1月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.3
ラジオ番組みたいなふたりのおはなし。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme 今月公開の映画『ミスタームーンライト~1966ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢~』にご出演されていますね。ビートルズとの出会いはいつですか。
松 本 初めて聴いたのは中学3年の時。その日はクラスメイトが、発売されたばかりの日本版『I Want To Hold Your Hand』のレコードを持ってきていてね、とにかく「カッコイイ」って言うもんだから、休み時間にみんなで「早く聴きたいね」って話してたの。英語の時間は、先生がポータブル・プレイヤーを用意してるのね。で、ひとりが勇気を出してツカツカツカと前に行って「先生これかけてください」って。僕が通っていた学校はわりと自由でね。先生がかけてくれたんだよね。「wanna」は「want to」の短縮形だよ、なんて言いながら。
ベンチャーズやビーチ・ボーイズも人気があったけど、僕はそれまで、洋楽だとポップス、ペギー・マーチ『I Will Follow Him』とか聴いてたから、全然違ったよね、『I Want To Hold Your Hand』は。「カッコイイなぁ」って思ったよ。そこにいた全員が思ったはず。先生もね(笑)。学校でビートルズ初体験。まれだよね。
同じ年に公開した映画『THE BEATLES A HARD DAY’S NIGHT』は、東銀座の映画館で、1人で、1日中観てた。2本立てだったから、併演の1本は椅子に横になって休憩時間(笑)。当時はまだ満席になるほどの人気ではなかったんだろうね。僕はまだ楽器も持っていなかったけど、何かを感じてたんだろうね。
楽器を母親におねだりしたのは高校生になってから。仲間とバンドを始めてね。後に「あの時買ってあげなきゃよかった」って言われたけど(笑)。
meme じゃあ、ビートルズで思い入れのある曲と言えば…
松 本 『A HARD DAY’S NIGHT』は印象に残ってるよね…。 ~10数秒の間~
meme 思いが深すぎますね(笑)
松 本 ほんと(笑)。
最初のジャーンっていうイントロの不協和音、もうそこからだよね。ジョージ(George Harrison)が弾いたコードは何だろうとか、混じっている音は?とか、未だにわからなくて、あちこちで議論されてるけど、結局正解はわからない。そこもいいじゃない。
あとは複雑なコーラス。ビーチボーイズもそうなんだけど、ロックバンドであんなふうにコーラスを入れたのはすごいことだよね。彼らの根っこはコーラスだと思う。
meme ジョン(John Lennon)派とかポール(Paul McCartney)派って言い方しますけど、どちらですか。
松 本 僕はジョン派。詞の人だから。でもリンゴ(Ringo Starr)派でもある(笑)。リンゴのドラムはグルーヴがいいんだ。他の人とは全然違う。あんなふうに叩く人はいない。誰にも真似できないよ。リンゴが入る前の音源を聴いたことがあるけど、普通のバンドだった。バンドはドラムで変わるからね。あのバンドは、リンゴが入ったことでビートルズになったんだ。ジョンとポールだけじゃあんなに売れなかったと思うよ。僕はリンゴを高く評価してる。
meme 日本武道館公演の頃にはすっかりビートルズファン?
松 本 その頃はベストテンに5曲くらいビートルズのシングルが入っていて、もう異常な事態でね。高校2年になっていたけど、世間では、長髪だ、不良だ、けしからんってなっちゃってた。僕も熱狂したよ。それでバンドマンになっちゃったんだから(笑)。僕の人生を変えた人たちでもあるよね。ただ、年齢はそんなに変わらないの。筒美京平さんと同じくらい。僕たちの世代は憧れた人が本当に多いよね。
来日公演の年に、渋谷の道玄坂沿いにヤマハ渋谷店がオープンしてね、そこには楽器とアンプがおけるくらいのバルコニーがあって。知り合いが僕のバンドに4曲ほど演奏させてくれたの。道玄坂に向かってのライブは気持ちよかった。数年後にビートルズのルーフトップ・コンサート(1969年にビルの屋上で行われたライブパフォーマンス)があって、僕たちの方がビートルズより早かったっていうのがね、いい思い出(笑)。警官がとんできて注意されたけどね、それもいい思い出。