9月号
草葉達也の神戸物語
もんた よしのりさん
(シンガーソングライター)
私がまだ二十代の頃、放送作家として関西のテレビ局に出入りしていました。ある音楽番組にのスタジオにいた時に「たこ焼き買うてきたで」という、あの独特の声が聞こえてきました。80年代始めに「ダンシング・オールナイト」が大ヒットした 「もんた&ブラザーズ」の、もんたよしのりさんでした。「自分も食べや~」とたこ焼きを勧めてくれたことを思い出します。神戸出身で、私が大好きなアーティストです。
「お生まれも神戸ですか」「おじいちゃんがもともと神戸で、戦争で焼かれて田舎に引っ越した時に、おやじがおふくろと知り合って、そこでオレが生まれたというだけで、基本的には神戸やねん」「うちの次男がそうですよ。震災で明石に仮住まいしていた時に生まれて、すぐ神戸に戻ってきたけど、生まれは明石ってことになってます。だから兄弟三人でひとりだけ神戸生まれ違うっていつもすねてますよ」「そうそう、それと一緒やね。神戸っ子って神戸で生まれてないとあかんようなところあるな~」
「音楽との出会いは?」「中学一年の時に、リアルタイムでビートルズが始まって、それまでは全然音楽に興味無かってんけど」「スポーツですか?」「スポーツ言うより、ただの『ごんた』やな(笑) それでビートルズを聴いた時に、なんやこれ~って」「電気が走ったわけですね」「そうそう。それまで音楽が好きなんて思ったこともなかったのに、メチャクチャ好きになってしまって。それが何でか今は凄いわかるねんけど、映画館が家の前にあって、そこによう見に行っててけど、洋画をいつも上演していて今で言う名画座みたいなもんやな。そこでずっと見ているうちに頭の中だけロマンチストになっていたみたい。その映画の世界と現実がなんか違うなぁ違うなぁと思ってた時に」「ビートルズと出会ったんですね」「そうやねん。何かもの凄く満たされてん。それからシングルが出るたびに買って、ほんまにすり切れるぐらい朝から晩までレコード聞いてたわ。だから、ビートルズの初期のナンバーは全部そらで言えるわ」「へえ~ 耳で覚えたんですね」「そうそう、歌詞カードでなく耳でやね」「実際に歌を歌うようになったのは?」「昔、阪急の高架下にあったダンスホール、ただミラーボールがあるだけのダンスホールやったんやけど、生演奏でオレにしては夢の宮殿みたいなとこやったわ。凄い大人の世界ってい雰囲気やった」「そこで初めて歌われたんですか」「よう覚えてないねんけど、それも知り合いのバンドに欠員が出て、もう明日やらなあかんというような話しやったとおもうわ。そうそう、その時のバンドマスターにこの前偶然ばったり会って、それが神戸のオモロイとこやわ。初めてやった時のバンマスに道で会って、あれやこれやって話しして」
「おもしろいですね~ 前から私がもんたさんに聞きたかったことは『ダンシング・オールナイト』が大ヒットしましたが、あれはやはり神戸をイメージした歌なんですか?」「そうそう。ダンスホールという世界、キャバレーの生バンドというようなオレにとって暖かいひびきやね。あの当時は凄い古い作りやってんけど、途中でギターがジャラジャと勝手に入るとか」「アルバムにKOBEっていう曲ありますよ。あれも大好きなんですよ」「ええ歌やな。あれなんかはメリケン波止場、今の綺麗なものじゃなくて古い時の、ちょっと怪しい感じのメリケン波止場のイメージやな」
「神戸は大好きですか」「もちろん好きや。夜に神戸帰って来ると、あの高速で神戸の街が近づいて、夜景が広がって、うわ~神戸帰って来たって気持ちになる」「私もそうですよ。胸がきゅっとなりますよね」「自分もそうなんや! 意識してないねんけど毎回やねん・・・」
外国人バーや高架下、港の話しなどで大変盛り上がりましたが、私がもんたさんより十歳年下とわかると「自分よう神戸の古いこと知ってんなぁ~」と、とても嬉しいお褒めの言葉をいただきました。もんたさんと神戸で何かやりたいですね。
〈取材協力店〉
ふらんす食堂「Gloir(グロワール)」
TEL 078-939-7711
神戸市中央区下山手通2-13-11
トアロードビル1階
もんた よしのり
1980年にもんた&ブラザーズ名義でリリースした「ダンシング・オールナイト」が大ヒットし、第22回日本レコード大賞金賞等受賞。作詞・作曲を手がけた西城秀樹のシングル「ギャランドゥ」なども大ヒット。2007年には「もんた&ブラザーズ」再結成。自身では、震災支援や途上国支援などのチャリティーコンサートを多数主催している。
くさば たつや
神戸生まれ。作家、エッセイスト。
日本ペンクラブ会員、日本演劇学会会員
神戸芸術文化会議会員、大阪大学文学部研究科