリットがあるとのことでした。また、情報管理については病院を「銀行」、患者情報を「預金」に置き換え、個人情報は患者の物で病院にとっては預かり資産であり、治療による「利益還元」を期待して個人情報を預けるという関係にあると解説され、今後マイナ保険証が浸透するとビッグデータに基づく医療や健康の有効な対策がエビデンスとして取得でき、充実した健康長寿の人生に繋がるのではないかという展望を示されました。
─第2部のシンポジウムは先生が司会を務められたそうですね。
内藤 はい、私と中川純一先生の司会で、第1部で講演していただいた高岡先生、地元選出の衆議院議員の中野洋昌さん、尼崎中央病院理事長の吉田純一先生、兵庫県医師会会長の八田昌樹先生をシンポジストにお迎えし、マイナカードやマイナ保険証に関する心配事や、便利になることなどをうかがいました。
─マイナ保険証は実際に普及しているのでしょうか。
内藤 八田先生のお話ではマイナ保険証のカードリーダーを体温計と間違える人が多いそうで、特に高齢者はタッチパネルに慣れておらずマイナカードをつくるのも億劫になっていること、2023年4月までにオンライン資格確認等システムが原則義務づけられたが半導体不足で必要な機器が入手困難であることを指摘されました。吉田先生によれば、兵庫県はマイナカードの取得率は高いがマイナ保険証の使用率は低く、尼崎中央病院では1日あたりの外来患者500~600人のうちマイナ保険証の利用は2桁に満たない日があるとのことでした。中野さんからは、データ流出への懸念の声があるがカードの中には薬剤や口座の情報は入っておらず、データも1つのサーバで管理されている訳ではないので、仕組みをしっかり伝えていくことが心配をなくすことに繋がるというご意見があり、高岡先生は、システムを使いこなせていないのが現状で、高齢者など情報弱者にどうアプローチするかを課題に挙げられました。
─マイナカードやマイナ保険証にはどのようなことが期待されているのでしょうか。
内藤 吉田先生から、先進国の中で国民IDと医療情報が紐付けられていなかったのは日本だけだったが、事務職員の業務負担軽減にも繋がるのでマイナ保険証の利用率の向上が望まれ、活用することでより健康が守れるようになれば良いというコメントがあり、それを受けて中野さんは、多くの人が利用すればデジタル化により業務が効率化でき、その分で困っている人への対応を手厚くすることができるので、積極的に利用する人だけが得する訳じゃないとお話されました。高岡先生は、新しい制度は不安を感じさせるが、超高齢化社会の中でメリハリをつけてサービスを提供していく必要があり、弱者が見捨てられることはないので心配は不要で、より良い社会をつくっていくツールとしてマイナカードやマイナ保険証が広まってほしいと述べられました。
─マイナ保険証の定着にはどのような課題がありますか。
内藤 シンポジウムの最後に八田先生は、災害時や停電時の対応の検討の必要性にも触れつつ、マイナカードの取得は義務でなく任意であるが保険証の取得は事実上義務化されているので、マイナカードと保険証の一体化を拙速に進めるのではなく、患者、医療機関、保険者の3者のことを考えながら進めていかないといけないのではないかとまとめられました。マイナ保険証は患者とかかりつけ医を繋ぐ大切な鍵です。医療の安全を第一に考えながら、みなさまの健康のために役立てていけたらいいですね。