6月号
本気で描く、神戸の新地図。~ カルチャーを通して、街をデザインする ~
Culture × Town development
「ワクワクする街♪面白い街になる」ためにするべきことは?
ヒントは「カルチャー」にあり!?
社会の変化を読み、未来を切り拓く実験に取り組む街づくりのキーマンによる座談会。
スマートシティの本質から注目エリア「さんきた」の実験まで、ワクワクの予感に満ちたクロストークとなりました。
神戸のスマート化に大切なものとは?
沼部 指数関数的にデジタル技術が進歩し、社会のあり方が根本から変わりつつある今。神戸市でもスマートシティ化による経済の活性が期待されています。
福岡 自分たちの手で街も社会もほんまに変えていける時代になりましたね。テクノロジーに目がいきがちですが、僕は技術で都市や生活を便利にする前に、「どう生きたいのか」「何がしたいのか」といった本質的な部分が大切だと思います。そこをとことん突き詰めてデザインしていかないと、どこも同じような街になってしまいますからね。
沼部 産業や経済のグローバル化が進むなか、「神戸独自のやりたいこと」って見つかりにくいのでは?
福岡 今の神戸を生きている人たちがやりたいことをぶつけあい、実験しながらその最大公約数を練り上げていけばいいのではないかな。港と共に歴史を重ねてきた神戸は、これまで貿易ビジネスの勢いが海外交流の刺激を産み、市民の生活文化を創り出してきましたよね。ただこれからは世界的なトレンドをみてもこれが逆転していくと思うんです。都市生活で生まれる欲求や、課題へと向かう市民の熱量、すなわちカルチャーが新たな生業を創り、全体経済すら引っ張っていく。都市型クリエイティブ産業の勢いがある地域には共通項が見える。神戸にもその素地が有るというか起こっているというか。
星加 神戸は都市型創造産業支援事業への助成金など、仕事や環境の創出を支援するプラットフォームの構築に取り組んでいます。ただそれに「文化」をどう関係づけるか、ですね。
福岡 今の「文化」に必要なのは、アートやエンジニアリングと資本が出会い、触発を起こし合う事だと思います。例えば、アメリカ・ネバダ州の砂漠で実施される「バーニングマン」というアートフェスティバルはその良い例です。ヒッピーでハチャメチャな10日間のために、7万人が集まってくる。FacebookやAirbnbの創業メンバー、Amazonの会長も参加していて、Googleの創業者は「バーニングマンを続けるためにGoogleをやっている」とまで言います。「お金を使うことができない」ルールとカルチャーがベーシックインカム事業を、砂漠の強烈な日光が太陽光発電、電気自動車事業を始めるヒントへとつながっていく。ビジネスの為にやっているわけではないのに、結果新たな生業も生まれていく。
沼部 ビジネスありきでなく、やりたい!とか参加したい!から発展していっているところが面白いですね。
福岡 例えば、岸和田のだんじり文化は、何が何でも自分たちの文化を守り続けていこうという市民の本気度が感じられます。本気でやりたいことをやろうとする市民で満たされた街が面白くないわけがない。
星加 岸和田市民の人生に刷り込まれていますよね(笑)。市民主導です。アツく、誇り高く「やりたい!」を続けていくことで文化になっています。
沼部 やりたい人が一人いると連鎖が起きますよね。福岡さんは東遊園地の芝生化や、未来都市を構想するクロスメディアイベント「078KOBE」など色々な活動に携わっていますが、ドレスコード白の「ホワイトディナー」も、「やりたいの輪」がどんどん大きくなっています。セレブのお祭りという見方をする人もいれば、クリエイティブの甲子園だとしてSNSで大絶賛する人もいて、色々な切り口があり、各々やりたいことは違っても、最大公約数の神戸らしい文化になってきています。
星加 「ホワイトディナーは神戸らしいエレガントなイメージ」と県外の友人も絶賛していました。参加者の相乗効果が創り出す、新しい体験価値だと思います。
福岡 ありがとうございます。神戸の未知なものを受け入れるインクルーシブな柔軟性、度量があることには助けられています。
神戸が本気で好き そんな人達を集める
沼部 神戸の発展に尽力されてきた経済界の先達から有益なアドバイスをいただけるのは神戸の財産とも言えますね。
星加 地域に根差した企業が資本や知財を提供してくださると、アイデアを事業化しやすいですよね。神戸にはなかなか出会えないような経済界の人との交流の場があり、援助してもらえるチャンスがあります。東京や大阪と違い、友達の友達は友達という神戸の規模感は、人が有機的に協力し合うことも実現しやすい。「街のスケール感」だと思います。
沼部 人と人をマッチングするシステムも大事ですよね。新しく企業を立ち上げる起業家が神戸に目を向けるメリットをつくることはイノベーションの実現につながると思います。
福岡 若い人が新しい文化を作るサポートにも力を入れていかないとね。URBAN PICNICの村上豪英さんやKOBE FARMERS MARKETの小泉寛明さんをはじめ、市民発動のイノベーティブな活動も定着してきました。彼らは若い世代とのつながりも強いのが素晴らしいです。今後神戸にニューエリートと呼べるような面白い人たちがどんどん集まってくる可能性も感じます。
「さんきた」からアぺ文化革命を
沼部 先ほどの文化とビジネスという話にもつながってきますが、神戸は夜が弱く、飲み屋さんの経済が振るわないと言われます。そこでコロナ禍に陥る前から星加さんとは「アぺ文化」を神戸に根付かせたいね、と話しています。「アぺ文化」とは、イタリアをはじめ欧州で夕食前に軽飲みするアペリティーヴォ(アペリティフ)の習慣で、当社のイタリア事務所のスタッフが、仕事を早めに終えて、軽く一杯やってから会食をし、その後、2次会へ繰り出しているのを見て、そんな文化が根付いたら楽しいだろうな、って。
