2月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇四回
令和元年度認知症医療全県フォーラム
「~認知症になっても楽しく、元気に生きるために~」について
─認知症医療全県フォーラムとはどのようなものですか。
橋本 認知症対応医療機関連携強化事業の一環として兵庫県の委託を受け、兵庫県医師会が主催するフォーラムです。超高齢社会を迎えたいま認知症は増加しており、認知症の患者さんとご家族を地域全体で見守り支えることがますます重要になってきます。医師をはじめとする医療関係者のみならず、介護・福祉関係者のほか、一般市民のみなさまも一緒に認知症について学び考える場として企画しています。令和元年度は11月2日に兵庫県医師会館の大会議室で開催し、111名の方々にご来場いただきました。
─どのようなテーマでしたか。
橋本 今回は「認知症予防」に視点をおいてフォーラムを企画しました。私が司会を、一般財団法人仁明会・医療法人樹光会理事長の森村安史先生が座長を務め、神戸学院大学総合リハビリテーション学部特命教授の前田潔先生と国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター長の島田裕之先生に講演していただき、その後ディスカッションがおこなわれました。
─前田先生のお話はどんな内容でしたか。
橋本 前田先生は神戸市認知症対策監として神戸市の認知症対策の施策にも携わり、全国に先駆けての認知症初期集中支援事業や政令指定都市初の「認知症の人にやさしいまちづくり条例」など先進的な政策にも関わってこられました。今回は「Dementia Friendly City Kobe~認知症のひとにやさしいまち、神戸~」と題し、「認知症神戸モデル」の紹介のみならず、健康寿命を延ばし平均寿命に近づけるために日頃どのような工夫をすれば良いかをお話いただき、生活の中でできる認知症の予防についてもわかりやすく解説されました。人と人との繋がりが寿命や認知症のリスク軽減に繋がるというお話は興味深かったですね。また、認知症の治療薬開発に関わる問題点も指摘され、開発にかかる費用が医療費にのしかかってくるという医療経済の問題にも言及されました。認知症の治療薬開発はまだまだ道半ばであるだけでなく、開発を進める方向性もさまざまなので、根本治療に繋がるにはまだまだ時間がかかりそうです。
─「認知症神戸モデル」はどのような仕組みですか。
橋本 神戸市では認知症の早期受診を支援する「診断助成制度」、認知症の方が事故に関係した場合の「事故救済制度」と認知症と診断された後の生活相談を承る「診断後支援制度」を軸に、コールセンター設置や所在不明の際の駆けつけサービス、賠償保険など手厚くサポートし、一般市民が認知症の方が起こした事故などに巻き込まれた場合の見舞金の支給もおこなっています(次頁 図1)。
─島田先生のお話はどのような内容でしたか。
橋本 島田先生は認知症や寝たきりの予防を目指し、高齢者の健康増進のためのプログラム作成と効果検証に力を入れておられますが、今回は「運動による認知症予防」をテーマにお話いただきました。身体活動の低下はアルツハイマー病発症の強力な要因であり、運動や歩くことが認知症予防に結び着くということを軸に、自分自身が好きなことや楽しめることをおこなうことが重要だとお話されました。高齢になるとどうしても外出が減って自宅に引きこもりがちになってしまいます。そうなると歩く機会が減り、他者とのコミュニケーションを持つ時間も少なくなってしまいますよね。ですから早いうちにそのことに気付き、意識して外出や運動をおこなうことと、それを実行しやすい環境づくりなどの対策が、認知症を予防したり健康寿命を延ばしたりする基本になっていくということでした。また、認知=コグニションと運動=エクササイズを組み合わせ、脳と身体の機能を効率的に向上させる「コグニサイズ」の具体例もご紹介いただきました。
─フォーラムではどのような議論がありましたか。
橋本 前述の通り、認知症には治療薬もなく、「こうすれば確実に予防できる」という虎の巻もありません。しかし、さまざまなメニューを専門職が提供することで、個人が選択しやすい方法を見つけていくことが大切ではないかという議論がありました。また、個々人の性格や特性を生かし、知的好奇心を満たす活動が推奨され、積極的な社会参加を促すことの重要性も語られた一方で、運転免許の自主返納による外出機会の減少、特に僻地に住む高齢者へのサービス提供の不十分さなどの課題も浮かび上がりました。質疑応答でも日々不安に感じていることや疑問点などについて、多様な職種から時間枠いっぱいまで活発に質問が出て、有意義なフォーラムになったと思います。
─兵庫県医師会は認知症についてどのような取り組みをおこなっていますか。
橋本 今回のような一般県民や関係者向けの「認知症医療全県フォーラム」をはじめ、さまざまな機会を通じ県民のみなさまと一緒に考えつつ、認知症に対する啓蒙活動を地道に進めています。また、かかりつけ医がより認知症に理解を深めるための「かかりつけ医認知症対応力向上研修」、認知症専門医を対象とした「認知症専門研修」にも取り組んでいます。さらに2019年度からは医師、臨床心理士、精神保健福祉士で構成される「はばタンCサポートチーム」を事業所に派遣し、自分や家族が認知症ではないかと心配する人の相談にのる事業も開始しましたので、ぜひご活用ください。
■はばタンCサポートチーム
お問い合わせ先
兵庫県医師会業務1課介護保険係
TEL.078-231-4114
兵庫県医師会常任理事 ゆりのき内科院長
橋本 彰則 先生