2021年
9月号
9月号
映画をかんがえる|vol.06|井筒 和幸
時代は問答無用に過ぎていった。1970年代に入ると、世の中から「価値観の変革」や「大学紛争」などの言葉は消え始めていて、コピー機会社のCM広告は「モーレツからビューティフルへ」という文句が流行っていた。ビューティフルと言われても何が美しくなるのか知らないが、確かに、時代の空気感は白け始めていた。三島由紀夫も時代に見切りをつけたのか、自衛隊に乗りこんで自殺して、赤軍派は旅客機をハイジャックして北朝鮮に亡命していた。
ボクは高校を卒業した。ザ・バンドの「ザ・ウェイト」の歌詞のように、やっと肩の荷が下りたというか、学校の束縛から解き放たれたというだけで嬉しかった。急に毎日が暇になり、一日がとても長かった。さあ、これから何をしていこうかなと思ったが、想像がつかなかった。サラリーマンになりたくないし、どこか見習いに出て何かの職人になるという気もなかった。困ったものだが、なりたくないものはなりたくないし、人はそういうものだと思っていた。何からも自由でいたかった。
PROFILE
井筒 和幸
1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!