11月号
出会いと学びの旅から Vol.11
砂漠の中の老人の町(アリゾナ州・サンシティ)
6ヶ月間のシアトル滞在を終えて、私は小さな手提げ鞄一つでグレイハウンドバスに乗り込みました。
アリゾナ州の首都フェニックスで乗り換え、ハイウエイ沿いの白い町サンシティという老人の町を訪れました。この町はNHKテレビで「幸福売ります」というタイトルで紹介されたことがあります。私が訪れたときは人口2万人の町になっていましたが、元はある不動産会社が気候温暖なアリゾナ州に高齢者が集まってくることを知り、広大な砂漠に建売住宅を50歳以上の人たちを対象に販売し始めたのがこの町の誕生であったようです。たまたま見学に町を歩いていたときに知り合ったご夫妻が自宅に招待してくださいました。
元高校の教師であった夫は定年を機に冬の寒い北部からこの町に来て滞在し、夏になると涼しいワシントン州に帰って行くとのことで、購入したサンシティの住宅は冬の間の別荘のような感じでした。ここには中流と思われる高齢者が建て売り住宅を購入して住む訳ですが、こうした高齢者のコミュニティはフロリダ州など温暖なアメリカの各地に生まれつつありました。
「子どもや若者がいない町」は活気がなく、面白みがないのでは、と問いかけてみると、「まったくそんなことはありません。ここにはゴルフ場、野外円形劇場、スイミングプール、ボーリング場、テニスコート、キャンプ場、映画館、さらに様々な趣味のクラブがあり、毎週土曜日の夜にはダンスパーティも開かれます」という。確かに半日いろんな施設を案内してもらったが、暗い印象はなく、ゆったりと豊かな時間が流れている感じを受けました。
この町を見て、うらやましい、と思った一方で、しばらく暮らすと飽きてしまうのではないか、という思いもありました。半世紀後には老いが進み、介護の必要な人や認知症の人たちが人口の多くを占めるようになると、子どもや若者のいない町の風景はどのようになっていくのでしょうか。再度訪問して、どのように町が変化したのかを見てみたいと思いました。
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