2018年
9月号

神戸鉄人伝 第105回 日本舞踊協会会員・兵庫県舞踊文化協会評議員 花柳 伊奈輔 (はなやぎ いなすけ)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

 普段はごく普通の着物姿のご婦人。その顔が舞台に立つと、一変して「舞踊家」になります。日舞を中心に民踊、新舞踊まで幅広く活動される花柳伊奈輔さん。神戸まつりの総踊り、ヴィッセル神戸の応援音頭などの振り付け指導にもあたっておられます。「とにかく踊りが好きで好きで」という花柳伊奈輔さんに、お話をうかがいました。

―子どもの頃から踊りが好きだったそうですね。

 中学時代はモダンダンスをやり、宝塚歌劇団の群舞に憧れ、盆踊りがあれば飛んで行きました。もう踊りが大好きで、とにかく身体が動いていれば幸せでした。15歳から黒石紫月師に民踊、花柳五三輔師に日舞のご指導を賜り、高校を卒業してからお手伝いをするようになりました。民踊と日舞、両方の道を歩むことになったのは両恩師との出会いがあればこそです。舞踊家としては異色かもしれませんが、両道かけたことで得ることも多くありました。

―日舞、民踊、新舞踊…かなり違うものなのでは?

 まず、日舞の古典作品は型が決まっていて、それを伝えていくものです。民踊は佐渡おけさや八木節などの民謡で踊るもので、地方で伝承されてきたものです。いずれも創作作品は自由に振りを付けます。新舞踊、いわゆる歌謡舞踊は演歌や歌謡曲で踊るもの。古典はやはり踊りの基本なので、日舞を身に付けた人は民踊や新舞踊にも入りやすいです。五三輔師は民踊も数多く振り付けしてこられ、おかげで私は様々な経験をさせていただくことができました。

―神戸まつりの総踊りで、新曲の振り付けを担当されましたね。

 神戸開港150年記念として制作された「こうべ港音頭」は、神戸の名所が登場する軽快な曲です。2017年の神戸まつりで、神戸市婦人団体協議会メンバー約1300人が踊りを披露しました。波を表す手の動きや六甲山を見上げるしぐさなど、子どもにも踊りやすいように仕上げています。ちびっこバージョンもありますので、ぜひ子どもたちにも踊って欲しい。そして故郷・神戸を自慢してもらえたら嬉しいですね。

―神戸市と姉妹都市との国際交流にも一役買われています。

 神戸国際親善使節団の一員としてシアトルやブリスベンを訪ねたのをはじめ、12カ国20都市を訪ねています。本物の日本文化を目にすることができたと、欧米人だけでなく在住の日本人にも大変喜んでいただきました。一途にやってきた踊りで、こんな形で皆様のお役に立てたことは、私にとっても望外の喜びでした。

―ご自身の会、凰月会を率いて30年になるとか。

 神戸をはじめ、三田、西脇まで教えに通っています。直弟子だけで約80人、年代は小学生から80歳を超えた方までと幅広いです。2年に1度の発表会では民踊、新舞踊、日舞の小品、古典作品などを披露しています。皆頑張っていますが、30歳以下の人が少ないのが悩みです。若い踊り手が増えないのは、日本舞踊全般に言えることかもしれません。これからは流派の垣根を超えて、日舞人口を増やしていく必要があるのではないかと感じています。

―これから力を入れたい活動は?

 子どもたちへの普及活動でしょうか。幸いなことに「子ども伝統文化わくわく体験教室」など、兵庫県は子どもたちが伝統文化に触れる機会を積極的につくってくれています。私もこのような場で、子どもたちに日舞のすばらしさを伝えようと努力しています。最近の子どもたちはジャズダンスの方が身近なようですが、ぜひチントンシャンにも馴染んで欲しいですね。着物の着付けや所作の美しさなどを知って、日本文化の奥深さを感じてくれたらと願っています。
(2018年6月26日取材)

 様々なシーンの振付指導に余念のない伊奈輔さん。その門下から、神戸を背負って立つ若手舞踊家が現れるかもしれません。

「夢と縁(えにし)が人生なり」と花柳さん。「皆様との出会いによって今の私があります。本当に感謝の思いでいっぱいです」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神あ戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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