2013年
7月号
デザインクリエイティブセンター神戸のNPO法人神戸デザイン協会にて

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 神戸の芸術・文化人編 第42回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

剪画・文
とみさわかよの

NPO法人神戸デザイン協会・グラフィックデザイナー
山田 芳信さん

50年前に一世を風靡し、聞けば誰もが「あれか!」と思い当たるヒガシマルの「うどんスープ」「ちょっとどんぶり」。神戸っ子お馴染みの神戸凮月堂の包装紙や紙袋、植垣米菓の「鶯(うぐいす)ボール」、UCCのロゴマーク。今も親しまれているこれらのデザインは、山田芳信さんの手になるものです。山田さんは、一九五四年に発足した神戸宣伝美術会の創立メンバーで、今もNPO法人神戸デザイン協会で活躍されている現役デザイナー。制作分野は広く、パッケージからプロダクトデザインまで多岐にわたります。常に斬新な視点で見る者の感性を揺さぶる数多くのデザインを発信してきた山田さんに、お話をうかがいました。

―デザインとアート、その違いをどのようにお考えですか?
以前僕はJAGDAのポスターで、「世界平和」を鳩一羽で表現しました。コピーを入れずとも一見してわかる、それがデザインの力です。アートも「表現」することには変わりないのですが、そもそも出発点が違います。アーティストは自分のために制作しますが、デザイナーはまず注文ありきの世界で、人のために制作する。芸術家は自作を「作品」と呼びますが、我々の仕事は自分が手掛けたものも、厳密には「自作」ではない。そしてデザイナーは、結果を出すことが求められる。この点が大きく違いますね。

―確かにロゴマークやポスターにデザイナーのサインは入っていませんから、使い慣れたものでも誰のデザインなのか知らない場合がほとんどです。画家は署名しますが、デザイナーがしないのは?
商品パッケージひとつ取っても、制作するのはひとりの作業ではありません。僕は若い頃、電通(広告代理店)に勤めていましたが、その時「デザイナーは黒衣(くろこ)」、即ちバックステージに居るもので、絶対に顏を見せてはならないと厳しく教育されました。マーケティングを把握したプロデューサー、表現技術に精通したクリエイティブディレクターに加え、コピーライター、カメラマン、イラストレーターと、多くのスタッフが力を合わせて取り組みます。そうやってできた商品は、デザイナーだけが署名する性質のものではありませんよね。デザイナーズブランドでもない限り、デザイナーの仕事は花形ではなく、裏方なんですよ。

―結果を出す、とはどういうことでしょう。
たとえばポスター。これは自己表現を目的とした芸術作品ではなく、コミュニケーションツールです。商品であれば関心を持っていただいて購買につながる、音楽会であれば聞きに行きたくなるようなデザインが求められます。作品を発注したクライアントは、期待をかけヒットを要求してきますし、大きな予算を掛ける以上失敗は許されない。「売れる・集客する」という結果が出せなければ、そのポスターの価値はありません。デザイナーはそんな熾烈な業界で鎬(しのぎ)を削っているのです。

―神戸凮月堂の包装紙や紙袋は、50年経っても新鮮です。神戸の教会や寺院などの建造物が多く描かれていますが、この意図は?
あれは単に観光名所を並べたのではありません。当時の神戸凮月堂社長・吉川進氏とスタッフ、僕、そして詩人の竹中郁氏を招いてプロジェクトチームを組み、コンセプトを詰めました。一目で神戸のお菓子とわかるには?いかに他都市との差別化を図るか?国際都市神戸をどう表現するか?と。開港以来、神戸には各国の宗教が集約されており、しかも共存しています。各国の教会や寺院、聖堂は神戸の歴史と文化、そして平和の象徴ではないか。僕はこれらをデザインすることで、神戸のエキゾチズムを表現しました。

―あのラッピングデザインには、そんな思いが秘められていたのですね。
神戸の文化は、世界の人たちの理想ではないかと思います。神戸は率先して外国文化を受け入れたまちで、各国のコミュニティが成立し、よい関係を保っている。北野にあるユダヤ教会とイスラムのモスクとは300メートルしか離れておらず、皆仲良く暮らしています。今日の世界で求められているのは、神戸のように多様なものを認め、相手の文化を認める寛容さと思いやりの心です。神戸は「平和の心」を世界に発信している都市。それを表現したのがあのデザインなのです。デザインだからこそ、できた仕事なのかもしれません。

―デザイン都市となった神戸では、あらゆる分野でデザインが重視されそうです。これからはどんな活動を?
絵画の延長線上にあったデザインは、今や美術のジャンルを超えて日常生活や生活文化に大きく関わりを持つようになってきました。すべてにデザイン力が求められる時代の到来です。デザインは人間を豊かにする創造力。僕は神戸で、デザインの仕事に関わってこれたことをありがたく思っています。神戸への感謝の気持ちを持って、これからも様々な活動を続けたい。自分の仕事が世のためになれば、それが僕にとっても幸せです。
(2013年5月10日取材)

デザインクリエイティブセンター神戸のNPO法人神戸デザイン協会にて


みんなに親しまれている山田さんの楽しいデザイン

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。

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