5月号
Power of music(音楽の力)
第5回
第5回
第六感に雨が降る 『作曲の苦悩と歓喜』
上松 明代
古今東西、多くの作曲家は曲を書き終えこう言う。「閃いた」「何かが降臨した」。この感覚とは一体何だろう?
【第六感】基本的に五感を超えるもので、理屈では説明しがたい物事の本質を掴む心の動きのこと。インスピレーション、直感、霊感のことを指す。
私も駆け出しの作曲家だが、作曲の手順は、形式、テンポ、拍子、調性、楽器編成など楽曲の基本的なことを決めることから始まる。これは拘束条件だ。構想を巡らせ純然な滑り出し。しかしどんな作曲家も必ず経験したことがあるだろう。「メロディーが浮かばない」「展開が上手くいかない」。そう、行き詰まり。焦燥、落胆、自棄。苦悩の一言。自分の無力さを呪い、のたうち回りたくなる。ひぃー。
ドイツの作曲家であるリヒャルト・シュトラウスはこう話す。「畑を当てもなく歩いていると着想が頻繁に湧いてきて、私は直ぐにそれを書き留める。何より大事なのは、着想がたちまち消えてしまわないように直ぐ書き留めること」。これだ!
作曲中の「きたぞ〜!」という瞬間、予期せぬ来客を知らせるベルの音により、一瞬でメロディーが吹っ飛んだこともある。そのくらいインスピレーションは、すばしっこく繊細なもの。いつどのようなタイミングで訪れるものか全く予測できない。この感覚は現在の脳科学でも未解明らしい。
しかし粘り強く諦めず、自分を信じ、時に五線譜から離れ、須磨海岸で海風に吹かれ、六甲山を見上げ、そんなふとした瞬間何かが降臨する。「あ、第六感に恵みの雨が降ってきた」。即座にメモし、続きを一心不乱に書く。フロー状態。あの書けないという苦悩は嘘のように消え、歓喜が訪れる。
これは作曲に止まらず、無から有を生じる仕事の全てに当てはまるのではないだろうか。恵の雨、雨、降れ降れもっと降れ〜。