5月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十回
今春の診療報酬改定で患者負担はどうなるのか?
─今春、診療報酬改定がおこなわれますが、改定はどのようなタイミングでおこなわれますか。
杉本 日本の医療制度は、すべての国民が皆保険で医療を受けられる、世界に冠たるものです。診療報酬改定は、現在の医療制度や社会保障制度を持続可能な状態で続けていくことを最も重要な目的として、2年に1度定期的におこなわれ、学識経験者、健保組合、医師会、病院の代表者などによって構成される厚労省の諮問機関、中央社会保険医療協議会において審議され決められます。一方で介護保険の改定は3年に1度おこなわれます。つまり、6年ごとに診療報酬と介護保険の改定が同時におこなわれますが、その際は連携して大きな改定になります。今回は診療報酬の改定のみで、2018年や2024年の同時改定に向けた改定になっています。厚労省は、団塊の世代が後期高齢者になり医療ニーズが最も高まるといわれている2025年に向けてさまざまな改革をおこなっており、今回の改定もそのステップと位置づけることができ、著しく大きな改定はおこなわれていません。
─今回の改定は、どのような点を重視しておこなわれていますか。
杉本 主なものを紹介しますと、まず、医療機能に応じた入院機能の評価が挙げられます。これは患者の評価に見合った入院医療を促すものです。次に、地域包括ケアの推進です。重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるように、医療や介護や生活支援が包括的に確保される体制を目指すものです。3つめはICT活用の推進です。通信技術を活用した医療情報の連携やナショナルデータベースの活用により、救急時の情報共有や医療機関の連携などがスムーズになります。4つめには、がん医療の質を高めることと、認知症患者の適切な治療が挙げられます。認知症は軽度のうちに発見しケアすることで、精神科での治療から地域療養と生活支援へ、という方向になるでしょう。ほかにも小児医療や周産期医療、救急医療の充実などが挙げられます。
─具体的にはどのような点が変わるのでしょうか。
杉本 医療制度を持続可能にするために、効率化や適正化が重視されています。適正化とはつまり、医療費を削減することです。そのために、ジェネリック医薬品の使用促進など薬価の価格適正化、残薬の整理や不適切な重複投薬の防止が進められ、それに加えて今回は長期投薬の制限がおこなわれ、1か月以上の長期投薬の場合はレセプトにその理由の明記が求められます。また、紹介状なしで大病院を受診する場合、初診は5000円以上、再診は2500円以上が自己負担金に上乗せされます。かかりつけ医を大病院での受診の必要性を見きわめるゲートキーパと位置づけ、まずかかりつけ医を受診して必要なときだけ比較的医療費がかかる大病院で受診するようにして医療のムダを省くだけでなく、大病院が外来患者であふれかえっている状態を解消し、大病院の医療資源を重症患者に集中させることも狙いです。また、看護師が手厚く配置されている7:1病床について、患者の医療度と看護必要度を基準に照らし合わせて評価し、基準に達していない場合は医療機関に支払われる看護料が引き下げられます。
─今回の改定で患者負担は増えますか。また、なぜ医療費が増え続けているのでしょうか。
杉本 わが国の医療費は毎年約7千億円ずつ増加し、2013年で40兆円を超えています(図)。厚労省は2015~16年にかけて6千7百億円増加すると予想して財務省に予算要求したのですが、認められたのは5千億円で、医療費の削減は喫緊の課題です。今回の改定率はプラス0・49%ですが、薬価を1.8%引き下げ、トータルでマイナス1・31%に抑えました。ですので、患者負担が増えることはないでしょう。医療費の増加の理由としては、高齢者の増加、医療の高度化が挙げられます。今の医療は日進月歩でレベルが向上する一方、新たな医療器具や新薬は高額です。医療費は患者の自己負担と社会保険料、そして国費でまかなっていますが、いよいよ限界にさしかかっています。医療機関の経営も厳しくなってきていますが、医療制度を持続させるために医師会も尽力していきます。