3月号
神戸大学医学部附属病院整形外科 第4回 健康寿命に関わる「骨粗しょう症」のはなし
数値は気になるけれど、治療を受けるという発想はあまりない骨密度。特に女性はある年齢を過ぎたら受診してほしいという西本華子先生に詳しくお聞きしました。
―骨粗しょう症とは骨にどんなことが起きているのですか。
骨の回りの皮状の皮質骨が薄くなり、骨の内部のスポンジ状の海綿骨の密度が落ちて〝スカスカ〟になり、さらに全体の骨の質が落ちて〝ボロボロ〟になり潰れやすく、骨が折れやすくなります。
―検診などで測る骨密度で分かるのですか。
診断の根拠になるのが骨密度です。検診などでは主に踵骨(かかとの骨)の骨密度を測りますが、診断・治療に進むには体幹に近い腰椎と大腿骨の骨密度を基準にします。踵骨の骨密度はあくまでも目安ですから「骨密度が下がっています」と言われても「もう全身の骨がスカスカボロボロだ」と落ち込む必要はなく、逆に「大丈夫ですよ」と言われたからといって必ずしも安心材料にはなりません。
―なぜ骨密度は落ちるのですか。
人間は男女とも誰でも20歳を過ぎるころから骨量は下がり始めます。男性は一定のスピードで下がりますから骨粗しょう症の域に入ることなく一生を終えることもあります。女性は閉経期を迎えて女性ホルモンのエストロゲン分泌がなくなると急激に下がり始めます。
―女性は骨密度低下を防ぎようがないのですか。
最大骨量の時期といわれる18歳から20歳ごろまでに、適切な運動をして、しっかり栄養を取って骨量を増やしておけば、骨粗しょう症に差し掛かる時期を遅らせることができます。今の若い女性はダイエットしたり、運動することに積極的でなかったり、女性の骨粗しょう症が今後増えいくのではないかと心配です。
―20歳を過ぎたら骨量を増やすことは無理なのですか。
生活習慣や食生活のみで骨量を増やすことは難しいですが、減少を幾分緩やかにすることは可能です。カルシウムやビタミンDが豊富な食事を取り、適度な運動を楽しむこと。一日最低でも7千歩は歩くようにお勧めし、私自身も実行しています。
ビタミンDは、日光を浴びることで皮膚で作られます。日焼けを気にして完全防備で歩いている女性を見かけますが、骨量のことを考えてちょっとだけ服装にスキを作って太陽の光を浴びビタミンDを吸収してみてください。
―加齢の他にも骨粗しょう症の原因はあるのですか。
続発性骨粗しょう症と呼ばれるもので、糖尿病、関節リウマチ、慢性腎臓病などが原因で引き起こされることは明らかです。骨密度が低い原因を調べてみると副甲状腺機能亢進症やクッシング症候群などが隠れている場合もあります。また免疫系やアレルギー系疾患の治療薬としてステロイド薬を使うと骨密度は下がるので、女性で70歳を過ぎている場合などは骨粗しょう症の治療薬を併せて処方します。
―骨粗しょう症になるとどんなことが起きるのですか。
骨折です。例えば手首など骨折しても適切な治療を受ければ、生活の質・日常生活動作はそれほど落ちないですね。ところが、背骨の椎体を骨折すると起き上がるだけで痛くて横になることが多くなり、前かがみの姿勢が内臓を圧迫して消化器・呼吸器系の機能にも悪影響を及ぼします。大腿骨近位部を骨折すると手術しか治療法がなく、術前より歩行が困難になり生活の質が落ちます。それらが寝たきりにつながり、最悪の場合、死期を早めることにもつながります。骨は1本も折らないでほしいのですが、特にこの2カ所は絶対に起こしてほしくない骨折です。
―骨折を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。
60歳以降を目安に定期的に骨密度を測り、自分の骨の状態を知っておくこと。骨密度が落ちてきていると気付いたら、専門医を受診して詳しい検査を受けてください。診断の概要は、若い人の骨密度を100%としたとき、骨密度が70%以下を基準に骨粗しょう症と診断をして、骨密度を改善するお薬を処方します。
骨密度は気になるけれど、年を取ったから仕方がないと思ってしまう傾向があるようですが、骨折してからでは遅い!最終的に健康寿命にも関わってきますから、まずは受診してみてください。