2021年
5月号
アカギの赤と呼ばれた頃の作品。パリ祭の花火を描いた

パリの風景画で 日仏の架け橋に|追悼・赤木 曠児郎さん

カテゴリ:神戸, 絵画

追悼・赤木 曠児郎さん

「パリの風景を知りたければ、絵はがきよりもアカギの絵を見るに限る」。街の持つ機微や空気感まで絵に投影するパリ在住の画家、赤木曠児郎さんが2月15日、岡山の実家で逝去された。
赤木さんは油彩、水彩、版画と多彩な手法を操り、画風も時代により変遷があるが、よく知られているのはパリの風景画。街角でスケッチを重ね、息を呑むような繊細な描写で何気ない〝普段着のパリ〟を描き続けた。鮮烈な朱紅色を前面に押し出した作品や味わい深い裸婦像もまた人気がある。
1934年に岡山市で生誕、岡山大学理学部を卒業後に芸術の道を志し、1963年に科学技術庁(現在の文部科学省)私費留学生となりパリの美術学校で学ぶ。やがて芸術の都・パリの画壇でも認められ、1975年のツーロン美術館国際展第一席フランス大統領賞、2002年、ソシエテ・ナショナル・デ・ボザール展で日本人初の最高賞、2014年にはフランスの芸術文化勲章シュバリエの栄誉にも輝くなど、数々の実績を残した。日本でも紺綬褒章、旭日小綬章を受賞した。
画業のみならず、渡仏から1980年代まではモード記者としても活躍。日本の数々のメディアにファッションの本場の最新情報を提供し、フランス・プレタポルテ連盟より「金の針賞」を受賞している。
さらに文才も兼備し、画集には1点ずつしっかりと絵の解説を認めた。著書も多く、亡くなる5日前まで20年以上山陽放送のウェブサイトにコラム「パリ通信」を執筆していた。日仏の文化交流にも熱心。温厚篤実で、愛妻家としても知られ、神戸にもファンは多い。
昨年「アカギ・コウジロウ寄付基金」を立ち上げ、自身の作品の展示や日本人作家のフランスでの交流拠点にと画廊の購入を計画。その準備のための帰省中に帰らぬ人となった。残念なことに志半ばとなってしまったが、プロジェクトは赤木さんの作品や思いとともに継承され、日仏の絆の象徴として未来を照らすことだろう。

赤木 曠児郎先生を偲ぶ
神戸の街も描いていただきたかった

赤木先生とマキシンのお付き合いのはじまりは、昭和30年代にまでさかのぼります。先生のお母様は岡山で洋裁学校をされていて、マキシンの創業者、渡邊利武が岡山の洋裁学校連盟へ帽子の講習会に行ったのですが、そこに大学生だった赤木先生も出席され、婦人帽子づくりに興味を持たれて、その後マキシンまでおいでいただいたそうです。
やがて先生はフランスへ行かれたのですが、現地の最新のモードの情報をいただいたり、パリで帽子材料の仕入れルートを開拓していただいたりと、大変お世話になったんです。
その後も二代目の渡邊浩康、そして私、私の2人の娘と3世代にわたり親しくお付き合いさせていただきました。私もパリで先生にたびたびお会いしましたが、いつもどこに行けば良い生地が手に入るか、どこのメゾンが面白いとか、いろいろと教えてくださいました。
日本では建物が数十年か経って古くなったら建て替えるのが常じゃないですか。でも、パリは何百年経ってもそのままの石造りの家が数多く残っていて、何世紀にわたっての歴史を感じるんですね。内部のリニューアルは重ねていきますが、文化を大切にしようという心意気が芯に通っているから、パリの魅力があるのでしょう。そんな街並に先生も惹かれて根を下ろされ、パリを本当に愛して、パリとともに人生があったのだと思います。
日本での展覧会の時は、奥様が亡くなられる前はいつもご夫婦一緒で、絵を買う買わないにかかわらず、どんなお客様にもお声がけして交流を大切にされていました。いつも気さくでとってもチャーミング。そんな先生のお人柄にみなさん惹かれるんです。先生が嫌な顔されるのを見たことがありません。
また、先生は筆まめで、よく太いペン先の万年筆で書かれたお便りを頂戴し、マキシンの70年史にもご寄稿いただきました。
亡くなられたのはパリから一時帰国し、隔離期間を経て郷里に戻り5日後と聞きました。14日間も東京のホテルで缶詰になって、さぞかしお辛かったことでしょう。ダイレクトに帰省できたら、コロナがなかったら、このようなことにならなかったと思うと残念でなりません。
先生の絵は、社内で場所を変えて飾っています。パリの街角の絵をご覧になられると、皆様も思い出にひたれ、想像も膨らむのではないでしょうか。先生に神戸の街も描いていただきたかったですね。心よりご冥福を祈念いたします。

赤木 曠児郎さん

香与夫人が制作した帽子も描いた

油彩、水彩、版画など多彩な手法で作品を残した

何気ない「普段着のパリ」を描き続けた

マキシン社長 渡邊 百合さん
「2020年11月28日放送のテレビ番組『世界ふしぎ発見! ~憧れの街 いまのパリ』で、アトリエで絵筆をふるう赤木先生の姿を見たのが最後になりました」

パリを訪れた時に、赤木先生と香与夫人とともに

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