3月号
KOBECCOオススメ 〜CINEMA〜
セールスマン
聖書訪問販売から見つめる等身大のアメリカ
60年代アメリカで始まった、ダイレクト・シネマと呼ばれるナレーションのない同時録音のドキュメンタリー映画。その代表格であるフレデリック・ワイズマン(『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』『ボストン市庁舎』)は日本に紹介されて久しいが、ついに同時代に活躍したメイズルス兄弟の作品が公開されるのは非常に嬉しい。本作では、世界最大のベストセラー、聖書を訪問販売するセールスマン4人のボストンからフロリダまでの長旅に密着。巧みな会話で購買を迫るセールスマンに対し、それに負けじと窮状を訴える客たちそれぞれの駆け引きが炸裂する。モーテルに帰れば、その日の成果を共有して戦略を練るはずが、先細りするビジネスに愚痴が溢れる。不景気の波が押し寄せる60年代後半のアメリカを、セールスマンと客たちの日常から見つめるドキュメンタリーだ。
text.江口由美
『セールスマン』 (1969年 アメリカ 91分)
監督:アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
配給:東風+ノーム
元町映画館にて3月18日(土)より2週間上映。
※3月25日から1週間限定で、ジョン・F・ケネディの
親戚母娘の生活に密着したメイズルス兄弟
監督作『グレイ・ガーデンズ』も上映。
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https://www.motoei.com/
©MAYSLES FILMS, INC
いつかの君にもわかること
息子に贈る“新たな家族”探しの旅が始まる
映画を観るきっかけは色々だけれど、この作品はチラシの写真に惹かれた。ベンチに並ぶ2人は何を考えているのだろう。
ストーリーは悲しい。ジョンと息子マイケルは近い将来、離ればなれとなる運命にある。前作でヴェネチア国際映画祭4冠を獲得したパゾリーニ監督は、今作では死にゆくということを観客に問うた。涙を誘うような会話や描写を控え、2人の時間を静かに見守るよう流れていく演出は、観る側のペースで感情を追うことができる。演出で語りすぎないということは、俳優の演技に任せるということ。それに応えた2人の実力がベンチでの表情につながる。
原題は『Nowhere Special』。子の特別な“未来”を願う父の隣で、子は父の“今”を見つめる。子役のダニエルが愛おしい。
text.田中奈都子
『いつかの君にもわかること』 (2020年 イタリア ルーマニア イギリス 95分)
監督:ウベルト・パゾリーニ
キャスト:ジェームズ・ノートン、ダニエル・ラモント、アイリーン・オヒギンス
配給:キノフィルムズ
シネ・リーブル神戸にて3月10日(金)公開。
上映スケジュールはコチラ▼
https://ttcg.jp/cinelibre_kobe/
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