6月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.9
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第10回は石井裕也監督。
今だからこそ見てほしい…新作に込めた新しい家族像
息苦しい世の中にふさわしい映画を…
「今は不自由で息苦しい世の中ですが…」と語った後、少し語気を強めてこう続けた。
「そういう時代にふさわしい作品が出来たと自負しています」
2013年。映画「舟を編む」で、日本アカデミー賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞など主要賞を独占して受賞、30歳にして日本映画界を席捲してから8年…。日本の鬼才が満を持して世界へ進出した。
その記念すべき第1弾は、韓国でオールロケを敢行した「アジアの天使」。7月2日から全国で一斉に封切られる。
この日本公開に先駆けて3月、大阪市で開催された、アジアの新作映画が一堂に集う「大阪アジアン映画祭」のクロージング作品に選ばれ、世界初上映でお披露目された。
コロナ禍の中で、この映画を完成させた石井監督は、「マスクに隠された人々の心の荒みを感じながら撮影していた」と明かす。
「アジアの天使」
池松壮亮 チェ・ヒソ オダギリジョー キム・ミンジェ
7月2日(金)公開
兵庫 シネ・リーブル神戸 078-334-2126
大阪 テアトル梅田 06-6359-1080
なんばパークスシネマ 050-6864-7125
©The Asian Angel Film Partners
石井 裕也(いしい ゆうや)
1983年生まれ、埼玉県出身。
大阪芸術大学の卒業制作でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞した。『舟を編む』(13)では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞、また米アカデミー賞の外国語映画賞の日本代表に選出される。『ぼくたちの家族』(14)、『バンクーバーの朝日』(14)などで高い評価を獲得し、第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)では多くの映画賞で作品賞や監督賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベストテンでは、日本映画ベスト・テン第1位を獲得。近年も『町田くんの世界』(19)、『生きちゃった』(20)などコンスタントに作品を発表し続ける。