2月号
軸はぶらさず事業を広げる ~ カルチャーを通して、街をデザインする ~
Culture × Town development
クロシェホールディングス沼部美由紀さんを進行役に、街をデザインシリーズの5回目をお届けします。
今回の対談者は、キッズ・ベビーモデルのオーディションなどを企画・運営するアイキッズ株式会社 代表取締役社長 宮﨑一明さん。代表コンテンツの「キッズ時計」は、世界中の子どもたちの笑顔でつくるWEB時計では、
登録会員モデル数約120万人。コロナ禍前は年間2000イベント(現在は600)を開催されています。
ビジネス展開の手法や起業についてお伺いしました。
チャンスをつかむ
沼部 キッズ時計、スゴいですね。前に会った時、GAPさんとタイアップしたいと言っていたと思えば本当に実施しているし、世界規模でビジネスを展開していますね。今日はいろいろ聞かせてください。
この事業を始めたきっかけって何だったのですか?
宮﨑 2002年に起業した保険代理店(後に事業譲渡)がうまくいってね。資金的にも余裕ができたから、何か世の中の役に立つことをやろうと、2006年にアイキッズ株式会社を作ったんです。保険の顧客に上場目標の企業が多く、会社を成長させたいから協力して欲しいという話がよくあって。美人時計さんもそうで「キッズは僕が手伝いましょう」ということでキッズ時計が始まりました。
沼部 イメージモデルに、アルマーニとかのモデルもやっていた世界一の美少女クリスティーナ・ピメノヴァちゃんとか起用していましたね。
宮﨑 2015年かな。インスタからアプローチしたら、お母さんが日本好きでアポイントが取れて、ロシアまで契約交渉に行きましたよ。当時10歳くらいで、VOGUEロシアの子ども版表紙をされていて、それがきっかけで今もロシアとイタリアのVOGUEとはお付き合いが続いています。
沼部 インスタから連絡って普通はやらない。実行するところがチャンスを掴む。
宮﨑 数を打たないと(笑)
沼部 GAPさんともご一緒されましたね。
宮﨑 GAP本社にアプローチしていたけどダメで、今度は違うルートから攻めようとセンター街にあった店へローカルイベントを提案。店側のメリット、どうすれば子供服が売れるのかを提案したら採用に。イベントに参加した子たちの楽しそうな姿に、店長やスタッフも喜んでくれて。そうやって一歩ずつファンにしていったことが、米国本社も動かし「GAPコレクション」につながりました。
沼部 すごいですね。まさにアメリカンドリーム。店側ってお客さんの笑顔が一番の喜びですから、そこに需要があると見抜いていたのですね。
宮﨑 信頼できるパートナーやアートディレクターのおかげです。キッズ時計の世界観を作ることができたのも。これらの実績が、多くの取引につながっています。
急成長「ニューボーンフォト」
沼部 他にもいろいろやっていますね。
宮﨑 新生児の撮影事業をやっていて、実はこっちの方が大きくなっています。「ニューボーンフォト」といって、妊婦さんが出産されて退院するまでの4泊5泊くらいの間に病院のサービスとして写真を撮るんです。欧米では流行っていて、日本でも若いお母さんを中心に注目されています。
沼部 産婦人科のオプションメニューって感じですか?
宮﨑 そうそう。「何千何グラムで産まれました。名前は〇〇です」って、この写真でインスタにアップするんです。その時に、病院名も入るから産婦人科の宣伝にもなる。
沼部 すごくいい!!こんなの見せられたら「私も!」ってなりますね。
宮﨑 全国に分娩施設を持つ産院が約2200カ所あって、今提携しているところが144カ所。新生児の数でいえば年間約65000人が生まれていて、そのうちの15000人くらいを撮らせてもらっています。今は、コロナ禍で入室制限があるけど、落ち着けばもっと増えると思います。2021年の年初が100カ所くらいでしたから、順調に伸びています。
このサービスのいいところは、病院で撮れること。全ての病院にフォトグラファーを派遣しています。家で撮影するのって、お母さんは疲れているし、他人を入れるのも気も使うし、カメラマンだって男性が多いでしょ。私たちのニューボーンフォトフォトグラファーは全員女性で、子どもがいる人が約8割。女性が活躍できる場所を作りたくて、アカデミーを開催して育成しているんです。銀座と名古屋、大阪、福岡でだいたい毎月。子育てしながらフルタイムで働く人や週2回の人もいます。レタッチ作業は家でもできるから、子どもを寝かせた夜中でもできるんです。
沼部 素人でも学べるのですか?
宮﨑 素人さんもいますよ。基礎から学んでもらえます。ニューボーンフォトは、写真業界でも新しくて、欧米でさえ見よう見まねの危険な撮影をしているんです。私たちは、産婦人科の先生から「これなら安全」と監修いただいた撮影手法を教えています。重要なのは“産婦人科スタッフの手を煩わせない”“ソーシャルでいかに拡散させるか”。昔から産院でもスタッフの人が写真を撮って渡していたけど、ただ撮っただけのイケてない写真が多い。それではソーシャルで広がらない。我々がインスタ映えする写真を撮る、産院はイメージアップにつながる、お母さんも喜ぶ、みんなが幸せになるサービスです。
沼部 営業活動はどうしているのですか?
