4月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇六回
尼崎市民医療フォーラム
「100歳時代の生き方、死に方 」について
─尼崎市民医療フォーラムの目的は何ですか。
矢野 尼崎市医師会の医政委員会のメンバーが中心となり毎年開催し昨年度で13回目の開催となりました。毎回、医療政策や社会保障制度と関連したテーマの中でより多くの市民に足を運んでいただき、一緒に考えるというようなフォーラムをおこなってきました。一昨年までは尼崎市出身のコラムニスト、勝谷誠彦さんに毎回参加していただきフォーラムを盛り上げていただきましたが、大変残念なことに2018年11月に亡くなられました。勝谷さんには一昨年度に厳しい病状の中、車椅子で登壇いただき大変感謝しております。また今回のフォーラムは勝谷さん不在で初めての開催となりましたが、勝谷さんにも天国から眺め参加いただいているという気持ちでフォーラムに取り組みました。
─昨年度のテーマは何ですか。
矢野 「100歳時代の生き方死に方partⅡ~健康でイキイキ、令和はえ~わ!~」というテーマで、10月5日にあましんアルカイックホールオクトで開催しました。平成から時代が変わり、超高齢化社会を迎えていく令和の日本が安心して医療が受けられるような良い時代となるのか?健康な日常の中で病気に不意に襲いかかられ生活が一変した時、家族はどうしたらいいのか?自分はどうしたいのか?そんなことを参加された方々にフォーラムで是非一緒に考えていきたいと思い企画しました。
─フォーラムはどのように進行しましたか。
矢野 社会人落語の浪漫亭不良雲さんが小噺で場を和ませたあと、第1部で高校生による演劇、第2部でシンポジウムをおこないました。
─第1部の演劇はどのようなストーリーでしたか。
矢野 主人公の母がある日突然、転倒骨折し入院介護が必要な状況になってしまいます。突然、介護と仕事に追われることとなった主人公は次第に追い込まれ、自らも体調を壊してしまいます。そうした中、周囲のサポートを受け主人公、母ともにどう生きていきたいのか話し合いを重ねながら、自分らしい生活を取り戻していくという内容です。劇を通じて弱者を支える社会の仕組み、健康と仕事のバランスの大切さ、かかりつけ医の役割などについて知っていただけるよう考えてシナリオを制作しました。
─高校生による演劇を採用したのはなぜですか。
矢野 過去のフォーラムでは比較的高齢の方に多く参加いただくことが多い傾向にありましたが、政府が全世代型の社会保障制度の取り組みを進める中、今回のフォーラムではこれからの令和時代を担っていく若い世代の方々にも参加いただきたいと考え、尼崎小田高校看護医療・健康類型の生徒の皆さんに演劇という形で参加を依頼し快諾していただきました。生徒の皆さんには勉強や部活で忙しい中時間を削って演劇に取り組んでいただき、大変感謝しています。演劇の内容も素晴らしく、これまでのフォーラムにはない新鮮な雰囲気でした。
─第2部はどのような内容でしたか。
矢野 明石市長の泉房穂氏、衆議院議員の中野洋昌氏、尼崎小田高校主幹教諭の福田秀志氏、尼崎市認知症初期集中支援チームチームリーダーの二宮園美氏、アイワ病院院長美崎晋氏と私がシンポジストとして登壇し、演劇の内容を踏まえ議論しました。
子育て支援政策で実績のある泉市長からは「全世代型社会保障」という難しい言葉ではなく「みんなでみんなを地域でささえあう」という言葉を用いていることや、こども食堂でボランティアをする元気な高齢者などの例を挙げ、子どもやお年寄り、障害を持った人などすべての人を地域のみんなで一緒に支え合うことが大事だとおっしゃっていました。
─会場の反応はいかがでしたか。
矢野 当日は用意した650席がほぼ満席で多くの市民の方々が来場され、本年は特に10代~30代の平成世代の若い方々にも多く参加いただきました。稲村和美尼崎市長の挨拶をはじめ、落語に演劇、シンポジウム、泉明石市長・中野衆議院議員のお話など盛りだくさんの内容で、参加いただいた方々のアンケートからもよい評価を多くいただきました。
─尼崎市医師会は医療・介護連携にどのように取り組んでいますか。
矢野 尼崎市ではさまざまな取り組みで病診連携、診々連携を積極的に進めています。尼崎市医療・介護連携支援センター「あまつなぎ」もそのひとつです。ここでは地域の診療所や介護現場でどうしたらよいか対応に困るような場合に医療従事者が相談できる体制を整えているだけでなく、活動の一環として「あまがさき在宅医療介護塾」を開催し医療・介護両方の側面からさまざまなケースの問題解決方法について議論しています。また、ICTの分野においては阪神医療福祉情報ネットワーク「h-Anshinむこねっと」を整備し、患者さんのCTやMRIなどの画像データ、入院中の患者サマリーなどの診療内容を共有することにより、機能分化した医療機関同士が連携することで地域完結型医療を可能にしています。
─2020年度もフォーラムを開催するのでしょうか。
矢野 10月に開催予定です。テーマは現在検討中ですが、有意義なフォーラムとなるよう頑張りますのでぜひ参加ください。医療政策や社会保障制度は難しい話だと敬遠されがちですが、その時々で問題となっていることや議論すべきことをうまく取り込みつつ、市民のみなさまにとって難しくなりすぎず興味を持っていただける内容にし、多くの方に参加していただけるような市民フォーラムを今後も毎年企画していきたいと考えています。