11月号
神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 芸術家女星編 第34回
剪画・文
とみさわかよの
小原流いけばな教授・
兵庫県いけばな協会名誉相談役
木村 禮子さん
エネルギッシュないけばな人として知られる木村禮子さん。小原流教授として、県下の様々な場に出品しながら、後進の指導にあたっておられます。国際都市神戸に生まれ育っただけに、海外での花展や指導の実績は群を抜き、2004年に兵庫県文化賞を受賞されました。阪神・淡路大震災の折、1月17日に徒歩でポートピアホテルにたどり着き、横倒しになった大作の撤花を行ない、大型扇子や柳を背負って帰ったという武勇伝は、今も「小原流魂」と評価されています。たおやかに、時に勇ましく活動を続ける木村さんに、お話をうかがいました。
―いけばなの世界に入られたのは?
母がとにかく古典好きで、お茶・お花・謡曲・仕舞などを習わされたんですね。まあ私の世代は、花嫁修業―女のたしなみとして、茶道・華道を習うのは当たり前でしたから、私もごく普通に18歳の時、近所の華道家の先生に入門しました。その方が私の一生の師、亀島豊鶴先生です。先生は三世家元・小原豊雲先生の直門で、茶道の淡交会役員もなさっておられました。
―師との出会いが、その後の人生を決定したのですね。
先生には実の娘のようにかわいがっていただき、私はお宅に入り浸り状態。先生の教室では月に一度試験があって、私がガリ版刷りを手伝っていたんですが、そのうち問題も作るようになります。これが役立ち、小原流の講師試験に近畿中部地区で初めて合格。三世家元から直接ご指導いただくことになり、本部講師にもなりました。若い頃の私は、ドレスデザイナーの仕事もしていて、水泳・テニス・ゴルフ好き。ミニスカートにハイヒール姿でお花を生ける、型破りの華道家で…そんな私をあたたかく見守ってくださった豊鶴先生には、どんなに感謝しても足りないくらいです。
―今の時代、お弟子さんたちの入門の動機は花嫁修業ではなく、資格取得だったりするのでしょうか?
相変わらず花嫁修業として、お茶・お花・お料理を習う人もいますけれど、形だけ習っても役に立ちませんよ。お免状が欲しいだけの人は、残念ながらうまくならないです。お花が花器によってまったく違う作品になるのと同じで、たとえばコロッケも違うお皿に盛って添えるものを変えれば、別のお料理になるでしょう。本当に習得すべきことは、「自分自身で考えること」なんです。資格があっても、工夫しないお嫁さんは飽きられるわよ。私のもとで長年続いている生徒は、いけばなを通じて、考えることを身に付けた人たちです。
―華道家の方は、名だたる陶芸家の作品をたくさんお持ちですね。
小倉健先生や永澤永信先生の作品などは、よく使わせていただきます。陶芸家の先生が、いけばな展に来てくださるのは、器に会うためでもあるんですよ。お花によって花器が生きていると、誉めていただけると嬉しいですね。「この花器と私が出会えるよう、陶芸家の先生が心込めて創ってくださった」という気持ちで生ければ、お花も花器も喜びます。そうでないと、花器に失礼。生徒たちには常々、花器に敬意を払うよう教えています。
―神戸ビエンナーレでは、華道家の皆さんが、コンテナにお花を生けました。これは古典に対して、「モダン」と呼ぶべきものなのでしょうか?
メリケンパークのビエンナーレでは、コンテナの形自体が優れたデザインでした。壁面は波板、ところどころ汚れたりしていて、置き方ひとつで空間が変わる。その中や周囲にお花を生けるという発想は、ダイナミックなモダンいけばなですね。でも私たちの造形は、彫刻家や建築家の造形とは違います。空間の創り方からして、西洋のシンメトリー(対称)に対して、日本はアンシンメトリー(非対称)。伝統的なお花の生け方を学んだいけばな作家は、完璧でなく足りないところをつくる、日本特有の美を踏まえて創作します。モダンもやはり、古典が基礎にありますね。
―いけばなの何が、そんなにも心を捉えるのでしょう?
それはもう、花の生命そのものです。それは私にとって、かけがえのない大切なもの。どんなすばらしいお花でも、生けてから3日とはもちません。まさに一期一会、とてもはかなく、だからこそ愛しい。お花は自分が枯れたり散ったりすることを、知っています。終わりを知って、健気に精一杯咲く、それは人間の生き様と同じ。お花を見ていると、命あるものって本当にすごいと思いますよ。
―華道家として、そして女性として、夢かなえた人生と言えますか?
もちろん、こうしてお花を続けている人生は素敵、と思っていますよ。私の場合、もともと「こうしたい、こうなりたい」という夢があったわけではなくて、その時、その時の判断で自然体でやってきた気がします。今も人生はing、現在進行形ですからね、目的と場所さえあれば、これからもお花を生けますよ!
(2012年10月4日取材)
とみさわ かよの
神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員、KCC講師。