星加 コロナ禍で時短の意識が芽生えてきましたし、夕方の時間を活用した会食のカジュアルダウンも大いにあり!ですよね。仕事と会食の間に、スタンディングでカジュアルに飲み食べを楽しむ時間を持つ。一杯飲んで、さっと帰宅してもいいし、その後に食事に向かうのもいいわけです。
福岡 9時5時に固定した時間切りのワークではなく、結果を評価するワークへと変わってきていますからね。
沼部 日中と気分を切り替え、リラックスしたり、あるいは仕事の延長として職場の人とお酒を飲みながら語りあったり。スタンディングにすれば、他の企業の人とも会話でき、地域の交流の場にもなりますよね。そんな「アぺ文化」を、福岡さんが市の公共空間の利活用アドバイザーとして携わっている阪急神戸三宮駅の北側「サンキタ通り」と「さんきたアモーレ広場(8月末オープン予定)」で実現させようと目論んでいるところです。
福岡 沼部さんから「アぺ文化」の話を聞いて、面白い!と思いました。現在、三宮にある6駅と周辺を一体的につなぐ「えきまち空間」の実現に向けて、様々な取組みが進められています。その先駆けとして再整備された「さんきた」は、神戸の玄関口として、外から来る人と、神戸で働く地元の人の接点になればいいと。AI時代、人に残されるのは人の出会いによる触発→共創の流れだと思うので、これとても大事なことです。
星加 人が大勢集まる街角や道端を“辻”って言いますよね。「さんきた」は神戸での辻的な役割を持つ、神戸期待のエリアですね。
福岡 まずは「さんきたアペリティフ~実験夜市~」として、屋台やキッチンカーで神戸ローカルや国際性を感じられるメニューを提供したり、音楽やメディアアートを楽しむなど、夕方から8時くらいまで、一帯をフェスティバル空間とする実験を何回かやりたく思います。例えば自転車牽引型のサウンドシステムを伴ったDJさんが、東と中央と西に位置して、ジャズとロックとテクノを流し、アペタイムを楽しんでいただくとか。細長い「通り」というエリア特性を活かしたものをやりたいですね。「さんきた」で沈没するのでは無く、着火剤的な役割。さっと終えて、その後、周りのナイトスポットに流れていく仕掛けになればと。
星加 「0次会」という位置づけですね。
福岡 三宮の南側「三宮クロススクエア」が完成すれば、街の表玄関はそちらに移っていくでしょう。ナイトカルチャーの玄関口としての機能はそうなっても変わらないと思いますね。
沼部 南は公共交通や海の手の入口。夜の店が多い北は山の手の入口と、役割を違え、被らないようにするんですね。
福岡 私の考えではそうですが、今このエリアのマネジメントを自分たちの手でやっていこうと多才な市民が集まっていて、今後はそうしたチームが更に新しいアイディアでもって運営していくことになります。クラウドファンディングの活用や、市が設置するセンサーからのデータを分析するなど、運営方法そのものも実験的にやってみないと何が正解か分からない時代。
星加 サンキタ通りの舗装道路の絨毯みたいな感じ(笑)がいい。車道と歩道を一体的にデザインすることでエリアの一体感がすごく出て、ハードの力ってすごいなと感じました。
福岡 市も踏切りましたよね。あのブロックであのエリアの価値を上げるべきとの考えを受け入れたのだとか。あと10年前にも「音楽の街“神戸”を創る会」の事業としてあの広場でゲリラ的に音楽実験をしていました。今はそうした挑戦を受け入れてくれています。神戸にこうした実験の土台があることは今後大きな価値となっていくと思います。市の男前な決断(笑)には感謝しています。
沼部 「サンキタで愉しいことをやっているよ」という情報発信も積極的に行いたいですね。
福岡 荷物を預かったり、民泊の鍵を受け渡したりする、旅行者がまずめざしてくる場所も実験できるといいですね。穴場スポットを紹介してくれるとか、なんならお店へ同行もしちゃいますよ、というサービスも楽しそうでしょ。
沼部 カルチャーのインフォメーションセンターですね。となると、スタッフの人選も重要です。
福岡 地の濃厚な情報を伝えられる人が理想ですね。
星加 多世代で構成して世代間での情報交流があると面白いかも。やりたい!と手を挙げる人も大勢出てきそうです。そういった主体的に自分で動く層の一方で、誘いを待っている受け身の層もいますから、やりたいことが異なる世代やワーク、コミュニティなど、レイヤー分けして交流をコーディネートすることが大事ですね。
福岡 誰も先が見通せない予測不能な時代だからこそ、各々の欲求をデザインするような実験を行い、データをとり、丁寧に確かめることを続けていく。そうすることで神戸の価値ある文化というものがわかり、それが練り上がっていくと思います。
沼部 実践し続けていくためにも、まずは街の諸先輩である私たち大人が元気で、街を愉しまなきゃね(笑)。
取材場所:ANCHOR KOBE
https://anchorkobe.com/
株式会社クロシェホールディングス
代表取締役 沼部 美由紀 氏
自らのファッションブランド運営はもちろん、アパレル産業による生産過程の環境への負荷に立ち向かうエシカルファッションの担い手
株式会社ルリコプランニング
代表 星加 ルリコ 氏
企画者・クリエイティブディレクターとして企業や店舗のプロデュース、商品開発、イベント企画などをトータルで手掛けるブランディングのスペシャリスト
神戸電子専門学校
校長 福岡 壯治 氏
幅広いデジタル人材育成のプロ。校長職の傍ら、市民発動による様々な活動を続ける。実験的な取り組みが多く、時には市を巻き込むことも