1月号
患者さんにとって 〝最後の砦〟に 新春インタビュー 神戸大学医学部附属病院 病院長 眞庭 謙昌先生に聞きました。
毎月、診療科を訪ね先生にお話をお聞きするシリーズ。今回は病院長の眞庭謙昌先生に大学病院の果たすべき役割についてお話を伺いました。
コロナに対応しつつ、患者さんの〝最後の砦〟を守り抜く
―神戸大学病院は長い歴史を持つ病院なのですね。
明治2年、神戸港開港直後に兵庫県が主導して「地元の方々に西洋的な医療を提供する」という趣旨で設立された神戸病院が当院の起源です。以来150年以上にわたり、地域に根差した病院として歴史を刻んできました。
―病院長に就任されて2年。振り返っていかがですか。
当院の基本理念の達成のために何が必要なのかを常に考えてきました。しかし就任当時はコロナの真っただ中。まずは病院が一致団結して乗り切り、かつ特定機能病院として本来の役割を果たすということを当面の大きな目標にしました。私が提示する方向性に医師や看護師をはじめ全職員がワンチームで取り組んでくれたことに感謝しています。
―コロナと通常医療のバランスを取るのは難しかったのでしょうね。
周辺病院で重症患者さんやがん患者さんへの対応が低下するなか、患者さんにとって〝最後の砦〟になるべき大学病院が「対応できません」では許されません。地域の要請に応じてコロナに対応しつつ、本来の役目も十分に果たしてきたと思っています。
医療産業都市構想と連携
国際医療も徐々に再開
―医療産業都市構想と密接に連携を取っていますね。
ICCRC(国際がん医療・研究センター)はポートアイランドという立地もあり、医療産業都市構想との連携を重要視しています。がん治療はもちろん、医療機器開発にも貢献し、メディカロイド社がシスメックスと連携して開発した手術支援ロボット「hinotori」はその成果です。前立腺がんの手術に成功し、現在は本院にも量産一号機が導入されています。
―メイド・イン・ジャパンは嬉しいですね。
細かいところまで配慮され、診療を行う私たちにとって〝かゆいところに手が届く〟機器です。企業さんと直接やり取りをしながら、品質の高いものを目指していただいています。
医療機器の開発には現場の声が大切ですからますます病院の果たす役割が重要になってきます。今後もコミュニケーションを密に取りながら改善・改良を進めていくことになると思います。ひいては神戸未来医療構想にも貢献するものと考えています。
―先端機器を使いこなす人材も必要になってきますね。
今年4月から、大学院医学研究科に医療機器開発に関わる新専攻「医療創生工学専攻」が開設されます。医学部学生のほかにも、最先端医療を目指す現役医師、医療機器開発の現場企業の方、さらに最新の保守点検技術も必要ですから臨床工学技師の学びの場になると思っています。
―医療の国際化についてはいかがですか。
神戸市さんと連携して国際医療の充実を目指し開設したIMCC(インターナショナル・メディカル・コミュニケーションセンター)オフィスをICCRC内に置き、海外からの患者さんを受け入れています。しばらくコロナでストップしていましたが昨年秋から徐々に再開しました。大阪・関西万博、そして神戸空港の国際化に向けては神戸大学病院が兵庫県の国際医療の中心になろうと、打ち合わせを進めているところです。
ICT化と人材育成
今後の最重要課題
―医療現場においても患者さんの情報共用が重要になってきていますね。
大学教育、医療現場の両方でICT活用に取り組んでいます。例えば心臓血管外科では、クラウドサービスを利用して兵庫県内の病院と情報を共有し、緊急手術が必要だと判断するとすぐに緊急搬送してもらうシステムが構築されています。また在宅の患者さんの血圧や心電図、血糖値などのデータを病院で確認できるシステムの利用も始めています。医師の働き方改革を進めていく上でタスクシフトにも役立てていきたいと考えています。
―医師不足は深刻ですが、女性医師の育成にも取り組んでおられますね。
神戸大学医学部は女性の学生の比率が高く、研修医も約半数が女性です。女性に対して開かれた大学というイメージがあり、実際に受け入れる環境も整っているのだと思います。D&Nplusブラッシュアップセンターでは出産・育児、介護などの理由で離職した医療者の復帰をサポートし、特に女性にとっては長く働きやすい環境を作るシステムを構築しています。
―基幹病院として災害への備えは。
神戸は大きな震災に遭ったまちです。その後、全国初の災害医学講座を開設しました。DMATの体制も整え、東日本大震災、熊本豪雨など災害発生時には出動しています。兵庫県災害医療センターと連携した体制も整えています。コロナ禍でも毎年、災害訓練を実施してきました。BCP(事業継続計画)では大地震を想定したものも作成しています。
―そのほかにも重要な課題はありますか。
研究に関しては昨年4月、全国14カ所ある臨床研究中核病院の一つに厚労大臣から認定されました。参画いただいた兵庫県下40以上の病院と共に当院の臨床研究推進センターを中心に研究を進めていきます。これらの活動の全てのベースになるのは医療の質と安全です。昨年10月、病院機能評価を受け、リクエストに応えて環境を整えてきました。近く日本医療機能評価機構から認定を受けることを期待しています。
―新棟建設も進んでいますね。
7階建ての福利厚生施設棟です。学生の食堂や体育館、OB会事務所のほか、1階には一般の方にもご利用いただけるカフェが入ります。旧施設の跡地にさらに新棟を建設する計画もありますが、費用の問題もありなかなか思い通りに進みそうもないのがつらいところです(笑)。
外科医は常に手術のリスクを感じ、強い責任感を持つ
―病院長であり呼吸器外科の専門医でもある眞庭先生ですが、医療の道を志されたきっかけは?
きっかけは子どものころ、しんどいとき病院に行くと、ドクターが診察してくれて「大丈夫」と言ってもらって安心したという経験でしょうか。外科医に憧れたきっかけは田宮二郎主演のドラマ「白い巨塔」です。主人公には問題がありましたが、外科医の責任と、それを果たすべく情熱に感動しました。手術は患者さんの体に創を加えるのですから常にリスクを意識して臨まなくてはいけません。「私、失敗しませんから」なんていうのはダメです。患者さんに対する誠意が大切です。
―患者さんの命を背負う大変なお仕事。気分転換も必要ですね。
特にスポーツなど何かをするには面倒くさがりで…(笑)。車で走るのは気分転換になるかな。普通の車で田舎道をのんびり走る。たまに車で通勤すると気持ちを切り替える時間にもなります。実は鉄道も好きです。子どものころは恥ずかしくて隠していたのですが、今は「鉄ちゃん」が市民権を得ている時代ですから私も心置きなく楽しんでいます。
―今後とも地域医療のためによろしくお願いいたします。
こちらこそ。これからも「神大病院の魅力はココだ!」で、日々バージョンアップする各診療科の情報発信をよろしくお願いします。