2020年
7月号

KOBECCOアーカイブ 映画評論家 淀川 長治

カテゴリ:文化人, 神戸

映画を抱きしめて

そのシーズンは正月から一足さきのクリスマスにくり上り、今年は<「span class="bold">ジーザス・クライスト・スーパースター」と「ゴッドスペル」のキリスト・ミュージカルから。
アメリカの演劇界はミュージカルが実に多い。これは見て聞いて面白いだけでなく一度見ると二度、二度見ると三度という魔力をもっている。ミュージカルのほとんどは二度目さらに三度目の方が、たしかにその面白さは羽根をひろげる。ロングランはそこから生まれる。
というわけで「ジーザス・クライスト・スーパースター」も「ゴッドスペル」もあの全曲を胸におさめ口中でくちずさむくらいお馴染みとなって、初めてこの二つその楽しさは本ものとなろう。ともにキリスト物語であるがどちらもロック・リズムのヒッピー・キリスト。とくに「ゴッドスペル」はニューヨークのマンハッタンを馳せ廻るキリストとその弟子たちの踊りと歌がダンスの何たるかを、リズムの何たるかを示す。いっぽう「ジーザス……」は本式にキリストを描くのだがなにしろキリストのロック・オペラ、それに映画も舞台にならってモダン・アート・デザイン。
さてチャップリンにならってキートンの第四弾「キートンの探偵学入門」(一九二四)。第四弾とは“ハロー!キートン”祭の「セブン・チャンス」「海底王キートン」「キートンの蒸気船」につづく第四弾。活動写真の映写技師が探偵学にこりかたまっての珍喜劇だが、面白いのはキートンが映写中のその劇場の観客通路を通り、ついにスクリーンの中にとびこんで映写中の映画の場面と、その場面内にとびこんだキートンのこのトンチンカンはすばらしい。キートン喜劇はアバンギャルド的でさえある。キートン喜劇の骨には見事な「遊び」の精神があふれている。
さて正月シーズン最高のゴキゲンは「北国の帝王」。アメリカ大陸を流れ歩く汽車のタダ乗り名人リー・マービンと、汽車の車掌でタダ乗りを見つけて殺す名人のアーネスト・ボーグナインの競演一騎討ち。この汽車のタダ乗りを“ホーボー”と称し、一九三〇年代のアメリカの名産。西部を走る列車と乞食の人生。そういえば昭和の初めに「人生の乞食」というこのホーボーの名作があった。
いかにも喰いには「燃えよドラゴン」というカラテ映画。主演はこの映画完成直後に三十二歳で急死の中国人スタアのブルース・リー。南シナ海の不思議な島のカラテ王国に乗りこんでの大活躍。007と東映と劇画をカクテルの珍品。監督はアメリカのロバート・クローズというひと。なにしろ珍品。
そういえばカトリーヌ・ドヌーブとマストロヤンニ共演のジャック・ドミー監督新作「モン・パリ」は、夫婦のほうの夫の方がニンシンしてしまう。そんなアホらしい。ところがマストロヤンニの腹次第にふくれ医者はこれは産婦人科だとビックリ仰天。さてその産科の見たては見事ニンシン四ヵ月。これどうなってんのというフランス映画。
さてそこで登場が女性王国映画「アマゾネス」。監督がテレンス・ヤング。ギリシャのその昔オナゴばっかりの国ありて武芸にはげみレズも盛ん。ただしオナゴだけでは子が生めぬ。そこで年一回隣国から男の一団招いて子種を受ける。そのあと一年生まれた女児は育て男児は谷に捨てる。そのころは駅のロッカーはなかった。さてオナゴたちの人生とは。
というわけで映画は未来を示しアナ恐ろしの女性恐怖症。かくてやがて十年さきには男が女に女が男にその位置コウタイか。
ところで日本映画といたしましては「日本沈没」、ケンさんの「ゴルゴ13」それにおまちかね寅どし寅さんの新作とその面白さ楽しさ想像にたくましく待つものの、その映画いま十一月半ばすぎ現在その撮影中とあっては御紹介もいたしかねた。ところが洋モノではまだまだブロンソンの「シンジゲート」、ドロンとランカスターの「スコルピオ」、ブリンナーの奇怪(?)なる「ウエストワールド」とめじろ押し。

(1974年1月号抜粋)

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