1月号
新春インタビュー|本流・神戸洋服 「柴田音吉洋服店」5代目店主の
三代・柴田音吉さんに聞く
本業を地道に コツコツと 英国式経営で155年
起業明治元年 ㊎柴田音吉洋服店 ハンドメイド ビスポーク・テーラー
帝国データバンクが発行する「週刊帝国ニュース兵庫県版」で柴田音吉さんの連載が2021年12月から6回にわたり掲載され、経済界で大きな反響を呼んでいる。「激動の時代を生き抜く経営術」と題し、柴田音吉洋服店初代から現在に至るまでの人物像や経営理念が紹介されている。奇しくも2023年、柴田音吉洋服店は起業155周年を迎える。今までのこと、今後の展開についてお話を伺った。
企業は存続することが最優先 初代の言葉は柴田家の家訓
―起業155周年おめでとうございます。
ありがとうございます。初代柴田音吉は英国人カペル氏の一番弟子としてロンドン・サビルロウを源流とする本場の仕立てを学び日本人初のテーラーとなりました。1868年、元町に工房を設けて起業し、83年には神戸初の合名会社・柴田音吉商店を創業しました。明治天皇がお召しになる洋服も仕立てさせていただいています。
―初代は腕の立つテーラーだったのですね。
洋服づくりに関して天才的な職人であるだけでなく、経営にあたっても先見性を持ち、「歴史と伝統を重んじ、企業は存続することが最優先である」と家訓をのこしています。以来155年、私の代までサイドで事業を展開しながら本業を地道にコツコツと励んできました。先代の「Small is Beautiful」をモットーに英国式経営を続けてきました。
ラグジュアリー・ブランド愛用の方々が、新規顧客として来店
―起業150周年から5年が過ぎ、何か大きな変化はありましたか。
6代目の養成と、20代の若い技術者の育成に努めています。また私の得意とする、ファッショナブルなイタリアン・トレンドに加え、ロンドン・サビルロウで本場の「ビスポークスーツ」をマスターした技術者をチーフ・カッターに迎えてさらにスタイリッシュに進化しました。さらに、ファッション性のある服地をより多く輸入したことでヨーロッパのラグジュアリー・ブランドのスーツを愛用の紳士方が当店のWEBサイトをご覧になられ、新規のお客様として訪ねて来られるケースが多くなりました。伝統的なスタイルを中心に新しいファッションを取り入れる=『温故知新』が、今後50年の当店のコンセプトです。
若い経営者に向けてのメッセージが大きな反響を呼ぶ
―帝国ニュース連載が始まった経緯は?
一昨年の夏に帝国データバンク神戸支店情報部のスタッフの方から突然お話を頂きました。会員希望者に配布される冊子(右の写真)のほか、全国約20万社に向けてWEBで配信される同誌初の企画連載とお聞きして「私など文章を書くのも苦手ですし…」とお断りしていたのですが、「お手伝いしますので、ぜひ!」と言っていただき、「若い中小企業経営者の方々の参考になるのなら」とお受けする決断をしました。メッセージを発信できる機会を与えていただいたのは神戸っ子さんに取材をしていだいた2021年1月号の記事がきっかけだったそうです。
―こちらこそ光栄に思っています。大きな反響を呼んでいますね。
当店のお客様や経済界の方々からたくさんのお便りをいただき、反響の大きさに私自身驚いています。
―どういった内容ですか。
「音吉、頑張ったなー!」「良いことだけではなく、苦境をどう乗り切ったのか悪いことも正直に書かれていて感銘を受けた」など多くのありがたいメッセージを頂きました。
―「正直に」というのは?
バブル崩壊に追い打ちをかけるように阪神・淡路大震災に見舞われました。テキスタイルなど輸入ファッション事業からの撤退やグループ会社の縮小などは、洋服の伝統と歴史を刻んできた家業であるテーラーを守るための苦渋の決断でした。包み隠すことなくさらけ出すことは、厳しい時代を乗り切る経営術を伝えるために必要なことだと考え、連載のお話をお受けしたときから全てを書こうと決めていました。
WEB戦略が功を奏し秋冬物も好調
―きっかけとなった21年1月号でお話を伺ったWEB戦略もその後、順調ですか。
常にGoogle検索で上位にあがっていることもあり、お陰さまで多くの方に閲覧いただいています。来店のお客様のうち売り上げの約70%がご新規で、2021年8月の決算ではコロナ禍以前と同じ水準を取り戻すことができました。
―秋冬ものも好調だそうですね。
スーツは実用新案特許を持つファッショナブルな「ライト・フィット®」スーツがおすすめです。モダン・ブリティッシュ(写真=①)とイタリアン・トレンド(写真=②)の2種類のスタイルが好評です。
新作はテーラーメイドのカジュアルジャケットを3点ご提案。ゴルフマスターズ優勝者に贈られるブレザーのダークグリーン(英国のレーシンググリーン)とほぼ同色のジャケット(写真=③)。格式が漂うデザインと高級フラネル生地を厳選してご提案しています(全40色・写真Ⓐ)。
昨年度、大変好評で完売した無地ジャージ素材のジャケットを、今シーズンは千鳥格子のファンシー柄で仕立てます(写真=④)。シルク混で高級感があり軽くてストレッチがきいて、動きやすさが人気の理由。この冬はタートルネックのセーターとカラーコーディネイトして、「ウオーム・ビズ」のジャケットとしてお使いいただけます(全5色・写真Ⓑ)。
定番の「紺ブレ」は最近人気復活のダブル仕立てがお勧めです(写真=⑤)。秋冬ものはフラネルを使用しています。ワイシャツ、ネクタイ、ポケットチーフなどとコーディネートを楽しんでください。
―毎シーズンの新作は上質なおしゃれを楽しむ紳士たちにとって待ち遠しいものになっているのでしょうね。
次々と業態を変えながら生き残っていく企業が多い中、新たな業態はあくまでも副業とし、伝統のテーラーを守り続ける柴田音吉洋服店が神戸にあることを私たち神戸っ子も誇りに思います。起業200年に向けての新たな展開を今後も継続して取材させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
https://otokichi-kobe.co.jp/