2020年
7月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇九回

カテゴリ:医療関係

年金とメディア報道

──昨年、老後資金には年金以外に2000万円必要という報道がありましたが。
藤田  金融庁の金融審議会市場・ワーキンググループ報告書を元ネタに、マスメディアが「老後2000万円不足」「政府が公助の限界を認めた」などと報道し、国民の不安に火を着けました。平成29年の総務省による家計調査で高齢夫婦無職世代の収入と支出については、実収入が月約21万円なのに対し実支出が月約25~26万円で差は5・5万円になり、定年後から30~40年生存した場合、約2000万円の差が生じます(図1)。これが2000万円足りないという報道の根拠なのでしょう。しかし、同じ総務省の同年のデータでは世帯主が65歳以上の2人以上の世帯の平均貯蓄額は約2484万円で、高齢期における資産が2000万円以上の方は約半分です。ですからメディアが騒いだような危機的な状況ではないはずです。

──そもそも年金とはどのような仕組みになっているのでしょう。
藤田 わが国の年金は、年金支給のために必要な財源をその時の保険料収入から用意する賦課方式で、現役世代から年金受給世代への仕送りというイメージです。現役世代が高齢になって年金を受給する頃に、その下の世代が収めた保険料から年金を受け取ることになりますが、納められる保険料がその時の給与水準に応じたものであるため給付に関してもその時の経済状況に対応しやすいというメリットがあります。

(図1)高齢夫婦無職世帯の収入・支出 出典:平成29年(2017) 総務省「家計調査」

─自分たちが積み立てた分を受け取る訳ではないのですね。
藤田 将来自分が年金を受給するときに必要な財源を現役時代の間に積みたてておく積立方式ですと、インフレによる価値の目減りや運用環境の悪化があると年金の削減が必要となるため、先進主要国で積立方式を採用している国はありません。仮にいまから積立方式に転換するなら、現役世代がこれから自身の老後のための積み立てを始めるとしてもすでに年金を受給している高齢者には引き続き年金を支給し続ける必要があり、その分の保険料と「二重の負担」となるので現実的ではありません(図2)。

(図2)日本の年金制度は賦課方式 出典:厚生労働省ホームページ

─年金未納問題もマスメディアがよく採り上げていますね。
藤田 年金加入者は自営業者とその配偶者などの第1号被保険者、サラリーマンや公務員などの第2号被保険者、第2号被保険の配偶者などの第3号被保険者の3つに分類されています。メディアは未納率47%と報道していますが、これは全ての保険者ではなく、1号被保険者のうち免除者(学生や若年者猶予者)と未納者を合わせた数字です(図3・図4)。このような切り取り報道が特に目立ちます。

(図3)メディア報道での未納率

(図4)実際の未納率
出典:令和元年6月厚生労働省年金局報告書

─では実際の未納率はどれくらいなのでしょうか。
藤田 平成30年でみてみると、1号・2号・3号すべて合計して未納者の138万人で割ると、たった2・1%に過ぎません。そもそも第2号被保険者は給与からの天引きなので未納はあり得ないですよね。きちんと内容を理解しないと「年金は危ない!」というメディア報道を鵜呑みにしてしまいます。

─メディア報道を検証せずに政府批判をする不勉強な野党国会議員もいますよね。
藤田 例えば立憲民主党の蓮舫議員は「国民が怒っているのは“年金は100年安心”が嘘だったこと。自分で2000万円貯めろとはどういうことだ?」と発言していますが、そもそも“100年安心”というのは年金制度が“100年安心”ということで、政府が答弁で生活が“100年安心”と述べたことはないのです。

─ところで、金融庁による2000万円の報告書の意義は何なのでしょう。
藤田 報告書は消費税10%増税前に提出されています。一方で年金保険料を上げることは身を切ることですからなかなかできないので、税の投入ということになります。その財源が必要なので、消費税増税の理解を国民から得たいというのがこの報告書の目的かもしれません。また、平均貯蓄が2000万円以上あるだけでなく、日銀の報告ではタンス預金が80兆円以上あるといわれておりますから、それらのお金を金融商品の購入など投資に回してもらいたいという思惑も伺えます。金融庁ですしね。

─その意図をメディアはねじ曲げて伝えたということですね。
藤田 多くのメディアは「年金で最低限の生活を面倒見てもらえる」というイメージをもたらし、しかも平均2000万円以上貯蓄があることを伝えていません。切り取り報道を繰り返して世論をミスリードし、参議院選挙前の与党叩きに利用したという見方もできます。

─いずれにせよ年金財政問題は大きな課題ですよね。
藤田 経済学者の権丈善一教授は、平均年金月額の引き下げ・支給開始年齢の引き上げ・保険料の引き上げ・国民総生産の増大政策の4つの解決策を示し大多数のコンセンサスを得ています。働ける方にはしっかり働いてもらうことで支給開始年齢を引き上げること、そして支給年齢を引き上げること、自分の身は自分で守ることも必要になってくるでしょう。

─私たち市民はどうすればよいのでしょうか。
藤田 カエサルは「多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない」と言いましたが、目に入る新聞やテレビの情報を安易に信用するのは感心できません。年金は「福祉」ではなくあくまでも「保険」ですので、公的年金だけに頼らない老後生活を現役時代から考えておくことが賢明ではないでしょうか。

庫県医師会医政研究委員
ふじた脳神経内科院長
藤田 賢吾 先生
〈2020年7月号〉
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