宮﨑 北区にある病院で事業化できるかどうか探りながら半年ほど。現場にいると何を求めているのかわかります。営業トークの内容やツールを作って、最初の15カ所くらいまで自分で営業しましたね。後は人を入れてやり方を教えて。名古屋の20施設くらいある大きな病院でやれることになった時、産婦人科の先生と「こういう感じでやれば、受け入れられる」というのを固めていって全国展開を始めました。コロナ禍で営業しづらいけど、DMを送ると大きな総合病院から問い合わせがきます。個人病院は、フランス料理やネイルサービスなどを考えて頑張っているけど、総合病院などは少子化もあって苦労しているようです。
沼部 マタニティフォトもされているのですか?
宮﨑 日本人は恥ずかしがり屋だから、よほど自信がある人だけと思っていたら産婦人科からやって欲しいといわれ、サービスが広がっています。
沼部 ニーズがあるってことですね。その時しか撮れないですから。
宮﨑 画像処理をして、きれいに仕上げるからお母さん方も喜んでくれています。
起業を志す若者へ
沼部 20店舗もある大きな病院とか、知名度のあるモデル起用とか、頂点を押さえて攻めるから展開が早いのでしょうね。
宮﨑 ヘッドピンを探して、ソコにどう当てるかを常に考えていますね。1個ずつピンを倒すのは時間がかかる。
沼部 保険の仕事をされていた時の経験?
宮﨑 それは大きいですね。大学生の頃から将来自分でビジネスをやりたいと思っていて、その経験を積むために保険会社に勤めたんです。
沼部 えっ!なぜ保険会社?
宮﨑 大学生なりに、自分が将来社長になるために何がいいかを考えて、保険か銀行かカード会社って考えたんです。理由は、考えが浅いんだけど個人情報にふれられ川上をとれると思って。でも、銀行やカード会社は自分では作れない。保険なら代理店っていう道があるなと。
沼部 例えばどういう所が役にたちましたか?
宮﨑 損害保険会社に8年いて後半4年は、自動車保険サービスセンターで事故処理係をやっていたんです。怒っている人や関心が全くない人にプレゼンテーションして、相手のニーズを引き出し交渉をまとめる。とてもいい訓練になったと思う。
沼部 キツい仕事ですよね。くじけてしまいそうなところを、意味のあるものにしたってのはスゴい。
宮﨑 5000件以上やっていましたからね。実践で怒られて身につくものとはいえ、寿命が縮まる思い。おかげで、起業当初の苦しい時も乗り越えられました。
沼部 起業したい若者がたくさんいます。何かアドバイスをするとしたら?
宮﨑 いろんなバイトをしてみること。時給もいいけど、できればフルコミッション。時給だと稼げる報酬に上限がある。フルコミッションなら上限がないことを早く知った方がいいですね。そして、世の中で足りていないことや自分の尖ったところを早く見つける。本をたくさん読んで気づきを得ることで、これをしたらうまくいくんじゃないかという確度が必ず上がります。
子どもたちを笑顔にする事業
沼部 今後もいろいろ考えているんでしょうね。
宮﨑 コロナが明けたらイタリアVOGUEとの企画、ワールドキッズオーディションは再開したいですね。海外含めて15000人の応募があるんですから。これはやりたい。
沼部 新たなチャレンジは?
宮﨑 「子どもたちを笑顔にする」という僕たちの理念の軸をぶらさず、子どもにかかわることで社会の役に立ちたいですね。キッズ時計から始まってニューボーンフォト、次はマタニティフォトで全国展開を名古屋と埼玉からスタートさせます。YouTuberを育てる事業も始めますよ。以前、子どものYouTuberを育てようとUUUMさんとやっていたのですが、その時はうまくいかなかったんです。UUUMさんもまだ大きくなる前で、一緒に大きくなれたらいいねって話をしていたのを今も気に掛けてくれていて。彼らとの取引があったから関西コレクションで、HIKAKINさんやはじめしゃちょーさんを呼べましたから。
沼部 こんなにグローバルに活躍しているのに、神戸に本社を置いている理由は?
宮﨑 生まれも育ちも神戸なので、大好きなんです。神戸を離れたのはサラリーマン時代に4年間だけ。
沼部 そのわりには、あまり表に出てこない(笑)。
宮﨑 人見知りなんですよ。
沼部 上場とかはしないのですか?
宮﨑 考えていませんね。目立ちたくないから(笑)。
クロシェ本社ビルにて
アイキッズ株式会社
代表取締役社長 宮﨑 一明 氏
大手損害保険会社でリテール営業、自動車損害サービスセンター、外資系金融機関にてセールスを経験したのち起業。「世界中の子どもたちを笑顔にしよう」を理念とし、キッズ・ベビーモデルオーディション、産院での新生児撮影を事業化。新しいコンテンツやサービスを仲間たちと生み出していくことをライフワークとしている。
株式会社クロシェホールディングス
代表取締役社長 沼部 美由紀 氏
25周年を迎えたクロシェの創業者。神戸発のバレエシューズ《ファルファーレ》や神戸・山の手スカートが人気の《トレコード》、セレクトショップ《ジャスミンスピークス》など複数のブランドを運営。2021年は武庫川女子大学や甲南女子大学、事業構想大学院大学などの講義やスピーチ、ゼミの調査など、さまざまな大学への協力も行っている。