4月号
みんなの医療社会学 第二十八回
女性医師が働きやすい環境を
─女性医師の数や割合はどれくらいですか。
渡辺 平成22年現在、日本の女性医師は約5万3千人で、全医師数の約19%です。30歳以下の女性医師の割合は30%を超え、医学部の学生は現在30~40%が女子学生ですので、今後女性医師の割合は増加し、いずれは男女50%または女性が若干多くなるでしょう。女性医師の多い診療科は小児科・産婦人科・眼科・皮膚科・内科などです。
─女性医師の職場環境について、現在の状況を教えてください。
渡辺 やはり、出産や育児が難しい環境にあります。産休が義務付けられていますが、全部取る人は半数くらいです。その背景には医師が足りない現状があります。仕事量が多く、多忙な同僚に仕事をお願いしにくいので簡単に休めないためです。また、産休中の医師の補充も出来ないので、産休中は、他の医師たちが少ない人数で穴埋めをしているのが現状です。育児中の常勤も難しい環境です。育児中は仕事のペースダウンを余儀なくされ、25歳の時には100%近かった就業率は35歳で76%と低くなり、その後徐々に上昇します。この現象は「M字カーブ」と呼ばれます。
─出産にはどのように対応しているのでしょうか。
渡辺 兵庫県の病院勤務医師アンケート調査(平成23年)によれば、女性医師536名のうち産休制度を利用=114、利用していない=281、無回答=111という結果が出ました。産休は産前6週間 産後8週間取得する義務がありますが、実際に全期間取っている人は少ないのが現状です。また、退職して出産する方も少なくありません。産休を取得可能にするための支援や環境改善が望まれます。
─育児にはどのように対応しているのでしょうか。
渡辺 別表の通り、親などの親族に託して働く女性医師が多いです。続いて保育園や託児所に子どもを預けるケースが多いので、育児中の女性医師の勤務には保育所、病児保育、24時間保育が必要です。県内の病院で託児施設を有するのは約半分ですので、今後一層の託児施設の設置、特に24時間開設の施設が必要です。病児保育園に関しても県内で37ヶ所とまだまだ不足しています。
─出産や育児は大きなブランクになりませんか。
渡辺 医療は日進月歩ですから、医師は一旦離職すると復帰に時間がかかりますので、育児中も仕事につながっているほうが技術を忘れないで済みます。ですから完全に辞めるのではなく、少しでも良いので仕事を続けて育児が一段落したら常勤で勤務するようにすすめ、医学部の学生にもそのように教育しています。しかし、前述のとおり院内保育所を設置していない病院もあり、病児保育に関しては非常に少ないのが現状で、育児環境整備は今後の検討課題です。育児中でも働けるように短時間正職員制度の充実も重要です。
育児は、仕事や研究のブランクになるかもしれませんが、育児の経験は無駄ではなく、医師としても大切で、自分の幅を一回りも大きくしてくれますし、患者さんの診療をする時にも役に立ちます。男子も育児の経験が必要で、出来るだけ育児に参加して頂きたいと思っています。
─医師会は女性医師をどのようにサポートしていますか。
渡辺 日本医師会は厚生労働省の委託を受け平成19年より女性医師バンクを設置、兵庫県医師会でもドクターバンクを設け、離職・休職した女性医師の再就職を支援しています。兵庫県医師会では平成18年に女性医師の会を立ち上げ、同時に男女共同参画推進委員会も結成し、女性医師が安心して働ける環境を整備しています。そこではフォーラムや研修会を開催し、託児付きで若い医師に参加していただいています。また、平成19年からは兵庫県からの委託で女性医師の再就職支援事業をおこない、再就業に向けた無料研修を実施開催しています。さらにこの4月から出産や育児、復職や転職、職場環境などの相談を承る女性医師相談窓口を設置します。これは男性医師も利用可能です。また、ベビーシッター料金の一部負担もおこなう予定です。ほかにも郡市医師会を訪問して現状や問題の把握に努め、託児所や病児保育の必要性を病院に訴求する活動もおこなっています。託児施設の充実や再就職支援はもちろん、男女共同参画に向けた意識の改革も必要だと考え、医学生や研修医とも積極的に懇談し、将来の展望を考える機会も設けています。
渡辺 弥生 先生
兵庫県医師会理事
渡辺眼科医院 院長