2月号
ノースウッズに魅せられて Vol.07
空に舞う暁の女神
写真家 大竹 英洋
ノースウエスト・テリトリーズのフォート・スミス。冬のシンリンバイソンの撮影のため、その町に滞在していたぼくは、夜になるとオーロラの出現を待っていた。
ノースウッズ全域で観測できるが、北緯60度までくると確率が高くなり、しかも、天頂から降るように現れるのだ。
夜中の1時を過ぎた頃、車を郊外に走らせていると、北の空に緑色の光が揺らめいた。空き地に停車し、カメラをセットする。気温はマイナス30度を下回り、瞬きをする度に吐息が凍りついて、上下のまつ毛がひっつくのを感じた。
オーロラの発生条件に気温との関連はない。が、寒い夜の方が見られるというのは間違いとも言い切れない。雲ひとつない夜は放射冷却によって冷え込みが厳しくなるため、結果として気温の高い曇りの日よりも、見える確率が高くなるのである。
さらに言うならば、オーロラ観測は冬である必要もない。白夜になる北極圏でない限り、夜の暗くなる時間に出現さえしてくれれば、夏でも見ることができる。
最初は一本の光の筋が蛇のようにくねっていただけだったが、徐々に明るさを増し、頭上に光の束が集まると、龍のように舞い始めた。深夜4時を回ると、ついには、空全体が脈打つように明滅を繰り返す光のシャワーとなった。
結局この夜のオーロラは勢いを保ったまま、朝の7時に空が白み始めてもなお、カーテン状に揺らめき続けていた。
オーロラの名の由来は、ローマ神話の暁の女神アウロラ。バラ色の指を持ち、兄の太陽神に先駆けて天空の門を開く。その名にふさわしい輝きを、夜明けの空に見た。
写真家 大竹英洋 (神戸市在住)
北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに、人と自然とのつながりを撮影。主な写真絵本に『ノースウッズの森で』(福音館書店)。『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。2020年2月、これまでの撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)を刊行予定。
大竹英洋写真展「ノースウッズ-生命を与える大地-」開催!
撮影20年の集大成となる写真集も同時刊行!
太古から
人と自然の物語が紡がれてきた
世界最大級の原生林、ノースウッズ。
カナダ初の世界複合遺産
「ピマチオウィン・アキ」を含む
恵みの大地で、旅をつづける写真家の
眼と心に映ったもの…。
『ノースウッズ 生命を与える大地』
クレヴィス刊 2,500円+税
2月中旬発売、書店にて予約受付中!
写真展のご案内
富士フイルムフォトサロン
若手写真家応援プロジェクト【写真家たちの新しい物語】
大竹英洋写真展「ノースウッズ-生命を与える大地-」
東京展 〈会期〉2月21日(金)~3月5日(木)
〈会場〉富士フイルムフォトサロン 東京
(東京都港区赤坂9-7-3 フジフイルム スクエア内)
※開館時間・イベント等詳細は、東京TEL.03-6271-3350(平日10:00~18:00)
大阪展 〈会期〉6月26日(金)~7月9日(木)※6月28日(日)は休館
〈会場〉富士フイルムフォトサロン 大阪
(大阪府大阪市中央区本町2-5-7 メットライフ本町スクエア1F)
※開館時間・イベント等詳細は、大阪TEL.06-6205-8000(平日10:00~18:00)
主催:富士フイルム株式会社 後援:世田谷区教育委員会・港区教育委員会
協力:カナダ政府名誉領事館(大阪)、日本カナダ会、ミネソタ日米協会
企画協力:株式会社クレヴィス
写真集刊行のお知らせ
大竹英洋写真集「ノースウッズ-生命を与える大地-」
北米大陸、知られざる森と湖の世界を旅する。ノースウッズを紹介する、初めての本格写真集。