11月号
絨毯を愛しすぎた男が選んだ
真のペルシャ絨毯との出会いを
永田良介商店創業150周年記念 RUGS&CARPETS FAIR~ペルシャ絨毯~
息を呑むような繊細さのペルシャ絨毯。素朴で愛おしさを感じる遊牧民の絨毯。イランで連綿と続いてきた技と美が、11月24日から1月9日にかけて永田良介商店のアニバーサリーを彩る。永田良介商店に絨毯を納めるラグ&カーペット ティーズの玉木康雄さんと、永田良介商店6代目店主の永田泰資さんに、ざっくばらんに語り合っていただいた。
本物の絨毯を追求して
─ペルシャ絨毯との出会いは。
玉木 元は百貨店の外商で、商材をお客さんのところにお持ちするのですが、その中にペルシャ絨毯があったんです。僕にとってはとっても魅力的でしたが、とってもわかりにくいアイテムだったんです。
永田 どんなところがわかりにくかったんですか。
玉木 高い・安いの差とか。産地も生活の場面で耳にするカタカナにないから覚えにくいんです。仕事は楽しかったのですが、いつしか独立してみたいと思うようになって。もともと良いなと思っていたし、わかりにくいものがわかる方がスゴいですよね。それでペルシャ絨毯を自分のチャレンジする道と決め、イラン人の絨毯会社へ転職して学んだんです。
永田 面白そうな会社ですね。
玉木 1979年のイラン革命で政治亡命して、イランに帰れない人たちだったんです。王族の側近でいろいろな物を持ち出していたので、倉庫へ行ったら正倉院にあるような切子のガラスがあって驚きました。
永田 わかりにくいものがわかるようになった秘訣は。
玉木 僕は凝り性な性分で、いくつも買って研究するのは好きなんです。一般的に流通しているものには目もくれず、もっとレアなもの、もっと古いものを追求していったんですね。
─そしてその後、独立するのですか。
玉木 売上げを追求するのではなく、自分で本物の絨毯を探してそれをみなさまに届けたいという思いで独立しました。テーマとしては「売れても嬉しいけど、売れなくても嬉しい」。
永田 絨毯愛がめっちゃ強いですよね。
玉木 売れる絨毯は「良く見える絨毯」なんですが、良い絨毯、本物の絨毯は、一般の人には本当にわかりにくいものなのですよ。しかも、高い物が良い物とは限らない。だから、絨毯は売るのも買うのも難しいのです。
種類は町の数ほどある
─永田良介商店との出会いはいつ頃ですか。
玉木 阪神・淡路大震災の後にギャラリーを借り絨毯を積んで座っていたんです。そこへ、泰資さんのお父様が入ってきて、「いま絨毯をやっている業者いないから、やる?」「やる!」ということで。
─その後、泰資さんと一緒に仕事をするようになる訳ですね。
永田 お客様のところへキリム絨毯を持って玉木さんと一緒に伺ったんです。僕は1枚売れたらいいなというテンションだったのですが、6~7枚売れて。
玉木 絨毯が「映える」ツボは心得ているので、ここにこの絨毯はどうですかと提案したら感心してくれるのですよ。
永田 もともとリビングの一角に敷くだけの話が、ここにも、あそこにもと提案するうちに増えていって、あらら!と。
玉木 永田さんのお客様は本物を識っている方が多いので、本物ばかりを扱ううちととても相性が良い訳ですよ。
永田 玉木さんのご講話を聞き、ペルシャ絨毯にはこんなに種類があるのか!と思ったんですね。町の数ほど種類があるそうですが、それぞれが全く違うんです。雰囲気も、柄も。
玉木 糸の撚り方も染料も、羊の種類まで違うんです。
品質が高い革命前の絨毯
─イラン革命の前後で絨毯の質が違うそうですが。
玉木 イラン革命で追放されたパーレビ国王は、国の産業としてペルシャ絨毯の復興に力を尽くしました。有望な工房をサポートし、国営の工房まで設置する力の入れようで、最高の材料を用意し、腕の良い職人やデザイナーを養成して、良質な絨毯をつくる環境を整えていたのです。一方、当時のイラン国民は貧富の差が激しく、低賃金で働く絨毯の労働力がすごくあり、良質な絨毯がたくさん制作されていました。革命後はそのような体制がなくなったので、その後質が落ちていったのです。
─質の良い古い絨毯がなぜ手に入るのでしょう。
玉木 イランでは貨幣に信用がないので、お金持ちが絨毯を貯金がわりに資産として保有していたりするんです。
─現地の仕入担当とどのように信頼関係を築いていますか。
玉木 僕は純粋に良い絨毯が好きだから、ほかの日本人と違うなとか、親近感とかを感じてもらって。だからマトモなものが手に入るんだと思います。
永田 いまの現地仕入担当は、玉木さんが集めたライオンラグの展示会で出会ったんですよね。それを見て玉木さんを「マニアック!」と思ったんでしょう。
玉木 それで信頼を得たんだと思います。
手に入れるならいま!
─ペルシャ絨毯をインテリアに採り入れるポイントは。
永田 さまざまな種類があるので、モダンでもナチュラルでもいろいろな雰囲気に合わせられることが魅力ですし、そこが絨毯の面白みなんですよ。意外と和室とも好相性なんです。お部屋が確実にワンランクアップしますね。
玉木 日本では一部の産地や種類しか紹介されていないのですが、実は、知られていない絨毯の中に本当に良いものがあるのですよ。表面的にきれいな絨毯ではなく、「本当に気持ちが入っている絨毯」をご提案させていただきます。
─今後、ペルシャ絨毯はどうなっていきますか。
玉木 少子化などの影響で職人が増えることはないので、安定供給は絶望的かもしれません。手仕事で一結びずつ結んで切っていますから、21世紀の仕事ではないです。だからこそ、いま残っている絨毯に価値があります。
永田 もし制作コストを日本人の賃金水準で換算すると、1枚数千万円になるでしょうね。それが買える金額なのは、いまのうちだけかもしれません。
玉木 例えばこれ1枚つくるのに4年かかりますから、在庫をトータルの時間で表すといったい何人分の人生なんだと。そう考えると責任があるので、みなさまにちゃんと橋渡ししていきたいなと思うんです。
─永田良介商店150周年を記念する絨毯フェアは、どんなラインナップになりますか。
永田 作り手の気持ちが込められた、本物の絨毯をご用意いたします。
玉木 僕が自信を持って選んだ、普段目にすることができないような産地や柄の絨毯をみなさまにお届けしたい。イラン革命以前の、寝かしたワインのような素晴らしい絨毯を、見て触れて、そして踏んでいただきたい。絨毯は踏むためのものですから。
永田 ロングランですから、いろいろと出せるでしょうね。
玉木 途中で入れ替えながらね。ご来店よろしくお願いします。
ペルシャの伝統と芸術美が光る絨毯。州や村ごとに独⾃の紋様があり、⽂化や歴史を感じることができます。世界で最も結びが細かいといわれる名品の数々。ペルシャ絨毯の中でも良作が多いイラン⾰命前の絨毯を中心にご紹介します。
絨毯展第3弾 ペルシャ 絨毯展
展⽰期間:11/24(木)〜1/9(⽉・祝)
11時〜18時
展⽰場所:永⽥良介商店
■永田良介商店
電話:078-391-3737
神戸市中央区三宮町3-1-4
11時~18時
定休日 水曜日・第1第3第5火曜日
https://www.r-nagata.co.jp