2月号
縁の下の力持ち 第19回 神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター
臓器横断的に最善のがん治療をチーム医療で提供
がん治療のさまざまな分野の専門家が集まりチームを組み、話し合いながら一人一人の患者さんにとって最善の治療を提供する「腫瘍センター」。地域医療の中心としての役目も果たしています。
―腫瘍センターとは。
日本の医療は明治以来、臓器別診療体系が続いていました。がんも、肺がんは呼吸器内科、胃がんは消化器内科や外科、肉腫は整形外科というふうに臓器別の各診療科が治療していました。ところが、薬物療法では違う臓器のがんでも同じ薬を使い、治療の基本的な考え方も同じです。放射線治療も同様です。それならば、薬物療法や放射線治療は診療科を横断して進めようと議論され、がん対策基本法が2006年に成立しました。厚生労働省はがん対策基本計画に基づき各地域に「がん診療連携拠点病院」を指定し、神戸大学病院も地域のがん治療の中心病院として指定されました。がん診療連携拠点病院には、臓器を越えてがん治療を扱う「腫瘍センター」が開設されています。
―がんの患者さんはみんな腫瘍センターで治療を受けるのですか。
大学病院にはたくさんの患者さんがおられますから、すべてのがん患者さんを腫瘍センターで扱うことはできません。基本的には臓器別の内科医や外科医、放射線科医、病理医などが集まるカンファレンスで治療方針を決めます。そこでは対応し切れない症例や複数のがんを持っておられる患者さんなどについては腫瘍センターの〝Tumor Board〟「腫瘍についての話し合いの場」で診療科の枠を越え、腫瘍内科医も加わって議論します。がん治療について共通の認識を持ち、お互いに勉強し合う場です。
―先生はなぜ腫瘍内科を専門にされたのですか。
きっかけはアメリカ留学です。留学前は呼吸器内科医として肺がんの化学療法に興味を持って診療していました。アメリカの若手腫瘍内科医はがんについて幅広く学び、色々ながんの薬物治療を担当できるようにトレーニングします。日本とは全く違う臓器横断的がん治療が行われていることを知り、合理的であると感心するとともに衝撃を受けました。とはいえ、まだ日本は臓器別治療が常識の時代でしたから、帰国したら呼吸器内科医として主に肺がんの治療に当たることになるだろうと思っていました。ところが、日本でもがん治療を見直そうということになり、国立がんセンターを経て、神戸大学の腫瘍センターの立ち上げを担当することになりました。
―薬物療法というのは抗がん剤治療ですか。
皆さんは抗がん剤と聞くと吐き気が強くて髪の毛が抜ける薬をイメージするかも知れませんが、これは殺細胞性薬物と呼ばれ、細胞分裂が盛んながん細胞を殺すものです。増殖が盛んな正常な細胞まで殺してしまうので副作用が出ます。がん細胞だけを抑えればいいのですから、新しく開発されたのが分子標的薬です。副作用が大きく軽減されました。さらに、ノーベル賞を受賞された本庶佑先生たちのグループの発見を機に免疫チェックポイント阻害薬も登場しました。これは分かりやすく言うと、薬によりがん細胞を直接攻撃するのではなく、体が持っている免疫を担当するリンパ球を刺激して、がんをやっつけてもらおうという薬です。
―ほとんどのがんが薬で治療できるようになるのですか。
残念ながら、全てのがんを治せると言える段階までにはまだまだ時間がかかります。がんが再発して薬物療法が必要になった患者さんに、ただ「頑張りましょう」というのではなく、場合によっては「いつかは着地点が来る」と、きちんと告げなくてはいけません。
―つらい立場ですね。
もちろん腫瘍内科医が一人で背負っているわけではなく、チームで取り組んでいます。チーム医療と聞くと、三角形の頂点に医師がいて治療方針を決め全員がそれに従うというイメージを持っておられるかもしれません。でも実は、丸く輪になっているのがチーム医療です。がん患者さんは病気に対する不安はもちろん、それぞれに仕事のことや家族のことなど様々な問題や不安を持っておられます。医師だけで全てに対応できるわけではなく、看護師、薬剤師、緩和ケアチーム、時には社会労務士やソーシャルワーカーも含めみんなで輪になって患者さんと向き合っています。
がん診療連携拠点病院では地域のがん医療の中心としての役目も担っています。講演会を開催したりがん相談室を開設して他院の患者さんにも対応しています。一人で悩まずに相談してください。