2月号
連載エッセイ/喫茶店の書斎から81 「がん光免疫療法」その後
本誌2020年12月号に「がん光免疫療法」と題して書いた。
このほどこの治療法とその開発者、小林久隆博士が、テレビ番組「情熱大陸」で取り上げられ大きな話題となった。うれしいことである。この治療法については現在、神戸大学医学部付属病院を始め全国60カ所以上の病院で行われるに至っている。ネットで検索すれば詳しく知ることが出来るので改めてここには書かない。が、前回掲載の中から一部を引く。
《この治療法を開発した小林久隆博士は、わたしの恩師のご子息なのである。わたしはそのご両親から教えを受けた。
また、お父上の久盛氏が西宮市教育長を退いた後、市長選挙に立候補されたとき、生涯一度の選挙運動をした。結果は、教育者上がりの清潔な先生は、根回し上手の相手候補に惜敗してしまったのだが。
そのご両親は何度かうちの店にもご来駕いただいたことがある。
ほかにもエピソードはいろいろあるが自慢になりそうなのでここでは遠慮しておこう。》
小林家とは今も交流させて頂いているのです。
前回で触れた本に『がん光免疫療法の登場』
(永山悦子著・小林久隆協力・青灯社)があるが、その後新たに出た本がある。
『がんを瞬時に破壊する 光免疫療法 身体にやさしい新治療法が医療を変える』(小林久隆著・光文社新書・2021年1月)。
この本をわたしは博士のご母堂から贈られた。
ぜひ多くの人に読んでもらいたい。
終わりの方にこんなことが書かれている。
《人はいつか死ぬ。これは自明の理だ。私の父はすでに他界し、母は現在87歳(㊟現在89歳)で一人暮らし。私は一人息子であったので、幼い頃から両親の面倒は見なければならないと思ってきた。学会などで日本に帰ってきた際は、なるべく兵庫県西宮市にある自宅を訪れている。親が先に逝くことは致し方ないことなので、私は覚悟を持って親と接しているが、親が生きているうちは健康に留意し、元気で生きていかなければならないと思っている。》
ご母堂から聞くところによると、「毎日一回、アメリカからパソコンに連絡が入りオンラインで安否を確認してもらっている」とのこと。親孝行なことである。
ところで「情熱大陸」だが、こんな場面があった。
手術もできず放射線も抗がん剤も効果がなく、もう治療の方法がないと言われていた一人の患者が、最後の手段のこの治療を施される。二か月後、がんが消えて、「感謝ですよ。ホッとしてますよ。もうがんも恐くないんだなって…」と自転車に乗って病院を後にする様子が。しかし、小林博士はその言葉を直接聞くことはない。
番組の中で博士が語られていた言葉のいくつかを記す。
《「ここで天からアイデアが降ってきたとか言うたらカッコいいんですけど、そうはならない。理詰めで一歩一歩進んでいくしかないし」
「人がいて、患者がいて、そこに貢献できるようになったら“医学”ですよね。医学研究者と自分を呼ぶ以上、譲れんとこではある」》
そして、わたしもよく訪れる夙川公園を散歩しながらの言葉。
《「最初はね、それこそネズミの治療でしょ?って言われてましたからね。そうですけどね、そりゃあネズミ治してるだけですけどって言ってました。けども今は人間が治るようになってきましたからね」》
胸の内の想いがあふれ出るような言葉だ。
しかし今のところはまだ一部の患者にしか適応されていない。一日も早く一般の多くの患者に施されるようになってもらいたいものである。
実はわたし最近、がんの診断を受け、治療法とスケジュールもほぼ決まった。が、気がかりなところが少しあり、久隆さんと電話で話した機会にお尋ねしてみた。その内容は書かないが、疑問が解消し、わたしは心が軽くなった。念のために申しておきますが、わたしのがんは早期なので、現在のところ、幸か不幸かこの光免疫療法は受けられません。
六車明峰(むぐるま・めいほう)
一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。
今村欣史(いまむら・きんじ)
一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。