11月号
桂 吉弥 今も青春 【其の三十】
がんこな男の勘違い
このごろよく「がんこになった」とか「怒りっぽくなったから気をつけて」と言われる。初めは『そんなことないやろう、今まで通り普通やん俺』と思っていたのだが、後で気づいて恥をかく出来事が実際に起こってきたのである。
自分ではちゃんとやれていると思っていることが出来てなかったりする。しかし頭の中では「出来てるよ俺」と思っているもんだから指摘を受けるとカチンとくるのである。・・。
まずは九州新幹線で山口県に行ったときの話。私は贅沢にもグリーン車での移動だったのだが、さくら号のグリーンにはフットレストがある。前に足置きがあるのはもちろん、さらに自分の座席の下からふくらはぎをグーッと持ち上げるような感じで出てくるのだ。背もたれはもちろんリクライニングするから、頭の先から足の先までしっかりと支えられて横になれるのでたいへん楽チンだった。さて目的地の徳山駅直前になって座席を元に戻そうした。背もたれはすぐに戻ったのだがフットレストが戻らない。手元にあるレバーを動かしているのだが反応しない。『え?この矢印方向にレバーを動かして出てきたんやから、矢印方向に動かせば引っ込むよな』と何度やっても動かない。『新しい新幹線なのにもう潰れてるんか、これ』と手元のレバーを左手で倒して右手でフットレストを押すのだがウンともスンとも言わない。ああ俺のだけ壊れてると運の悪さを恨んでいると、通路を挟んで座っているおばさんが「レバーを反対に引くの」とヒソヒソ声で言ってきた。失礼ながら俺より機械に弱そうなおばさん、テレビの録画予約も子供に頼んでいそうな感じ。カチンときた。反対に?矢印が書いてない方に動く訳ない、これは壊れているんだから動かないんです。思わずこちらもヒソヒソ声だが強い感情を顔に込めて「壊れてるんです!」と応えた。応えながらレバーを反対に引くと嘘のように軽くフットレストが元に戻った。恥ずかしかった、穴があったら入りたい。あのおばさんは吉弥だと分かっていたのだ、だから私に恥をかかさない為にヒソヒソ声で教えてくれようとしたのだ。
次に近鉄電車・賢島駅の切符売り場で。近鉄には伊勢方面に行くのにたいへんお得なまわりゃんせという切符がある。もう一つこれまた便利なフリーきっぷというものもある。私はフリーきっぷを購入しようと売り場に立った、「すんません、まわりゃんせを買いたいんですが」何故か違う切符の名前を言う私。駅員さんが「まわりゃんせは当駅では扱ってないんですよ」と答える。「え?無いんですかまわりゃんせ」「ごめんなさい、こちらへ向かう切符なんで」「いやおかしいなあ、まわりゃんせ売ってるでしょ」「無いんですよ・・・フリーきっぷならお取り扱いしてますが」「それ!それ!フリーきっぷが欲しいんです。私なんて言うてました・・・」。
頭ではフリーきっぷって言うてるつもりなのだ、だから無いと言われてカチンときてるのだ。はあ情けない勘違い、口ではハッキリまわりゃんせって言うといて。
皆さん、街角で私のがんこな振る舞いをご覧になった時は耳元で「まわりゃんせ」とささやいて下さい、気分をまわりゃんせして落ち着こうと思います。
KATSURA KICHIYA
桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